多数のブラックベアー
『グラアアアアアアア!!』
「く……。また叫んだ。今回はさっきよりも強い気がする」
「あれはブラックベアー特有の咆哮にゃ。きっと冒険者達が戦っているのにゃ」
「なるほど、急がないといけませんね。レクー、速度をもう少し上げれる?」
「分かりました。体勢を下げるので、身構えてください」
レクーは首を下げてさらに前に突き出した体勢を取る。
そのお陰で速度はどんどん加速して行った。
「ニャー! このバートンやっぱりすっごい速いのにゃ! 今まで乗ったバートンより凄いのにゃ」
「トラスさん、あんまり喋ると舌を噛みますよ」
「ニャーは大丈夫なのにゃ。そこら辺にいる新米冒険者とは経験が違うの……」
『ガジッ!』
「にゃーー!! 噛んだのにゃーー!!」
「だから言ったのに……」
トラスさんは噛んでしまった舌を風にさらし、冷やしていた。
その時……。
『ドゴンッ!!』
「!!」
「!!」
大きな爆発音が聞こえてきた。
私の視界の先には黒煙が立ち昇っている。
「キララ様、どうやら本格的に始まったみたいです」
――爆発音は冒険者さんが攻撃したの?
「そのようです。どうやら、ブラックベアーは巨大なブラックベアーだけではないようです」
――あの巨大なブラックベアー以外の個体がまだいるなんて、嘘でしょ……。ベスパ、ほんとなの?
「はい。領主もキララ様と同じようにブラックベアーを複数体使役できるとすれば、何らおかしくありません」
――で、でもさぁ……、ビーとブラックベアーじゃ力の差がありすぎるじゃん。ちょっと理不尽すぎるんじゃないの。
「仕方ありませんよ。スキルなんですから」
――それを言ったらおしまいだよ……。
「キララちゃん。どうかしたのかにゃ?」
「トラスさん。どうやらブラックベアーはあの巨体だけではないようです」
「にゃるほど。でも、大丈夫にゃ。ニャー達のバルディアギルドの冒険者たちは結構強いのにゃ。普通のブラックベアーなんかに簡単に負けたりしないのにゃ」
「そうだといいんですけど……」
私はブラックベアーによるトラウマを3つ持っている。
この世界が地球じゃないと気づいて数日後の初対面。
闘技場での狂気に満ちたブラックベアーに殺されかけた2回目。
ドロドロで超巨大なブラックベアーのアンデッドに殺されかけた3回目。
ブラックベアーに係わるとろくな目に合わない。
きっと今回もそうだろう。
でも、今回は他の回とは違う。
私からブラックベアーのもとに向っているのだ。
トラウマは今も健在。
されど、やらなければならない。
――この街の人たちを守るためには人手が必要なんだ。それが例え子供の力だとしても。
そう心に言い聞かせて、私は突き進む。
『グオオオオオオオ!!』
――で、でも……。やっぱり怖いよぉおおお!!
私は心の中で叫ぶ。
声に出して叫んでいれば、きっとブラックベアーの咆哮以上の大声を放っていただろう。
レクーは領主邸に向って一目散に駆けた。
「キララ様、こっちです!」
ベスパは大通りから外れ、細い路地に進路を変更した。
――レクー、ベスパを追って!
「はい!」
ベスパの先行により、レクーは領主邸までの最短の道を駆け抜ける。
レクーは体すれすれの細い路地など当たり前のように駆け抜け、何枚か木の壁をぶち破り、建物の屋上を走った。
普通の道を走った方が近道の気もする。
どう考えても人を乗せたバートンの走っていい場所じゃない。
今おもったが、どう考えても猫が通る道だった。
「キララ様、もうすぐ領主邸が目の前に現れます!」
――分かった。
「トラスさん、もうすぐ領主邸に着きます。心の準備をお願いします!」
「分かってるにゃ。もう、血みどろの臭いがぷんぷんしてるのにゃ! ブラックベアーの血だといいんだけどにゃ……」
トラスさんは髪の毛を逆立て、気を引き締める。
「キララさん、抜けます!」
私達は最後に細い細い路地を抜け、大きな道に出た。
目の前に現れたのは大きな屋敷と多数のブラックベアーたち。
大きな屋敷は鉄格子のような策で囲われており、その周りをブラックベアーが守っていた。
私が見渡したところ多分、指の数よりも多い。
1頭に5人じゃ賄いきれず、冒険者達は1頭に3人ほどで戦っていた。
奥に見える屋敷の上に巨大なブラックベアーが今か今かと鎮座している。
「な、何でこんなに……。さすがに多すぎなんじゃ……」
私は言葉を失い、ブラックベアーと戦う冒険者達を見つめていた。
『グラアアアアア!!』
「くっ!」
ブラックベアーの叫びをまじかで聞くと、私は耳を塞がずにはいられない。
屋敷に座っているブラックベアーが天に向って咆哮を放つと、周りのブラックベアーたちも吠えた。
『グラアアアアアアア!』×ブラックベアー達
冒険者さん達は周りのブラックベアーたちを抑えるので精一杯らしく、領主邸の中にすら入れていない。
「おっらああああああ!!」
『グラアアアアア!!』
「ドルトさん!」
ドルトさんは一頭のブラックベアーに大斧を振りかざし、胴体に大きな裂き傷を入れた。
ブラックベアーの胴体はスパッと割かれて大量の黒い血が吹き出し、傷口から腸が垂れだす。
「キララ嬢! 予想よりもブラックベアーたちの数が多すぎる! まだあの巨大なやつも残ってる。いつ動き出してもおかしくない。非戦闘員はいったん離れた方がいい!」
ドルトさんは、1人でブラックベアー一体を賄っている。
ドルトさんの目の前にいるブラックベアーはもちろん倒れることなく立っており、大柄のドルトさんが子供かと思うほどの大きさだった。
どのブラックベアーも体調はきっと3メートルを超えている。
重さも400キログラム以上あるだろう。
そんな化け物と人が戦ってどうにかなるのかと思っていたが、意外にも押している。
「おらああ!!」
「割けろや!!」
「冒険者舐めるんじゃねえぞ!!」
筋骨隆々な冒険者達が剣や斧、槍などをブラックベアーたちに浴びせていく。
地面が黒い血に染まっていくが、倒れているブラックベアーは一頭もいない。
『グラアアアアアアア!!』
ブラックベアー達は傷を受けても痛みを感じていないのか、退避する素振りすら全く見せず、冒険者達に襲い掛かる。
「ぐああっ!」
『ドガッッツ!』
冒険者の1人がブラックベアーの突進を受け、弾き飛ばされる。
冒険者はレンガの壁に衝突し、壁が崩壊して下敷きになってしまった。
――ベスパ! あの人を救出して!
「了解です!」
ベスパを含めた数匹のビーがレンガに埋もれた冒険者さんを持ち上げてリーズさんの病院がある方向に飛んで行く。
「くそ。こっちは1人でも減ると痛いってのに……。こいつら、1頭も倒れないとかどうなってるんだ。魔石を壊してないとは言え、攻撃の手が緩んでもいいはずだろ……。ん? おいおいおい、嘘だろ」
ドルトさんと対面していたブラックベアーは既に大量の切り傷で四肢が切り取られていた。
それにも拘わらず、ブラックベアーの体は動いている。
見るからに傷が再生し、四肢が生えそろってきていた。
「ブラックベアーが撃たれ強いのは常識だが、無くなった腕が再生するのは非常識だろ!!」
『グラアアアアアアア!!』
「くっ!」
四肢を再生したブラックベアーはドルトさんに襲い掛かる。
真っ黒な巨体が、ドルトさんの真正面から突進した。
「舐めるなよ、おらああ!!」
『グシャッツ!』
ドルトさんの持っている大斧がブラックベアーの頭蓋骨を地面に叩きつけながら粉砕し、地面に罅を入れる。
「頭を潰せば……さすがに……」
「ドルト! 油断するにゃ! そいつら、頭ぶっ潰しても動くのにゃ!」
『グ……グラアアアアアアア!!』
「嘘だろ!!」
ブラックベアーは一瞬の硬直を見せたが、頭部を再生させた。
そのままドルトさんの大斧を、上半身を持ち上げる反動で真上に弾き飛ばす。
胸の開いたドルトさんは防御する対抗策がなく、目の前に突進する構えを取ったブラックベアーの的になった。
「ドルト! 体勢を立て直すのにゃ!」
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