超軽装備
――私、ドルトさんが思っているほど精神が強くないと思うんだけどな。
「ドルトさん。私を買いかぶり過ぎですよ」
「いや、キララ嬢は凄い。普通の少女だったら、あんな巨大なブラックベアーに立ち向かったりしないだろ」
「そうですけど……」
――確かに、あんなに大きなブラックベアーに立ち向かおうとするなんて普通あり得ない。でも、私は動けてる。なんでだろう。
私は考えた。トラウマになっているブラックベアーに立ち向かえる理由を。
考え始めて一番に浮かんだ理由は子供達だった。
ボロボロな教会に住んでいる子供達を思い出して、私は行動していたと今、やっと理解した。
――あぁ、そうか。守るものがあるから戦えるんだ。私は街の教会にいる子供達を守りたい。ラルフさんやレイニーたちを助けるために戦おうとしているんだ。自分の命よりも他人の命を守りたいだなんて……。私も結構お人よしだな。でも、そんな自分が誇らしく思える。
「キララ様の命は私達が守りますから。心配しないでください!」
ベスパが発光しながら私の頭上で停止する。
――ベスパやビー達に守ってもらうのは不本意だけど、いざとなったらとことん助けてもらうよ。働き過ぎで過労死しちゃうくらいこき使うから、覚悟して。
「もちろんです! 今現在使用できる私達の力を持ってキララ様をどのような場面からでもお助けします!」
ベスパの言葉に嘘偽りはなく、何気に頼もしかった。
「それで、ドルトさん。冒険者さん達はまだ集まっているんですか?」
「チラホラと集まってきているがあまり期待はできないな。多くの冒険者が街から出て仕事をしているから、きっとこの街に残っている冒険者はあまり多くないだろう」
「そうですか。それじゃあ、この人数で何とかして倒さないといけませんね」
私はバルディアギルド前に集まっている冒険者さん達を見回す。
冒険者さん達は騎士達とは違い、全く恐怖していなかった。
魔物討伐が本業なだけあって肝が据わっている。皆、凛々しい顔つきでカッコいい。
「そうだな。この人数で倒せるかどうか実際分からない。今、俺が考えたのはブラックベアーを足止めして、操っている犯人を倒すという作戦だ。あれほど大きなブラックベアーはさすがにいないからな。何者かが関与していないと不自然だろ」
「やっぱりそうなりますよね。人数が集まらないんじゃ、倒しようがないですし、足止めの方がまだ、人数が少なくても機能すると思います」
「ああ、俺達はなるべく戦わず、ブラックベアーの消耗を誘う。攻撃できるときは行い、深追いは避ける。きっと無理に攻めないという守りの姿勢が大切になってくるだろう」
「分かりました。攻撃の指示はドルトさんにお任せします」
「了解した」
私がドルトさんと話し合っていると、猫耳をぴくぴくと動かしているトラスさんが走りながら戻ってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ……。街中を走り回って見つけた冒険者達には、声を掛けて来たにゃ……。ランクは問わず、冒険者であればどんな職種でも構わないと言ってるのになかなか集まらないのにゃ」
トラスさんは膝に手を置き、呼吸を整えながら喋った。
「まぁ、怖いですよね。あんな化け物と戦えって言われても」
――実際、私も心臓が飛び出そうなくらい怖い。
「冒険者になったのだから、怖い相手と戦うなんて当たり前なのにゃ。逃げてたら全く強くなれないのにゃ。こんな絶好の成長機会は中々ないのにゃ」
「トラスさんの言うとおりだ。冒険者は逃げてばかりじゃ絶対に強くならない。強敵が相手でも立ち向かっていく勇気がなければ、冒険者のランクを上げるのも難しい。Sランクは強力なスキルと才能がほぼ必要だが、Aランクまでは自分たちの努力次第で到達できる」
「そうにゃ。せっかく今回の依頼を受けてくれたら報酬とランクの両方を上げてあげると言ってるのに、断るにゃんて……。最近の若い者は強くなろうとする意識が低いのにゃ」
――トラスさん……、なんか年寄り臭い発言をするんだな。もしかして、あの見た目で歳が結構行ってたりして。いや、さすがにないか。
「キララ様。そろそろ向かわないと危険かもしれません。ブラックベアーの様子がおかしいです」
――ほんと。何が起こっているか分かる?
「それは分かりませんが先ほどの叫び声の意味を解釈すると『腹が減って仕方がない、早く何かを食べさせろ』と言っていました。もしかすると、領主は飢餓でブラックベアーを暴走させる気なのかもしれません」
―― 一番嫌な状況じゃん。早く移動しないと街の人たちが危ない。
「トラスさん、ドルトさん。そろそろ向かいましょう。ブラックベアーが暴走する寸前のようです」
「分かった。移動しよう」
「冒険者のみんにゃ! 今から、領主邸に向って欲しいのにゃ。戦闘はなるべく避けて、足止めの罠や魔法を張り巡らせて置いてほしいのにゃ」
「了解!!」×冒険者達
ギルドの周りにいた冒険者さん達は皆、バートンや魔法で移動していく。
「それじゃあ、俺達は領主邸に先に行って皆の指揮をとってくる。トラスさんは戦闘、キララ嬢は援護を頼む」
「了解なのにゃ。ニャーは指揮するのが苦手だから全部、ドルトに任せるのにゃ」
「トラスさん……。出来れば、俺の指示にちゃんと従ってくださいね……」
「大丈夫なのにゃ。もう、あの時みたく突っ込んだりしないのにゃ」
ドルトさんは何か苦い経験でもあるのか、顔を顰めており不安そうだった。
だが、トラスさんが終始笑顔でドルトさんの背中をバシバシと叩いて気合いを注入していたのでしだいにやる気に満ちた表情になる。
「じゃあ、行ってくる!」
ドルトさんはバートンに乗り、領主邸に向っていった。
「ニャーもすぐ行くからすぐ死ぬんじゃにゃーよ!」
トラスさんはドルトさんに向って叫んだ。
「トラスさん、ドルトさんと仲いいんですね」
「まーにゃ。ドルトが赤ん坊のころから知ってるのにゃ」
「え……。ドルトさんって何歳なんですか?」
――あの顔なら、35歳くらいかな。いや、もっと若いと考えて30歳くらいか。
「18歳にゃ」
「!!」
「キララちゃん知らなかったのかにゃ?」
「し、知りませんでした」
――嘘だぁ……。あの顔と風貌で18な訳ないでしょ。でも、トラスさんが言うのならほんとなのかも。でも、ドルトさんが赤坊の時を知っていると言うことはトラスさんは18歳以上と言うことになる。20歳は確実に超えているのか。
「トラスさん。私達も向かいましょう」
「分かってるのにゃ。でも、この服じゃちょっと動きにくいのにゃ。着替えてくるからちょっと待っててにゃ」
「わ、分かりました」
トラスさんはメイド服を着ており、所々破れて足に掛かっている。見るからに動きにくそうだった。
その状態のままバルディアギルドの中に入っていき、数分してからトラスさんは出てきた。
「にゃ~、この服も久々に着るのにゃ~」
「す、すごい服装ですね」
トラスさんは露出魔と間違われないかと思うほど、布面積の少ない服を着ていた。
マイクロビキニと言うべきその服は、極限まで動きやすさを追求した軽装備になっている。
元から大きな胸が中央に寄っており更に強調されて、羨ましいったらありゃしない。
細く長い猫の尻尾が空気を混ぜるようにうねうねと動いており、耳も少し揺れている。
極限まで体の肌を曝しているため、首についている鉄製の首輪が逆に厭らしさを増大させていた。
「えっと、ほんとにその服装で戦うんですか?」
「そうにゃ。これがニャーの戦闘服なのにゃ。獣人族は強靭な肉体と敏感な危機回避能力を持っているのにゃ。その分、魔力はほぼないんだけどにゃ。獣人族の特徴を一番発揮できるのがこの超軽装備というわけにゃ。肌を露出させて、空気の振動を読み、敵の攻撃を未然に察知できるのにゃ」
「そうなんですか……」
「そんなに、じろじろ見て、着てみたいのかにゃ? 良かったらキララちゃんも着てみるかにゃ」
「絶対に遠慮しておきます」
私とトラスさんはレクーの背中に乗って領主邸まで向かった。
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