恐怖心の対処法
「私、皆みたく強くないし……。お父さんとお母さんが人質に取られてるっているのに、動こうとしても体の震えが止まらなくて上手く動けない。こんな状態で助けに行ったら、私が死ぬかもしれない。それがたまらなく怖いの……。情けないのは分かってるけど、怖くて怖くて、足の震えが止まらないんだよ……」
――どうしよう。ロミアさんの気持ちも分かる。強い、強くないと言った自信の問題じゃない気がするんだよな。恐怖から来る、精神の異常は簡単に取り払えない。なら、どうしたら精神を安定させられるだろうか……。
私は過去の耐えきった恐怖体験を思い出し、改善策を模索する。
――私が怖い映画を見ていたときはどうしてたっけ。あ、そうだ……温かい飲み物で体を温めてた。そうしたら心が少し温かくなって恐怖が和らいだっけ。もし、ロミアさんの心が冷えてるなら、体の体温を上げて恐怖心を和らげてもらおう。そうと決まれば、私にはとっておきの飲み物がある。
「ロミアさん、まだ何も食べてませんよね?」
「え……。そう言えば、昨日の夜から何も食べてない」
「やっぱり。なら、お腹を満たさないと元気も湧いてきませんよね。心が沈むのも仕方ありませんよ。皆さんも食事を用意しますから少し待っていてください」
「え、キララちゃん。時間がないんじゃ」
「お腹が空いていたら戦えませんよ。いざという時に空腹で力がでなかったらどうするんですか。食は大切なんです!」
「は、はぁ……」
――ベスパ、今すぐ牛乳とビーの子、チーズを荷台から、黒パンと干し肉を街のお店や屋台から4人分持ってきて。あと、牛乳を温めるために使う鍋と注ぐコップも一緒にお願い。出来たら、4人で囲めるくらいの食卓も用意して。
「了解です! すぐお持ちします」
ベスパは荷台のある方向に飛んでいく。
ほんの数分後、ベスパとビー達が空中を移動してくる。
「キララ様、お持ちしました。食卓はこれくらいの大きさでよろしかったですか?」
ベスパは卓袱台程度の食卓を持ってきた。
――うん。それでいいよ。
私はベスパから食卓を受け取り、その軽さに驚く。
本物の木でできていれば結構重いはずなのだが、プラスチックで作られた食卓の重量に感じた。
「よいしょっと。皆さん、集まってください。今からここに食事を出しますから、焦らずしっかりと噛んで食べてくださいね」
私は食卓を地面に置き、4人を招く。
卓袱台なので、食べ物は地面に座りながら食べてもらうしかない。
食材を持ったビー達が食卓の上に私が頼んだ物を並べていく。
しかも、食材を4人分に分けて皿に綺麗に盛り付けていた。
私が命令したわけではないので、きっとベスパのはからいだろう。
私はすぐさま牛乳を鍋に入れて温める。
『ファイア』を鍋の底から直火で当てて沸騰しない程度に熱した。
「よし。湯気が立ってきた。これくらいで十分だね」
私は『ファイア』を止め、温めた牛乳を木製のコップに注いでいく。
食卓に牛乳の入ったコップを4個運び、4人の手もとに置いていった。
「す、すごい。ほんとに食事が並んだ。即席なのに凄く美味しそう」
「時間が掛かるので温かいスープはあまりありません。温かい牛乳で我慢してください。それぞれの食材の風味を味わいながら食べてくださいね。しっかりした味がないので……」
「ありがとう、キララちゃん。それじゃあ、いただかせてもらうよ」
トーチさん達は祈りを捧げてから、黒パンに手を伸ばす。
皆、お腹が相当空いていたのかすぐに完食してしまった。
ロミアさんは温かい牛乳を吐息で冷ましながら少しずつ口に含んでいく。
「ぷふぁ~、すっごく落ちつく~。なんかこの状況、実家にいるみたい~」
ロミアさんはさっきの緊張した顔が嘘かのように微笑んでいる。心の緊張がとれたみたいだ。
「どうですか、ロミアさん。さっきまでの不安は少し減りましたか?」
「うん。すっごく楽になったよ~。ほんとに温かい飲み物を飲んで、ちょっとした物を食べただけでここまで気持ちが落ち着くなんて思わなかった~。まだ怖いけど、一歩を踏み出す勇気が出てきたよ。ありがとう、キララちゃん!」
「それなら良かったです。皆さんも元気になったみたいですね。さっきよりも表情が明るいです」
「すっごく美味しかったし、心が安らいだからかだと思うわ。今なら……」
フレイさんは右手を握りしめ、何か決意した表情を浮かべていた。
「そうですね。私も体が温まって気持ちが上がりました。今なら男性の騎士にも勝てそうです」
マイアさんは自信満々に立ち上がる。
「騎士団の料理よりも美味い。これなら毎日の訓練でも耐えられそうだ」
トーチさんは体を伸ばし、筋肉の緊張をほぐしていた。
――他の3人にも好評で何より。やっぱり食事は偉大だ。
「よし、皆。今からドリミア教会に向う。何があるか分からない。でも、人質を必ず奪還し、ブラックベアーの脅威から街を守るぞ!」
「了解!」×3
トーチさんは他の3人を鼓舞し、まとめ上げる。
「それじゃあ、キララちゃん。私達はドリミア教会に行ってくる。その間、ブラックベアーをよろしく頼むよ」
「はい! 任せてください! 絶対にドリミア教会の方には向かわせませんから!」
「はは、頼もしいね」
トーチさん達は、ドリミア教会の方へ駆けて行った。
「ふぅ……。あの4人が無事に帰って来てくれるといいけど、まだどうなるか分からないよな」
「キララ様、問題ありませんよ。あの4人の体にはキララ様の魔力が与えられていますから、そう簡単には死にません。キララ様の与えた魔力が減少していなければ、腹部を槍で貫かれでもすぐ回復するはずです」
「何それ……。もう人じゃないじゃん」
「それほど、身体が強化されているんですよ。体の自動再生機能が傷を塞ぐんです」
「なんでそんな凄い魔力を私の体には使えないのかな……。凄く損している気分だよ」
「心配いりませんよ。もしキララ様の体が欠損した場合、私が埋め合わせになりますから」
「…………」
私はお腹を貫かれた時、ベスパの体が私のお腹から飛び出しているのを想像して吐き気がした。
「止めておこうかな……」
「なんでですか!」
「ちょっと気持ち悪いから」
「もしキララ様の身に何かあったら、キララ様の心情関係なしに処置しますからね!」
ベスパは瞳を赤くして怒る。
「わ、分かったよ。その時はよろしくね」
「はい! お任せください!」
私は『ファイア』を卓袱台に打ち込み、皿やコップなど全てを燃やして後片付けをした。
「よし! 私達はギルドに向おうか」
私達はグラウンドを離れてレクーのもとに向おうとした。
その時。
「ふぁ~~。あ、あれ、なんか街がおかしくなってるんだが。いったいどうなっているんだ?」
騎士団の基地の出口から、私の知っている人物が出てきた。
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