質のいい魔力の滝
「さすがです、キララ様。先ほど魔法陣を展開された時よりもさらに洗練された魔力です。やはりキララ様の魔力の質は素晴らしいですね」
――別に褒められても、嬉しくないけど……。成長は自分でも感じているよ。それはちょっと嬉しいかな。
私はブロンド色の長い髪がふわふわと浮き始めるほど魔力を練り上げた。
金色にも似た眩い魔力が放射状に広がり、薄暗い部屋を照らす。
「な、なんか……。凄く神々しいですね」
「ああ……。凄いな」
「私、こんな色の魔力見たの初めてだよ」
「神官様がこんな感じの魔力を放ってたような気がするけど、その時よりも遥かに色が綺麗だわ……」
「ふぅ……。今、私のできる限り、魔力を練り上げました。魔力が皆さんの頭上から降り注ぐはずなので、身構えてください」
「りょ、了解」×マイア、トーチ、ロミア、フレイ
――ベスパ、私だけじゃ魔力を練りに練った状態から魔法陣の展開をするのは結構難しい。だから、鉄箱の上に魔法陣を展開してくれる。
「了解です」
ベスパは鉄箱の真上に向い、光り輝く。
「魔法陣『展開』」
ベスパは短い手を真下に向けて魔法陣を出現させた。
――練り上げた質のいい魔力をベスパに送るから通常の魔力と織り交ぜて量をできる限り増やして。
「了解」
「それじゃあ……、皆さん行きます!」
私は質のいい魔力をベスパに送る。
それと同時にベスパの展開している魔法陣が光だし、神々しい色の魔力が滝のように鉄箱に降り注いだ。
「あばばばばばばば!」×4人
4人の声が魔力によって掻き消され、よく聞こえない。
魔力の滝は1から2分程流れた後、魔法陣の消滅と共に消えた。
「はぁ、はぁ、はぁ……。ど、どうですか、皆さん。動けますかね」
私は両手を膝に置いて前かがみになっている。
こうしないと体を立たせているのすら難しい。
――魔力の使い過ぎが続いているせいで、疲労が溜まってきたのかな。まだ、戦いが控えているのに……。
『ガッシャン!!』
大きな金物が倒れる音が私の鼓膜にとどく。
「え……。鉄箱が倒れた」
私は下を向いていたので前の方を見る。
「な、何ですかこれ……。体が光ってるんですけど」
マイアさんは自分の体を見回した。
「そうみたいだな。あれだけの魔力を浴びたら、少しは沁み込むと思ったがここまで、体に取り込まれるなんて思ってもいなかった。今の魔力の質的に『付与魔法』と一緒なんじゃないか」
トーチさんは光っている自分の腕を見ていた。
「うわ~! 体かっる~! なにこれ、今なら男の騎士でも倒せそうだよ!」
ロミアさんはその場で飛び跳ね、体の軽さを表している。
「ほ、ほんとね。試しに鉄箱を殴ってみたけど、あっちがぐしゃぐしゃになってるし」
フレイさんは私に背中を向けており、遠くには拳型が残っている鉄箱は大きく拉げている。
私の目の前にいた4人は体から神々しい魔力を放っていた。
光を反射するラメでも付けているのではないかと錯覚するほど全身がキラキラと輝いている。
ベスパの発光がなくても地下全体が一望できるほど明るく光っていた。
――ちょ……、ベスパ、あれどうなってるの。魔力を上書きするだけだったんじゃないの。なんか、4人が輝いているんだけど。
「なるほどなるほど、質の良い魔力を大量に浴びせると、あのようになるんですか。全く知りませんでした」
ベスパは腕を組み、4人をまじまじと見つめている。
――知らなかったって。もし、あの状態が悪い影響を及ぼしていたらどうするの。
「問題ありませんよ。キララ様の放った魔力には害悪な要素が全くないですから。どれだけ浴びせても、体に害はありません」
――それなら、いいんだけど。でも……、ちょっと光りすぎじゃない。
「分かった。この動きやすさ『身体強化』を使っている時と同じだ。いや、それ以上に動きやすい。自分自身の魔力を使っている訳じゃないからか。その分。攻撃に魔力を回せる……」
トーチさんは顎に手を置き、何かをブツブツと呟いていた。
「えっと、すみません。遅れたんですけど、何であの鉄箱の中に入っていたんですか? 誰でもいいので教えてほしいんですけど」
「ああ、説明する」
トーチさんは説明を忘れていたかのような表情で私の方を向いた。
「昨日、私達は地下の掃除当番だった。日中に遊び惚けていた私達は掃除をすっかりと忘れていた。さすがにゴミが溜まりやすい場所だからな。1日掃除しなかっただけで教官にばれる。そう思った私達は午後8時頃に掃除をしようと決め、ここまでやってきた。ここまでは理解できたか?」
「はい……。掃除を忘れてたあなた達が悪いとしか今のところ言いようがありませんね」
「ここからが本題だ。あまりにもここが広いから掃除が全く終わらなかった。午後10時頃になっても終わってなかったと思う。半ば泣きながら掃除をしていた。その時、何者かが地下に訪れてきた。私達は教官が来たのだと思い、慌てて隠れた。その場が……あの鉄箱の中だったんだ」
トーチさんは拉げている鉄箱を指さす。
「はぁ……。隠れた場所が罠だったと……、何とも情けないお話ですね」
「確かにな。それは認める。だが、入ってきた者の会話を聞き、私達は度肝を抜かれたんだ」
「多分、教官と領主ですよね。ここに来たの……」
「え? なんでわかったの……、キララちゃん」
マイアさんは、先ほどよりも目を丸くして私を見てきた。
「教官に聞きました『領主と昨日会っていたんだ』と。でも内容は聞いてないので、聞かせてもらってもいいですか?」
「あ、ああ……。『お前達、騎士団の家族や恋人を人質としてドリミア教会に閉じ込めた。もちろんそいつらには、ドリミア様のために祈ってもらっているだけだが、お前たちが明日、少しでもおかしな動きを見せたら、ドリミア様の生贄になってもらう』と領主が言ったんだ。私達の家族も人質に捕らわれているかもしれない。すぐにでも助けに行かなければ、ならなかったんだ。だから、助けてくれてありがとう、キララちゃん。今から、教官を説得させに行ってくる!」
トーチさん達はさっきの騎士達とは違い、凛々しい顏のまま闘志を燃やしていた。
――昨晩から鉄箱の中にずっと閉じ込められていたから、今の状況を知らないんだ。街を見て呆然しちゃう前に現状を教えておかないと。
「皆さん聞いてください。今、街は危険な状態にあります」
「え……。キララちゃん、どういう意味?」
フレイさんは首をかしげながら、私に聞いてくる。
「そのままの意味です。街に出る前に心の準備をしておいてください。外に出たら詳しく説明します」
「わ、分かったわ」
――ベスパ、あの大きな魔造ウトサだけど、運び出せる?
「あれを運べるだけの出入り口がないので難しいかもしれないですね」
――だよね。それなら、ディアたちにここで食べてもらおうか。
「その方が手っ取り早いかもしれません。量も多いですし、ブラットディアを出来るだけ呼んだ方がよさそうです」
――分かった。ディア、ここに結構大量のブラットディア達を呼べる?
「はい!! もちろんです!! すでにこの部屋の中にも多量の仲間が潜んでいます。外からも呼び寄せれば、あれくらいの量はすぐになくなりますよ!!」
――そうなんだ。それじゃあ、ディアはブラットディア達を呼び寄せて。ベスパは集まったブラットディア達に命令を出して、纏めてあげて。私は4人と一緒に地上に向う。
「分かりました!!」
「了解です」
「皆さん、今からこの場が黒く染まりますから、苦手な方は目を瞑っていてください」
「え……?」×4
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