箱詰めされた4人の女騎士
「では! 進行する。第一部隊長、魔法『透明』を使い、皆を一定の距離から見えなくせよ」
「は!」
男性騎士が一瞬光ると、私の目の前にいたはずの騎士たちは消えた。
「皆、消えた……」
「いえ、ちゃんといますよ。今は魔力で光が歪んでいるみたいです。私達の使う『光学迷彩』と同じような効果ですね。私達は翅を使いますが、さっきの方は魔力を使うようです」
――なるほど……。だから見えなくなったんだ。
「皆の位置は第一部隊長が把握している。常に団体行動を乱さず、最短距離でドリミア教会まで移動する。では行くぞ!」
「了解!」
誰もいないのに大きな声がグラウンドで響き、私は一瞬驚いてしまった。
騎士達とトラスさんは騎士団の基地からいなくなり、私だけが大きな建物の前にいる。
「さてと、残った4人の女騎士を連れ出さないとね。ベスパ、隠れている場所に案内して」
「了解です」
ベスパは私の前を飛び、先導した。
「皆はどこにいるの?」
「地下倉庫です。丁度、魔造ウトサもそこにありますから、ついでに持ち去りましょう」
「あ……そうだった。ブラックベアーに頭が塗りつぶされて魔造ウトサの件を忘れてたよ……。持ち去る方が本題だった」
「キララ様は大分おっちょこちょいですね」
「身の毛のよだつ怖い思いしたら誰だって記憶の一部分くらいなくなるでしょ。私の無くなった記憶の一部が魔造ウトサだっただけ。おっちょこちょいじゃないよ」
「魔造ウトサを忘れるのは、どうかと思いますけどね……」
「記憶を失うほど2頭のブラックベアーが怖かったの。もういいでしょ、早く案内して」
「分かっていますよ。あと少しで着きます」
私はベスパのにやついた顔に苛立ちながら、ついていく。
「キララ様。ここの階段を下ってください」
「ここ?」
ベスパが指定したのはあまりにも細い階段。
子供でやっと普通に通れるほどの隙間しかない。
よくこんな所を見つけたなと言いたくなるほど狭い。
部屋と部屋のつなぎ目を上手く階段にしてあった。
本当は閉められるみたいだが、今はなぜか開いている。
「この先にいるんだ。地下にまで逃げるなんて相当怖かったんだね」
私は階段を一歩一歩下りていく。
「ベスパ、辺りが暗いから照らしてくれる」
「了解」
ベスパは体を発光させ、辺りを照らした。
「これでよく見える。この建物は、何で出来ているんだろう。木じゃないし、レンガっぽくもない。コンクリートでも使ってるのかな。さすが騎士団の建物。お金がかかってる」
私は階段をどんどん下っていくと、階段がなくなり平らな床になった。
そのまま一本道を進んでいくと、鉄製の扉を発見する。
「あれ、扉が開いてる……。まぁ、鍵を無理やり開けなくて済むから好都合かな」
私は開いている扉をさらに押して部屋の中に入る。
「うわぁ、ひっろ~い。私達の倉庫より全然広いよ。建物の地下を全部倉庫にしちゃったみたい」
その場には大量の物資が積み込まれていた。
黒パンや小麦、乾パン、干し肉などなど。
その中で異様な存在感を出している大きな袋が5袋あった。
「いや、大おきすぎるでしょ。これぜんぶ魔造ウトサなの……」
私が両手を広げても全く足りない。
直径4メートルほどの袋が横に並べられており、どうやって運んだのかと私は疑問に思う。
「キララ様~ こっちです」
「分かった」
ベスパは掃除用具入れのような鉄製の箱上で8の字を描きながら飛んでいた。
「そんな所に4人も入れるの?」
私の目の前にあった鉄製の長箱は普通の用具入れと大きさはそれほど変わらない。
「え~っと。中に誰かいますか~」
私は生死を確認するために声をかけた。
「だ、誰もいませ~ん」
「…………」
私は容赦なく鉄製の薄い扉を開けた。
「これはまた……。綺麗に収まってますね」
女騎士4人は鎧ではなく運動する用の動きやすい服を着ており、箱の中に詰まっていた。
「なんでこんな所にいるんですか? マイアさん、トーチさん、ロミアさん、フレイさん」
「え……。キ、キララちゃん。どうしてここにいるんですか」
マイアさんは私を見て、目を丸くさせていた。
「それは私の質問です。早く答えてください」
「え、えっと。色々訳あって、こうなっていると言いますか」
「そんな説明じゃ全く分からないですね。具体的に言ってもらえますか? とりあえず、箱の中から出てください」
「それが……、出られないんだ。体が全く動かないんだよ」
トーチさんは体を動かそうと必死になっている。ただ、1ミリも動いていない。
「動けない……。それはどうしてですか?」
「多分、この鉄の箱が罠だったんだ。この中に入った者を拘束する魔法が掛けられている。そのせいで全く動けない」
――ゴキブリホイホイみたい。この場所に来て、誰かに気づかれそうになった時、鉄の箱に隠れようと人が入ると捕まっちゃうなんて。結構考えられた罠だな……。
「うわぁ~ん! キララちゃん、助けて~!」
ロミアさんは情けない声を上げながら、泣き始めた。
「ちょ、ロミア。泣かないでよ、みっともないわね!」
フレイさんはロミアさんに怒鳴る。
「う~ん。私、魔法の解除方法なんて知らないですし……」
「それなら、キララ様の魔力で女騎士達の体を拘束している魔法を上書きしてしまえばいいのではないですか」
――え、そんな荒業できるの?
「可能だと思います。発動者のいない状態で魔力だけがその場に残されているのなら、それ以上の魔力で塗りつぶせば解除されるはずです」
――試してみないと、どうなるか分からないね。とりあえずやってみよう。
「皆さん、聞いてください」
「え……」×4人
「今から、皆さんを拘束している罠の魔法を私の魔力で塗りつぶします。魔法を打ち消すなんて荒業をやった覚えはないのでどうなるか分かりませんが、皆さんを助けるために一生懸命やるので死んでも文句を言わないでください」
「言わない言わない。というか、死んだら文句も言えないよ。このまま、箱の中で一生を終えるなんて絶対に嫌。多少苦しくてもいいから、私達をここから出して~!」
ロミアさんは、泣き顔で私に叫ぶ。
「分かりました。では、やってみます。ふぅ……」
私は体に魔力を溜める。
腹式呼吸を意識して、いつもより念入りに魔力を体内で循環させながら質を高めていく。
最近では魔力の質を保ちながら量も増やせるようになってきた。
まだ、ライトほどの魔力量を練るのは無理だけど昔よりかは遥かに成長している。
「ふぅ……」
「す、すごいですね……。私、こんなに透き通る魔力を感じたの、初めてです」
「ああ、まだ子供だから期待してなかったがここまでの魔力を練られるのか……」
「ちょ、ちょっと待って~!。私、まだ心の準備が出来てないよ~!」
「ロミア、うるさいわよ! 今、キララちゃんが集中しているんだから静かにしてなさい!」
4人が言葉を発しているのは私の耳から聞こえてきている。
それでも、私の意識は全く揺れ動かない。
魔力を練り込むだけにずっと集中し続けていた。
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