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『再生(レナトス)』の魔法陣

 私の視線の先にはブラックベアーに追われているトラスさんの姿があった。


 トラスさんの着ていたメイド服は大きな胸がこぼれそうな程ボロボロになっており、大変卑らしい。


 その姿は夜の番組でも放送が禁止されそうなほどだ。


 だが、トラスさんはそんな破廉恥な恰好で私達の方に全力で走ってきていた。


「にゃ~! ニャーはしつこい男は嫌いにゃ! こいつどうなってるのにゃ~! 攻撃が効かないのにゃ~!」


 トラスさんは大声で泣きながら、走っていた。


『グラアアアアアア!!』


 ブラックベアーは前足を大きく振りかぶり、トラスさんの背後から攻撃する。


「うにゃっ!」


 トラスさんは攻撃の気配を読んで前かがみになり、ブラックベアーの攻撃を回避していた。


「トラスさん! こっちの方が危険ですから反対方向に走ってください!」


「にゃにゃ! キララちゃん! って、何なのにゃ! あの大きさのブラックベアー! 意味分からないのにゃ!」


 トラスさんは騎士団にいるブラックベアーが視界に入ったのか、眼を見開いで驚いていた。


――どうする、前にも後ろにも私のトラウマがいる……。でも、横に抜け道はない。このまま引き返しても、後ろのブラックベアーに蹂躙されて終わりそう。なら、目の前のブラックベアーをどうにかしてこの場を切り抜ける。


「レクー。トラスさんも載せて走れる?」


「よ、余裕ですよ! そんなの!」


 私は頭を低くしてレクーに聞こえやすいように大きな声で話す。


「走れるならそれでいい。ベスパ、ビーを用意できる?」


 私は上半身を起こし、右斜め頭上を飛んでいるベスパに質問した。


「はい。天を埋め尽くすのは無理ですが、目の前のブラックベアーを多少浮き上がらせるくらいは可能です」


「そう。なら、私達の周りにビー達を使って半球状で覆って。そのまま『光学迷彩』を使える準備をしておいて」


「私達の姿を見えなくするんですね」


「そう。トラスさんをレクーの背中に乗せたら『光学迷彩』をすぐに発動させて」


「了解です!」


「あのブラックベアー、普通じゃない……。だって、頭がないんだもん」


 私の視線の先にいるブラックベアーは頭が潰れており、口から上がほぼない。


 きっとトラスさんに頭部が陥没するほど殴られたのだろう。


 そのような状態でどうやって私達を認識しているのか分からないが、私は死なないためにできるだけの準備をする。


 簡単に死ぬつもりはないが、中途半端じゃ死にきれない。


「トラスさん! バートンの背中に乗ってください!」


「にゃ……。分かったにゃ!」


 トラスさんは私達とすれ違う瞬間に方向を変え、レクーの背中に飛び乗った。


 その瞬間、周りから大量のビーが集まり、半球(ドーム)状の隊形をとって私達を覆った。


 私は2種類のトラウマで吐き気を催しながらも、レクーの手綱を握りしめて死の恐怖に耐える。


「『光学迷彩』を発動します!」


 ベスパが光ると私達の周りのビー達も光始め、ビー達しか見えていないかった視界が開けて街の景色が見える。


「な……何が起こってるのか全く分からないのにゃ!」


 トラスさんは周りの状態が一気に変わりすぎて理解が追い付いていない様子だった。


――ディア……。あなた達の仲間、数1000匹くらい死なせちゃうかもしれないけど、力を貸して。


 私は胸に手を当ててブローチに擬態してるディアを握りしめる。


「はい!! もちろんです、キララ女王様!! 私の同士の命は全てキララ女王様の物です!! どのような命令でも謹んでお受けします!!」


 ディアは私の手の中で叫ぶ。


――ありがとう……。


「ブラットディア! 目の前のブラックベアーに纏わり付くように集まって!!」


 私が叫んだ瞬間。


 街の建物や石の裏、お店の中などに潜んでいたブラットディア達が私達に向って突進して来ているブラックベアーに纏わり付き始める。


 その数は地面を黒く染めあげるほど……。


 今は気持ち悪いなんて言っていられない。


 逆に自身の大きさの数100倍あるブラックベアーに果敢に攻めていくのだから勇士だ。


 ブラックベアーは纏わり付くブラットディア達の重さによって、速度が著しく遅くなり、しだいに黒い塊となって動きが止まる。


 その様子はまるで、黒い塊が沼に落ちていくようだった。


『グラアアアアア!!』


 ブラックベアーの頭部は潰されているにも拘わらず、黒い塊からは嫌な声が響いた。


「な、何でにゃ! 脳は完全に潰したはずにゃ! 普通のブラックベアーなら動けなくなるに決まってるのにゃ!」


 ブラットディア達によって作られている黒い塊からブラックベアーの右手が出てきた。


「キララ女王様!! このまま押さえつけていられません!!」


――ベスパ、黒い塊に飛び込んで!


「了解!」


 ベスパは黒い塊に飛んでいき、私は指を構える。


――ブラットディア達! ブラックベアーの頭部にいる個体は一瞬どいて!。


 私がブラットディアに命令すると、潰れていたはずの頭がもとに戻っているブラックベアーの顔が露わになる。


「そんにゃ、バカにゃ……。頭も元に戻るのにゃ……」


 きっと私の後ろにいるトラスさんは信じられない現象を目の当たりにしたような表情をしているだろう。


 私だって信じたくない。


――ベスパ、ブラックベアーのキモい顏にくっ付いて! 加えてブラットディア達の体を私の魔力で強化させてベスパの爆発に耐えられるようにして! 今から私の出せる最大火力でブラックベアーを爆破する! 


「了解です!」


 ベスパが発光するとブラットディア達は光始める。


――ブラットディア達の体なら、魔力爆発に耐えられるはず。黒い塊の中で爆発を止め(とどめ)てくれれば、力が逃げずにかなりの威力になるはずだ。加えて街の建物に被害も出さない。たとえブラックベアーを倒せなくても、再起不能、又は行動停止になってくれればありがたい。


『グラアアアアア!!』


 ブラックベアーは口から長い舌を出し、叫ぶ。


「もうあなたの言葉が全く分かりませんね! 死にたくても死にきれない悲痛の叫びに聞こえますよ!」


 ベスパはブラックベアーの大きく開いている口に飛び込んでいく。


『ファイア!!』


 私の指先に円型の魔法陣が展開した。


 その魔法陣に私は込められるだけの魔力をすべて注ぎ込み『ファイア』を放った。


 魔法陣から弾丸のように高速で飛び出す『ファイア』はベスパの体に向っていく。


 その際、私達を囲っているビー達は『ファイア』を避けた。


 『ファイア』は何にも阻まれることなくベスパの体に直撃する。


――ブラットディア達! ブラックベアーの体にもっと纏わり付いて!


 ベスパが爆発する0.5秒にも満たない時間にブラットディア達は移動し、ブラックベアーの体を完全に覆った。


『ボッフ!!』


 という低い爆発音が鳴り、黒い塊が1.5倍ほど膨らんで、至る所から黒煙が立ち昇る。


「どうなったのにゃ……」


 ブラットディア達は地面をぞろぞろと這い、ブラックベアーから離れていく。


 塊の外側を覆っていた個体は全て移動したが、内側にいた個体は動かず……地面になだれ込んでいく。


 するとブラックベアーとは全く判断できないほど上半身が抉れた生き物が現れた。


「な、何ですか、あの宝石みたいな結晶は……」


 下半身の体内に大きなスイカほどの綺麗な結晶が埋もれていた。


「あれがブラックベアーの魔石なのにゃ。あれを壊せばあの個体でも、さすがに死ぬはずにゃ!」


 トラスさんがレクーの背中から飛び出そうとした時。


「にゃ! どうなってるのにゃ!」


 ブラックベアーだった魔物の下半身から触手のような黒い縄状の何かがうねうねと動き始め、魔石を覆っていく。


「キララ様! 今すぐトラスさんを止めてください! この場からすぐに避難した方がいいです!」


 復活したベスパが私の後方から現れる。


――わ、分かった。


「トラスさん、少し待ってください。今は逃げた方がいいです!」


 私はトラスさんの左腕を掴み、止める。


「なんでなのにゃ。あの魔石さえ壊せば倒せるはず……にゃ? なんなのにゃ、あの魔石。普通の魔石じゃないのにゃ」


 トラスさんは目を細めて、凛々しい顏になった。


「え、何がですか?」


「見るのにゃ。何か魔法陣みたいな模様が魔石の中に描かれてるのにゃ。あんな魔法陣は普通、魔石の中に描かれていないはずなのにゃ」


 私は魔法陣を確認するために魔石を見る。


 黒い触手に包まれており分かりにくいが確かに何か描かれていた。


「キララ様。あれは教会の聖書に描かれている『再生(レナトス)』の魔法陣です。私の爆発で魔石を木っ端みじんに爆破しましたが再度復元されました。魔石をいくら壊してもあのブラックベアーは復活し続けます。ですから早く逃げましょう! ここにいても体力を消耗するだけです!」


 ベスパは私の頭上で叫ぶ。


「分か……、ベスパ!! 二時の方向に飛んで!!」


 私はベスパの方向を向いた瞬間、ベスパに命令をくだした。


「了解!」


『ファイア!!』


 私は使い慣れた魔法の『ファイア』をベスパに向ってすぐさま放つ。


『ドッゴアアアン!』


 私達の周りを囲うビー達は『ファイア』をかわし、放たれた『ファイア』はベスパに直撃して空中で爆発を起こした。

 

「今度は何なのにゃ!」


 トラスさんは爆発のあった方角に顔を向ける。


――レクー、今すぐ全速力で走って!!


「は、はい!」


 私達を乗せたレクーは全力で駆ける。


 地面になだれ込んでいたブラットディア達の死骸を数匹踏みつけて走ってしまい申し訳ない。


 だが、今は逃げるのが先決だ。


『グラアアアアアアア!!!!』


 なんせ、巨大なブラックベアーが騎士団から跳躍し、私達の方に落ちてきていたのだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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