異常な個体
「ふぅ~。やっと地面に足が付いたよ。やっぱり安心するな~」
私が降り立った場所は病院の駐車場だった。
「それにしても、この辺りにブラットディア達がいるなんて、全く分からないな。ディアの仲間はほんとに隠れるの上手だね」
「そうやって生きてきましたからね! 逃げ足と隠れる技術に関しては誰にも負けない自信があります!!」
「そうなんだ……。ブラットディア、100匹集まれ!!」
私は無茶ぶりで、ブラットディア達に命令した。
すると、物陰や石の裏から、影が集まるように黒い斑点が動き、たった1秒で私の前に10匹の10列、計100匹が綺麗に正方形の形で整列してしまった。
――いや速すぎ……。逆に怖いよ。飛ぶのはあまりに下手なのに、走るのはこんなに得意なんだ。
「も、戻れ!」
こんどは1秒も経たず、ブラットディア達はその場から消えた。
――いや、瞬間移動じゃないよね。脚力どうなってるの。動きが見えなかった。
「ディア、何でこんなに動きが速いの? この前、子供達には簡単に捕まっていたでしょ」
「いや~。私達、実際はおバカでして……。考えながら移動すると毎回少しの間があるんです。だから子供にも簡単に捕まってしまうんですけど、命令だと考えなくていいので行動に一瞬で移せるんです」
「なるほど……」
ディアは私の背中を伝い、肩に這いあがってくる。
そのまま胸もとに移動し、ブローチに擬態した。
「さてと、今の作戦が本当に効果があったのか、少し見に行こうか」
「はい。では、手始めに病院の中を覗いてみましょう」
私とベスパは病院の入り口に向う。
病院の入り口に到着し、中をのぞく。
トラスさんとリーズさんは既にいなくなっており、看護師さんと聖職者さんだけになっていた。
ただ、聖職者さん達が奇跡を使う場面が見られなかった。
私は聞き耳を立てる。
「いったい何が起きた。患者から、瘴気が消えているぞ……」
「本当ですね……。さっきの光が何か関係あるんでしょうか」
「分からん。光以外何も見えなかった。何らかの魔法を使ったのは確かだろうが、この数を一瞬で……。いったい誰がこんな魔法を使ったんだ」
聖職者さん達は困惑しており、看護師さん達は患者さんの容体を一人一人確認しているようでとても忙しそうだ。
「うまくいったみたいだね……」
「はい、そのようですね」
私はレクーのもとに戻り、背中に乗る。
「それじゃあ、次は最後の4つ目の『残りの魔造ウトサの回収』をするよ。まず騎士団に行こう。リーズさん達がどこに行ったか分からないから、かぶるかもしれない。そうなったら全力で逃げよう。私は村に帰ったことになってるし……」
「リーズさん達なら、初めからドリミア教会に向いましたよ。今はビー達を休ませているところなので、詳しいところまでは分かりませんが……」
「そうなんだ。それなら、騎士団に向っても大丈夫だね。レクー、騎士団に向うよ!」
「はい!」
私達は病院を離れ、騎士団までの道を進んでいた。
「ベスパ、ちょっと聞きたいんだけど。さっき、魔法を使っている最中の私達をビー達の『光学迷彩』で見えないようにしてたの?」
「もちろんですよ。キララ様に加えて、ビー達も見えないようにしていました。もし、見つかったら魔法で燃やされますし、キララ様が浮遊している姿もビー達が球状の陣形をとって、周りからは見えないようにしていました」
「まぁ、見つかったら燃やされちゃうから仕方ないか……。でも、私の魔力を相当使ったよね。私、死ぬかと思ったんだけど」
「そうですね。魔力を抜かれるのは魂を抜かれるのと近しいですから。気絶してもおかしくありませんでした。ですが、私がキララ様の限界値を考え、ギリギリ気絶しない魔力量を残しておいたので、魔法陣の発動時に意識を保てたんですよ」
ベスパは胸を張って誇らしげにしゃべる。
「あ、そうだったんだ……。ありがとうねって、素直に言いたいけど、ギリギリを攻めすぎ……。あそこまで魔力を使う必要があったの?」
私は目を細めてベスパを睨んだ。
「え、えっと……。魔力を大量に使うとその後、魔力をより溜める体質になるので、街の人を助けて、キララ様の鍛錬にもなり効率がいいと考えたんですが……」
ベスパは両手の指先を胸もとでちょんちょんと触り、私から視線を逸らす。
「私がいつ鍛錬したいって言ったの……」
「ちょ……キララ様、落ちつきましょう。今、イライラしても仕方ないですよ」
私とベスパは言い合いをしていた為、前をちゃんと見ていなかった。
その時、レクーの脚が止まる。
「キララさん、ベスパさん! あれを見てください!」
「え……」×2
私とベスパはレクーの声に反応し前を見た。
そこには私のトラウマの1つである、真っ黒な巨体が何かを追いかけていた。
「え、あれはブラックベアーですか。いったいなぜこんな街中に……。いったいどこから現れたんでしょうか。ブラックベアーはもっと深い森の中や山の頂上付近に生息しているはずです。この街の周りには、生息できる地形が無いはずですので……現れるのはおかしいですね」
ベスパは顎に手を置いて走ってくる黒い物体を観察していた。
「そ、そんな冷静に考えている場合じゃないでしょ! 早く逃げるよ!」
「キララ様ちょっと待ってください。あの追いかけられている人をよく見てください」
「え? 追いかけられている人。もしかして一般人なの!」
「いや、どうやら一般人ではありません」
「じゃあ、いったい誰……」
私は後ろの巨体を見ないよう注意しながら、走っている人に焦点を合わせる。
「え、トラスさん! それにリーズさんも! って、リーズさんが頭から血を流してる!」
よく見ると、巨大な黒い物体が走っているだけではなく、巨大なクマが1人の男性を背負う女性に襲い掛かっている状況だった。
「しつこいにゃ~! どこまで追ってくるのにゃ~! あの爺、絶対に許さないのにゃ!」
トラスさんは大声を出し、誰かに怒っていた。
――それにしても、ブラックベアーと同じかそれ以上の速度で走れるなんて、トラスさん、足早すぎ……。本当にリーズさんを担いでるんだよね。
ブラックベアーを見たところ、普通のバートン車以上の速度で走っていた。
私の前から迫ってくる感じが乗用車とほぼ変わらない。
――あのブラックベアー、時速60キロメートルくらいの速さで走っているのかも……。
つまり、トラスさんはそれ以上の速さで走っているらしい。
獣人さんの身体能力、高すぎ。
「キララさん。早く逃げましょう。ここにいたら、追いつかれます!」
レクーが大声で話しかけてくる。
「そ、そうだね。私達は逃げよう。ベスパはリーズさんを持ち上げてトラスさんが逃げやすいようにしてあげて」
「了解です!」
ベスパはトラスさんの方に飛んで行く。
『グァアアアアアアアアアア!!』
「うるさいにゃ! そんな大声で吠えるにゃ!」
――今回のブラックベアーの様子は、どう見ても最悪。何で私が出会うブラックベアーは真面な個体が1頭もいないの……。
今回のブラックベアーは舌と目がありえない動きをしていた。
長い舌が口から垂れだし、唾液をまき散らしながら走っている。
加えて、瞳孔がグリグリと動き、どこを見ているのか全く分からない。
明らかに異常で、見ているこっちが辛くなる。
「レクー、走って!」
「はい!」
レクーは既に迂回しており、まっすぐ走りだす。
私は後ろを見ながらベスパがリーズさんを助けられるか、確認していた。
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