お爺ちゃんが倒れた
街から帰ってきて八日が経った。私は最も大きな壁にぶち当たっていた……。
「キララ様、難しい顔をしてどうしたのですか?」
飛んでいるベスパは首をかしげながら聞いてきた。
「お金が足りない!」
そう、お金が圧倒的に足りないのだ! しかも、今の私の年齢は一〇歳。
一〇歳でお金を稼ぐことを考えないといけないなんて……。昔の私だったらまだ無邪気に遊んでるよ。いや、私じゃなくても大概の子供は遊んでる。
一〇歳でお金を稼ぐのは相当難しい。それこそ、大金を稼ぐなんて地球だと子役くらいなのではないだろうか。
地球でも難しいのに、この世界だとどれだけ難しいことか想像することもできない。
「私が六歳から今まで貯めてきたお金が金貨二枚分、ソウルやウトサはこんな金額じゃ一向に買えないよ!」
「仕事を探せばいいのでは?」
ベスパは当たり前のことを聞いてきた。
「簡単に、大金を手に入れられる仕事なんてこの村には無いよ……」
「では、やはり、私の友達に助けてもらうのは……」
「それだけはダメ! 犯罪に手を出したら終わりなんだから!」
「そうですよね……」
私は、一日中考え続けたが、結局何も思い浮かばずに一日が過ぎていった。
そして次の日、問題が起こった。
「大変よ、キララ。お爺ちゃんが倒れたらしいの!」
お母さんは慌てながら話し掛けてきた。
「え! お爺ちゃんが!」
――お爺ちゃんとは私が昔の世界のことを思い出したころ、ブラックベアーに遭遇した私を保護してくれた人だ。
昔から私のことを本当の孫のように可愛がってくれていた。
私もお爺ちゃんのことが大好きだった。
そんなお爺ちゃんが倒れたと聞いて、居ても立ってもいられず、気づいた時にはもう家を飛び出してた。
「キララ! 靴を履くの忘れてるわよ!」
私はお爺ちゃんの家に直行で向かった。
「お爺ちゃん! 大丈夫!」
勢いよく玄関の扉を開けると、お婆ちゃんが『ぎょっ』と驚いた顔でこちらを見た。
「あら、キララちゃんじゃない。どうしたの?」
「お爺ちゃんが倒れたって聞いて! それで、お爺ちゃんは大丈夫なの!」
「あ~、それなら心配ないわよ、ほら」
そう言って、お婆ちゃんは部屋の奥に置かれた木製ベッドを指さす。
「お爺ちゃん、仕事で無理しすぎて腰をやっちゃったのよ。もう、年なのにまだ仕事をするって聞かなくて……」
「うるせぇ、男は仕事をしてなきゃ生きてけねえんだよ……」
お爺ちゃんは横たわった状態で話し出した。
「お爺ちゃん、大丈夫なの?」
「こんなもん、ほっときゃあ治る……、痛つつ」
お爺ちゃんは腰に手を当て、歯を食いしばった。
「やっぱり、痛いんだ。安静にしてなきゃだめだよ」
「だが……。あいつらの所に行ってやらないと」
お爺ちゃんはこの村で酪農系のスキルを唯一持っている。
その為、お爺ちゃんは酪農の仕事を一応しているんだけど……。
「お爺ちゃんは休んでて、私が行ってくるから!」
「ちょっと待て、キララ! 牧場に居るあいつは人の言う事を簡単に聞くやつじゃないんだが……」
私はお爺ちゃんの止める声が上手く聞こえなかった。
「キララ様。どこへ向かっているのですか?」
ベスパは走っている私の頭上を飛び、聞いてきた。
「牧場だよ、牧場! 私がお爺ちゃんの仕事を代わりにやるんだ」
「牧場に入ったことあるのですか? それに、お仕事の内容も知っておられるのですか?」
「一度だけ行ったことがあるの、でも仕事内容は知らないから、分からなかったらもう一度お爺ちゃんに聞きに行けばいいだけだし」
「キララ様は行動力が凄まじいですね」
「そお? 私はただ、お爺ちゃんの助けになればと思って」
「それでも、行動できる人はごく僅かだと思いますよ」
しばらく走っていると、お爺ちゃんの牧場に着いた。
「ここが牧場ですか……、広いですね~」
ベスパは広い牧場を悠々と飛行する。
「そんなところで飛んでると、食べられちゃうよ」
ベスパは一瞬で我に返り、あたりを警戒する。
「キララ様! 私はいったい誰に食べられるのですか!」
「あの子たちに……」
私が指をさす方向にメークルの群れがいる。毛がもこもこで羊みたいな生き物だ。
「あんな、鈍い動物に私が食べられるわけないじゃないですか! 脅かさないでくださいよ~」
ベスパは高度を下げ、へらへらしている。
「そう……。じゃあ、気を付けてね、後ろの子に」
「え?」
ベスパは後ろを振り返ると、そこには一匹のメークルの姿があった。
「メェエエエエエ」
「ぎゃああああ~」
ベスパは叫びながら逃走しようとするが、それよりも先にメークルに食べられてしまった。
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