上空への移動方法
「やってみる価値はあるかもしれません。その代りキララ様には魔法陣を維持してもらわないといけませんから、私達を見ても気絶しないようにして頂かないといけませんよ」
「う、それはぁ……。目を瞑りながら維持するよ……」
「キララ様はライトさんよりも魔法の才能があるわけじゃないんですから、目をつぶって魔法陣を維持するのは難しいと思いますよ」
「でもやらないと、被害者がもっと増えちゃうでしょ。トラスさんとリーズさんがドリミア教会と領主、騎士団にこの状況をどうするのかって言うのを聞きに行っている今の間にやっておけば被害を少しでも減らせるでしょう。私は村に帰っていると思われてるんだから、私が魔法を使っているとは思われない」
ベスパは空中を何度もくるくると回り、考えを巡らせていた。
少しして停止し、喋り始める。
「分かりました……。やりましょう。では増えに増えたビー達を人間、1人につき1匹配備させます。魔法陣の展開と共に体の一部へ針を突き刺し、魔力を吸い出し、魔法陣を通してディア達のもとに送ります。この流れで進行しますが……全体で1分は掛かると思います。その間、キララ様の魔力は削りに削られ、虫の息になってしまうかもしれませんが、ご了承ください」
「分かってるよ。もう2回も魔力抜かれて倒れてるんだから。というか……私の魔力、回復するの早すぎない……?」
「はい、とても早いです。とは言っても、キララ様はまだ自身の回復能力の10パーセントも使っていませんよ」
「え……じゃあ、何でこんなに早いの?」
「前にもお話ししましたが、キララ様のスキルである私は、他の虫と繋がれます。キララ様の魔力を他の虫に少し与える代わりに、私達に手を貸してくれているのです。そして、その虫が死ぬ、又は役割を終えると、与えた魔力が私を通してキララ様に戻ってきます」
「つまり……空を埋め尽くす数のビー達に私の魔力が分散しているってこと?」
「はい。なんなら、ディアたちにも分散しています。ほんの少ない魔力ですが、彼らが生きているだけで魔力を溜めていきます。キララ様のもとに帰ってくる頃には10倍、20倍になっているんですよ」
「じゃ、じゃあ、魔力を与えている虫達が役割を終えたら私のもとにどれだけの魔力が戻ってくるの?」
「そうですね……。私は、ことあるごとにキララ様の魔力をお友達に振り分けていますから、既に想像がつかなくなりました。大きな魔法を使わなければ半永久的に魔法が使えるくらいはあるんじゃないですか」
「いや……。なにそれ怖いって。あと私の魔力をやたらめったらにばら撒いてたんだ。そんな面倒な仕事、なんでしてるの?」
「そうしなければ、キララ様が死んでしまうんですから仕方ないじゃないですか。あ……言い忘れましたが、キララ様の魔力を持つ私の友達が交尾をして子供が増えていくと、その分キララ様の魔力も分散しますから、どこまでも魔力は増え続けますね」
その時のベスパの顔はブラックベアーよりも怖く見た……。
「なんか想像するのが怖くなってきたから……、この話はおしまい。えっと要するに私が魔力切れで倒れるのはあまりないって認識でいいの?」
「はい、自然災害でも起きなければキララ様の魔力が枯渇するなどめったにないでしょう。敵が複数か、強敵の場合はその際限ではありませんがね」
「えっと、私は自然災害を止められちゃうの?」
「さぁ~、それは分かりませんが、以前戦った巨大なブラックベアーの時に放った爆発の2倍以上の火力が、数発連続で出せますね」
「とんでもない魔力量じゃん……。それで私はどこで魔法を使えばいいの?」
「どこでも構いませんが、やはり空中に浮いてもらったほうが安全かと思います」
「え、私、浮遊魔法とか使えないんだけど」
「お任せください! キララ女王様! 私達が、空中にお連れします!」
私のもとに現れたのはディアだった。
「ディア、いつの間に戻ってきたの」
「今、仲間を集めて戻ってきました」
「そう、お疲れさま。ところでディアは私をどうやって空中に移動させるの?」
「私達がキララ女王様の体に張り付いて浮かび上がらせます。その間に魔法陣を展開してください!」
「でも……落ちたりしない?」
「安心してください。私達も飛べますし、数が多いですから絶対に落としません! では、キララ女王様、浮かび上がらせて移動しますね!」
私の足もとに多数のブラットディアが集まってきた。
「まさか……。ちょちょちょ……」
ブラットディア達は私の服を駆けのぼり、背中に集まっていく。
「うわうわうわ……気持ち悪ぅ……。まぁ、ビーよりはましだけど……」
「キララ様! 実際は私達がディアの役目を全うするはずだったんですよ! なぜ私達ではなくディアなら大丈夫なんですか!」
ベスパは、両腕両足をブンブン振りながら抗議してくる。
「だって……、ビーが苦手なんだから仕方ないじゃん」
「私達の方が移動が早いですし、機動力もあります。なんせ、キララ様の魔力そのものですから、自由自在に形を変えて戦えるんですよ!」
「今は別に戦うわけじゃないし……。空中に浮いて、魔法陣を展開するだけだから……」
「そうですけど……」
「ディアたちで出来るんなら、ベスパ達がやる必要ないよ。ディアたちにできない仕事をベスパ達がやればいいんだから」
「は、はい……。大変失礼しました……」
ベスパはしゅんとして、縮こまった。
「はぁ……、ベスパ、しっかりして。今からベスパがいないとできない作業なんだよ。ベスパがいたから、この街の人達が助けられているんだから。ほら、自信もって」
私はベスパが元気になるような言葉を投げかけた。
気分が落ちている時に、行動して失敗でもされたら一大事だからね。
不安の種は摘んでおかないと。
「確かにそうですね。私には私にしかできない仕事をするだけです。ではディア、キララ様を頼みますよ。落としたら、どうなるか……。想像できますよね」
ベスパはディアを睨み、威圧する。
「はい! もちろんです、ベスパ様! 私達は何があってもキララ女王様を落としません!!」
「うん、よろしい! では、キララ様。すでに準備はできています。早速始めましょう」
「そうだね。人の暴動を止めて、被害者が加害者になるのを止めないと。そのあとは……悪い人たちをどうにかしないとね。よし! ベスパ、ディア、始めるよ!」
「了解です!」
「はい!!」
私にくっ付いているブラットディアが背中に移動し、翅を動かし始めた。
すると、翅が擦れる音が、ばばばばっと鳴り響く。
それはもうジェット機が飛ぶのかというほど大きな音で、何匹、私の背中についているのか分からない。
大きな音が聞こえ出してから、私の体が少し浮き上がった。