家に帰宅
私が目を覚ますと、そこは病院だった。
真っ白な天井が目の前に広がる。
「やぁ、起きたかい」
聞き覚えがある声が左隣から聞こえてきた。視線を向けると、そこにいたのは緑髪と小さな丸眼鏡が特徴的で、白衣を着た方だった。
「リーズさん、お久しぶりです……」
「キララちゃんがここに運び込まれたとき驚いたよ、でも軽い失神でよかった。何か、嫌なものでも見たのかい?」
――鋭い……。
「はい、トラウマが蘇りまして……」
私は上半身を持ち上げ、息を整える。
「トラウマ?」
「それ以上聞かないでください! もう二度と思い出したくないので」
――あの光景はもう二度と見たくもない……。いや、考えたくもない! あの数のビーが一斉に……。
「それはすまない。気が付いたのなら、もう行っても大丈夫だから。休憩していきたかったら、少しの間ならこの部屋を使ってもいい」
「はい……。ありがとうございます」
リーズさんは私が目を覚ましたと知ると、病室を出て行った。
「キララ様、大丈夫でしたか……」
ベスパは顔を窓際からそーっと出し、申し訳なさそうにしている。
「まさかビーがあんなに集まるなんて思ってもなかったよ……」
「私も想定外でした。皆もゴンリが相当食べたかったのでしょう」
「は~、でもまぁ、収穫があったから大目に見よう。別にベスパが悪いわけじゃないし」
「ううう……キララ様!」
ベスパは相当うれしかったようで、私に飛び込んできた。
「『ファイア!』」
「ぎゃああああ~!」
ベスパは私が放った「ファイア」に直撃し、燃えカスとなって地面に落ちる。
「別にビーが得意になったわけじゃないから、いきなり近づかれると反射的に攻撃しちゃうの。ごめんね……」
私たちは外も暗くなってきたため、家に帰ることにした。
バートン車を待っている間、私は街を行き交う人から、とある噂を耳にした。
「勇者のスキルを持った子が現れたんですって!」
「え! と言うことは、魔王がまた復活するのかしら……。いやね。昔みたいにすぐ終わってくれると助かるんだけど……」
「勇者か。私とは程遠い存在だ……」
「キララ様は勇者になりたかったのですか?」
ベスパは私に聞いてくる。
「別に、勇者になりたかった訳じゃないけど憧れはしたな。ちょっとカッコ良くない? 魔王の手から世界を守るなんて誰でも憧れちゃうよ。話が大きすぎておとぎ話みたいだけど……」
「キララ様は今のままで十分ですよ! 勇者になる必要はありません」
「そうだね、確かに勇者になったら、色々とこき使われそうだし……。それなら、今の生活でもいいか」
――でもまぁ、もうちょっと良いものを食べたいよな。
「勇者の他にも、剣聖のスキルを持った子も現れたんですって!」
「ホント! 今回の魔王はそんなに強いのかしら。もしかしたら悪魔が……」
「剣聖、アイクのことだ……。この街でも、もう噂になってる。やっぱり剣聖ってすごいスキルなんだ」
「確かに、あの動きは相当な人外でしたからね」
ベスパは眉を顰め、苦笑いをした。
「ベスパ、見てたの?」
「はい! キララ様の中で見させていただきましたよ、全く歯が立たなかった様子でしたが」
「そうだね。あれに勝てる未来が全く想像できないんだよな……」
そうこう言っているうちに、バートン車がやってきた。
「さてと、帰り道でお尻が痛くなるのを覚悟しないと」
「キララ様も私と同じように飛べばいいのですよ」
ベスパは翅をブンブンと鳴らし、言う。
「人は飛べないの」
「そうなのですね、不便な生き物です」
「はぁ~」
私は深いため息をつく。
「それなら、ベスパはバートン車の中に入らず、飛んで帰りなさい」
私はバートン車の扉を閉め、さっさと出発してもらった。
「あ! ちょっと、キララ様、冗談ですよ。冗談! 私だってここから飛んで帰るのは大変なんですから!」
結局ベスパは飛んで帰ったらしい。ヘロヘロになって死んだセミのように腹を向けてひっくり返っている姿を部屋の机の上で発見した。
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