社畜と言う称号
「オメちゃん。子供いたんだ」
「ええ、まだこの子達は小さい方なの。だから食欲旺盛よ。この子達にやらせてもいいかしら」
「はい、耕してくれるならどの子でも構いません」
「あら、ありがとう。それじゃあ、キララちゃんに選んでもらおうかしら。どの子がいい?」
「え……どの子がいいと言われましても」
私の足もとには長さが1メートルほどあるミミズが這いまわっている。
襲ってこないため怖くはない。
それでも生理的に受け付けない人はいるかもしれない。
――どの子を選べば……、はっきり言うとどれも同じに見えるんですよね。ん~。
「それじゃあ、この一番小さな子に、仕事をお願いします」
私は動きが鈍く、小さな個体を両手でつかみ持ち上げる。
「あら、その子でいいの? 一番小さくてあまり速く仕事できないかもしれないけど」
「はい、小さい畑から始めるので。少しずつで問題ありません」
「分かったわ。その子をお願いね」
「分かりました」
「いい、キララちゃんの役にたてるよう頑張るのよ」
オメちゃんは子供の頭に少し触れて、地面に戻って行った。
「何か……凄い生き物だったな。さすがに大きすぎだよ。わざわざ来てもらったのに悪いことしちゃったな」
「キララ様、オメちゃんは別に気にしてませんよ。森にもいっぱい食べ物はありますし、これから畑がうまくいけば、広さも増えますから、その時に頼めば助けてくれます。それにこの子がいるじゃないですか」
ベスパはオメちゃんの子供に近づいていく。
オメちゃんの子供は持ちあげてから、全く動かない。
「キララ様、高さを怖がっているようです」
「あ、ごめん。そうだったんだ」
私はゆっくりと地面におろす。
「こ、怖い……、高いところ怖いよぉ……」
「ごめんね、怖がらせちゃって。えっと名前何にしよう……。」オメちゃんの子だから、おめ……、ダメダメ、卑猥だよ。もう一度考え直そう。女の子っぽい声だし、ミミ子にしようかな。あ、でも大きくなったら男っぽくなるのなら、もう少しカッコいい名前にしておこうか。
「それじゃあ、この子の名前はズミちゃんで」
「その名前をカッコいいと思うキララ様の感性はどうなっているのでしょうか?」
「いいじゃん、ズミちゃん。雄雌どっちでも違和感ないでしょ」
「まぁ、そうですが……」
「ぼく、ズミ……よろしくお願いします」
ズミちゃんは蛇のように同体で頭部分持ち上げ、ぺこりとお辞儀をした。
オメちゃんによく教育されているみたい。
礼儀正しいのは凄く大事だからね。
私もぺこりとお辞儀して自己紹介する。
「初めまして、私の名前はキララ・マンダリニア。今日からよろしくね、ズミちゃん」
「はい、よろしくお願いします」
「早速だけどズミちゃん、仕事を頼んでいいかな」
「はい、もちろんです」
「ありがとう。仕事内容だけど、ここの範囲の土を食べて耕してほしいの。日数を少し開けないといけないから、急がなくてもいいんだけど、出来るだけ丁寧に食べてくれるかな」
「頑張ります」
「ズミちゃんにも牛乳パックと瓶あげないとね。明日にでも持ってくるよ」
「本当ですか、ありがとうございます。それでは仕事を今すぐ始めますね」
ズミちゃんは地面を這うように移動し、私の指定した範囲に入っていく。
頭から地面へ突っ込み、体を沈めていった。
「えっと見えなくなっちゃったけど、これで大丈夫なのかな」
「はい、問題ありませんよ。食べ終わるころにはふっかふかの土になっているはずです。そこに栄養のある堆肥を入れれば完璧な土になりますね」
「うん、そううまくいってくれるといいんだけど……。農業は簡単そうで奥が深いからね。土だけじゃなくて、その後も大切だから。耕しが終わったら畝を作らないと」
「畝……、凸凹のやつですか?」
「そう、あの間に堆肥を入れて数日おいてやっと種を植えられるんだよ」
「へぇ~食べ物を作るのは大変なのですね」
「そうだよ~、大変なんだよ~。特に農家さんは天候とか色々大変なんだから。野菜を食べちゃう害虫もいるし、植物の病気もあるし、鳥も山の生き物もいる」
「キララ様、その点は問題ありませんよ」
「え……? あ、そっか。害虫の被害は無くせるのか。あと病気もライトの『クリア』で予防できる。鳥も山の生き物もベスパと会話できるから対処できる。私達は天候だけ気を付けていればいいんだ」
「その通りです。キララ様の育てた物を無断で食べるなど私達が黙っていません。指導の対象に加えます」
「そう考えると、野菜を育てるのはそこまで難しくないかも。受粉だってビー達に任せれば、解決するし。収穫もビーに手伝ってもらえば……」
「もちろんです。私達はキララ様の為であれば手となり足となり働かせていただきますよ。キララ様の良く使われる社畜という者の称号をいただきたいくらいです」
ベスパは胸と翅を張って背筋を伸ばす。
「あれは称号なんて良いものじゃないよ。皮肉な言葉だよ」
「そうですか? いいと思いますけどね。主の為に全てをなげうって働くその精神、必ず遂行するその技量、社畜とはそういう者なのではないのですか?」
「ベスパの社畜ってそんなふうに捉えてるの。よく言えばそうだけど……、社会で家畜のように働くから社畜って言うの。ほんとは自由に働きたいって言う人が多いんだよ、私の考えではね」
「なるほど、なるほど……。では今のキララ様は社畜ではないのですね」
「そうだよ、今の私は働き者かな。街の騎士団にいた人たちを社畜と言うんだよ」
「となると、私達も社畜ではありませんね。いやいやキララ様に仕えている訳ではありませんから」
「そうだね、働き者と社畜の境目はやっている仕事に意味を見出せているかだと思うよ」
「ん~、深いですね……」
ベスパは腕を組み8の字に飛びながら何かを考えている。
「そうだね。でもベスパにはいつも助けられてるよ、ありがとう。あまり言いたくないけど、感謝の気持ちは伝えておかないとね」
「あわわわわ……、キララ様からお褒めの言葉をいただきました。有難き幸せ」
ベスパは瞳を輝かせて翅をブンブンと鳴らした。
「まぁ、これからも精進したまえ」
「はは~」
ベスパは空中で土下座をしながら首を垂れる。
私達はちょっとした寸劇を披露しながら村を歩いた。
誰も見ているわけではない、コントと言えるほど面白くもない。
ただの話し合いだが仕事終わりにちょっとした話し相手がいる。
それだけで仕事は何倍も楽しくなると私は知っている。
そう、私とベスパはいい1人と1匹なのだ。
私とベスパは笑いながら家に帰ると外でお父さんたちが立っていた。
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