街で探索
次の日、私は貯めたお金を持って近くの街に向った。近くと言っても、バートン車で何時間もかかる場所だ。
「は~、やっと着いた。あのバートン車……揺れすぎだよ。ほんと、お尻が痛い……」
私は木の板に何度も叩きつけられたお尻を撫でる。
「キララ様、ここに何しに来たのですか?」
ベスパは私の頭上から話し掛けてくる。
「もちろん、食材を見に行くんだよ!」
「食材ですか?」
「そう、今の私の夢はパティシエになることなの」
「パティシエ……とはいったい何なのですか?」
ベスパは首を傾げ、頭に? を浮かべながら私に聞いてきた。
「パティシエっていうのはね、美味しいお菓子や綺麗なお菓子を作ったり、いろんな人を幸せにする仕事だよ」
「キララ様は時々よくわからないことを言われますね……」
「ベスパになら聞かれても大丈夫でしょ。ベスパは私の魔力なんだから」
「別に、私はキララ様が勇者や殺人者になろうが、いつだってお供いたしますよ」
ベスパはペコリとお辞儀をしてくる。
「殺人なんてしないよ! そんなことより、早く探さないと空が暗くなっちゃう」
「キララ様、初めは何をお探しですか?」
「そうだな……。まず手始めに、ソウルから探してくれる」
「了解しました!」
私がお願いすると、ベスパは空に上がっていく。加えて街中から数匹のビーが飛んできた。
「それでは皆さん、ソウルを売っている場所を探してください」
ビーは一回転すると、旋回するように探し始めた。
「次第に見つかると思いますよ」
「ありがとう。こういう時はほんとうに役に立つね」
「お褒めいただきありがとうございます。ベスパ、この先もキララ様に喜んでいただけ……、発見しました!」
ベスパは話している途中にビーから連絡があったようだ。
「こちらです」
ベスパは翅をブンブンと鳴らしながら私を先導する。
「あそこの屋台が、ソウルが売られている場所のようですね」
「あれが、ソウル……」
ベスパがあんないしてくれた場所にいたのは、怪しい雰囲気のおじさんと小さな屋台だった。
私は屋台に向って歩いてく。
「あの~」
私は顔が厳ついおじさんに話しかけた。
「いらっしゃい、どうされました?」
「ソウルっていくらですか?」
「これで金貨五枚だよ」
そう言っておじさんが見せて来たのは、小さな袋だった。掌にこじんまりと乗っかっている。見かけは小さなお守りのようだが……、量がさすがに少ない。
「これで金貨五枚! どうしてそんなに高いんですか!」
「そりゃ、ここの街まで持ってくるのが大変だからさ。ソウルはここらじゃ全く取れねえ貴重な調味料だろ。貴重だからこそ高値で売れるんだよ」
――金貨五枚なんてとてもじゃないけど買えない……。
私は屋台から離れ、ベスパに話しかける。
「ベスパ、ウトサの方を探してくれる。別に買いたいわけじゃなくて売っているところが見たいの」
「了解いたしました」
――塩が小さなお守りの大きさで金貨五枚なんて……。さすがに高すぎる。これじゃあ、味噌や醤油は作れない。日本料理を作るために必要な素材が無いとなると、食べるために相当な時間がかかりそうだな……。
「キララ様、ウトサを見つかりました。行きましょう」
私はベスパについていく。ベスパが案内してくれた場所は、ソウルが売っていた場所よりもさらに大きな店が立ち並ぶ大通りだった。
「キララ様、ここです」
ベスパが指さしたのは、周りを見ても一番高級なんじゃないかと思われる建物だった。田舎の街に三ツ星レストランがある感じ……。そう言ったら雰囲気が伝わるだろうか。
「どうしよう、私……こんなボロボロの格好で高そうな店に入る勇気ないよ」
――この感じはあれだ。田舎から出てきたばっかりの頃、東京でいろんなお店に入るのが滅茶苦茶怖い感覚と似ている。
「キララ様、私をお使いください」
ベスパは胸をどんと叩いて、背筋を反らせた。
短い金髪が無駄にキラキラしているせいか、目がちかちかする。
「え……?」
「『視界共有』ですよ。私がウトサの所にまで行きますから、値段を確認してください」
「確かにその手があったけど……、またアレをやるの?」
「慣れてしまえば、どおってことありません。慣れれば便利な能力ですよ」
「便利なのははわかるけど……。って、渋っていても仕方がない。時間がないんだ。視界共有!」
「ではキララ様、しばらくの間、目を瞑っていてください、私がウトサの近くまで行ったらお知らせしますので」
「わかった、気を付けてね」
「心配無用です」
ベスパは魔力体の可愛らしい姿ではなく、小さなビーの状態で人の間を順調にすり抜け、ウトサが売っている場所まで到着した。
「キララ様、今です」
ベスパの合図と共に私は目を開ける。
そして驚愕した。
「小袋、金貨五○枚……。どういうこと……」
「ではキララ様、私はそちらに戻……」
「『ファイア!』」
「ぎゃ~!」
ベスパの叫び声が聞こえた瞬間、私の視界が一瞬真っ暗になる。
「こんな所にビーが出るなんて! ここの店はいったいどういう営業をしていますの!」
お店の中から怒号が響く。
「お客様、大変申し訳ございません。ただいま、清掃にさらなる強化を施しますので」
「店の中に虫がいるなんて信じられないわ! 今度見つけたら二度とこんな店に来ませんから!」
「大変申し訳ございませんでした」
店内から店員さんの謝る声が聞こえた。
「いや~大変な目にあいましたよ」
八秒後、私の後ろにベスパがいきなり現れる。
「まさか一般客に燃やされるなんてね」
「私の完璧な作戦が……」
ベスパは肩を落とし、いつにも増して落ち込む。
「まぁ、値段を知ることが出来てよかったよ」
「キララ様の夢であるパティシエとやらにはなれそうですか?」
「どうだろう……、わからない。でも、お菓子が存在するなら、パティシエも絶対この世界にいるはず。貴族はお菓子を毎日食べてるってお母さんも言ってたし」
「そんなに食べたいのであれば、私たちが取って……」
「だからそれは泥棒だからダメなの!」
「は、はいっ!」
ベスパは姿勢を正し、大きな声で返事をする。
「帰ろうか……。特に収穫は無かったけど、夢の実現に少しでも前に進んだ気がするよ」
「そうですか……。あの、キララ様。一つお願いがあるのですが、よろしいでしょうか」
「お願い?」
――珍しい、ベスパの方がお願いしてくるなんて。
「はい、どうしても食べてみたい物がありまして、体がうずいて仕方がないのです」
「いったい何を……。まさかウトサを食べようなんて思ってないよね?」
「いえ、ウトサではなく、あれを……」
ベスパの視線の先には、真っ赤な丸い物が見えた。
「何あれ……」
「ゴンリという食べ物らしいです。私、あれを見た時から体がうずいて今にでも飛び出してしまいそうなんです」
「ちょっと待ってて、いくらか見てくるから」
私はゴンリという食べ物が売っている屋台に走った。
「すみません。このゴンリというものは食べれますか?」
「ええ、食べれますよ。そのまま丸かじりすることもできます。試してみますか?」
そう言って、お姉さんは私にその食べ物を私に手渡してくれた。
「良いんですか? お金を払っていないのに」
「まずは知ってもらうことから。商売の鉄則です」
お姉さんは、にこりと笑う。
「そうですか……。では!」
私は、その食べ物に齧り付いた。
――このちょっと酸っぱい感じ、シャクシャクって言う心地よい触感、前世に食べたことがある! 間違いない、これはリンゴだ! リンゴがこの世界にあるなんて…。でもリンゴがあるということはフルーツというものが他にもあるかもしれない。
「お姉さん! このゴンリは一個いくらですか!」
「金貨一枚です!」
「………え」
私は心臓が口から飛び出るかと思った。
「嘘ですよ。銅貨一枚です」
「ゴンリ、もう一個ください!」
「銅貨一枚です」
私は銅貨一枚を払い、ゴンリを持ってベスパのもとへ向かう。
「キララ様……、もう限界です。そのゴンリを空中に思いっきり投げてください」
「わかった! それ!」
私はベスパに言われるがまま、ゴンリを空中に思いっきり投げた。
すると、四方八方からビーが飛んでくる、今までに見たこともないほどの大群が一個のゴンリを囲んだ。
私はその光景を見て……、立ったまま失神した。
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