お爺ちゃんの手腕
私達は牧場に到着し、子供たちは5組に別れ、それぞれの仕事に向う。
私が向かったのはお爺ちゃんの担当しているメークル小屋だ。
子供たちは剃り終わったメークル達に餌をやりに向かい、掃除の準備を始める。
私はメークルを小屋に運んで体毛を削ぎ取っていく係だ。
昨日、7月に入り、朝の時点で暑くなってきたので、きっとメークル達は相当辛い思いをしているだろう。
「キララ、毛を剃る時はこの小屋の中で行う。分かってるかい」
「うん、もちろんだよ。メークルを1頭ずつ小屋に運んで、毛を剃っていけばいいんだよね」
「そうだ。だが……ほんとに1人で出来るのか? 私と2人でやった方が効率よく行えると思うんだが」
「心配しないで、私がいるとお爺ちゃんの足手まといになっちゃうでしょ。だから二手に別れた方が速く終わるはずだよ。私も時間が経つにつれて上手くなっていくと思うし」
「まぁ、キララがそう言うならいいんだ。さて、早速始めようか。時間が経つにつれメークルに掛かるストレスは大きくなっていくからな。速さが重要だぞ。それに加えて肌を傷つけないよう丁寧に作業を行わなければならない。傷口から感染症になるかもしれないからな。細心の注意が必要だ。キララ、焦るくらいなら丁寧に優しく毛を剃りなさい。その方が速く粗めに剃り終えるより、マシだ」
「分かった。丁寧に優しく、を意識すればいいんだね。任せてよ」
私は『まぁ、できるでしょ』といった安易な考えで始めてしまった。
「メェーーーー!」
メークルは私の腕の中で暴れ回る。
「むっずぃいいーーー!」
――何でそんなに動くの、バタバタしないでよ。大きな体を動かされたら私じゃ支えられないんだから。というか、お爺ちゃん上手すぎる。メークル死んでるみたいに全く動いてないんだけど。同じ動物だよね……。
お爺ちゃんはメークルの毛を刈るようのハサミを巧みに使い、みるみるうちにメークルの毛を刈っていく。
1頭のメークルの毛を刈る作業に5分もかかっていない気がする。
――機械を使わずにメークルの肌だけが見える状態に出来るのなんて……。
私が1頭で藻掻いている中、お爺ちゃんは3頭目に突入している。
もちろん、メークルに毛の刈残しなど一切ない。
「キララ、焦るな。まずはメークルを落ち着かせるところから。そんなに暴れてたらハサミで肌を傷つけてしまうぞ」
「分かってるけど。なかなか上手く……なだめられない」
「メェーーーー!」
(腹減ったー! 草食わせろー! 熱い、熱いぞー!)
「もう、刈り終わったら食べさせてあげるから、おとなしくして」
「キララ様、人の言葉を理解できるメークルは殆どいませんよ」
――ならベスパが、私の言葉をメークルの言葉になおして伝えて。
「先ほどから語りかけているのですが、聞き耳を立ててもらえないんです。聞く意識がない相手に言葉など通じません」
ベスパは足を組みながら、首を横に振り、空中を優雅に飛んでいる。
――そうだけど、これじゃあ上手く成りようがないよ!
私が悪戦苦闘している中、3頭目を終えたお爺ちゃんが近づいてきた。
「だから言っただろ、初めは一緒にやったほうが良いって」
お爺ちゃんはメークルに触れた。
「…………」
お爺ちゃんがメークルに触れた瞬間、ビターーーッと止まりおとなしくなった。
「す、凄い……。全く動かなくなった」
「こいつはただ怖かっただけなんだよ。少し撫でてやればこんなもんさ」
「メェ……」
(うぅ~、怖かったよー。お爺ちゃん)
――さ、さっきと言ってる言葉が全然違う……。ベスパ、どうなってるの?
「どうやら今のがメークルの本音のようですね。私が翻訳できるのは言葉だけです。内側の心までは聞けません。聞けるのはキララ様と同じ種族のビーだけです」
――なるほど。言葉と態度が違うように言葉と心も違うのか……。
「お爺さんのスキルは、どうやら動物たちの心の内から湧き出る心情を感じ取れるようです。言葉は分からないようですが、心の内を知り適切な対処をとれるのでこのような結果になったのだと思われます」
――なるほど……。そうだったのか。じゃあ、刈るのが速いのもスキルの恩恵?
「それは、お爺さんの長年の賜物です。スキルの効果ではありません」
――え! あんなに速くて正確なのにスキルの恩恵じゃないの。
「はい。今までの動きを見たところ、魔力を使用しているわけではないのでお爺さん本来の能力になります」
――す、凄い……、何なら機械よりも早い気がするし。あれだけ上手く成るにはどれだけ練習が必要なんだろう。
「測り知れないですね」
私はお爺ちゃんに助けてもらいながら、丁寧にメークルの毛を刈り取って行った。
数分後、土が少し付いているが白く、ふわふわとしたメークルの毛が地面に落ちた。
メークルはすずしそうな表情をして、餌箱の方へ走って行く。
「や、やっと1頭……。疲れたぁ……」
私はメークルの毛皮に寝そべる。
「ほら、立ちなさい。メークルはまだまだいるんだ。すぐ倒れていたらいつまで経っても終わらないぞ」
「は、はぁ~い」
私とお爺ちゃんは手助けし合いながらメークルの毛を刈った。
お爺ちゃんほど早くは出来ないが、私も少しずつ慣れていき1人でもできるようになった。
すると、先ほどよりも倍に近い速さで刈進められた。
昨日に半分ほど終わっていた刈り取り作業は、今日の昼頃でほとんど終わり、残り数頭になっていた。
「ふぅ~ 今日だけでもすごい量だね。お爺ちゃん、この毛はどうするの?」
「そうだな、倉庫にでも放っておくか。今では殆ど売れないからな。運んだりするだけで金がかかる。どうせなら使ったほうが良いんだがな……」
「なんでメークルの毛は売れないの?」
「メークルの毛は虫に食われやすい。だから、メークルの毛で作った服は虫にすぐ穴だらけにされるんだ。それが需要の低い要因かもな」
「そうなんだ……」
――ベスパ、この毛は食べちゃダメだよ。あと、近くにいる虫にも食べないように行っておいて。
「私は食べませんよ。ですが、食べて良い毛と食べてはいけない毛を分けてくれませんか。さすがにすべてを食べるなというと、死んでしまう虫もいますから」
――なるほど……。どれくらい必要なの?
「大きめの木箱一杯分あれば十分だと思います。毛の量が減ってきたら私達が事前に補充しておきますから」
――分かった、木箱にメークルの毛を入れておけばいいんだね。
私は空の木箱にメークルの毛を詰め込んだ。
「ベスパ、この木箱移動させるから持って」
「了解です」
ベスパは木箱の四つ角に魔力の糸を伸ばし、くっ付けた後、気球のように持ち上げた。
それをメークルの毛が大量に保管されている倉庫に持っていく。
この倉庫もベスパに作ってもらった建物だ。
倉庫の中には、私の身長ほどの高さまでメークルの毛がすでに溜まっている。
私は隙間を上手く歩き、ベスパに運んでもらっている木箱を倉庫のはじっこに置かせた。
「これでよし。それにしても、多いな……。これ、使わないのはさすがにもったいないよな」
「そうですね。今のところ友達の餌にしかなりません」
「まぁ、今のところは使い道が思いつかないから洗って乾かしたあと、ここに置いてあるけど、いつか使うから。ちゃんと保護しておいてよ」
「了解です」
私は倉庫からでる。
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