スキルの使いよう
教会での仕事のとき……。
「ふ~、掃除終わり! 結構綺麗にしたな!」
私は汗を額にじんわりと掻き、背筋を伸ばしてやり切った感を出す。
「キララ様、こちらがまだ汚れています! それに外に雑草が残っていますよ」
ベスパは見落としがちな溝や陰に隠れた雑草などを教えてきた。
「あれ……、ほんとだ」
ベスパは物事に良く気が付く。私の見落としをすぐに見つけて報告してくれるのだ。
「どうしてそんなに、気が付くの?」
「私はお友達がたくさんいますから」
「友達……、そんなのどこにいるの?」
あたりを見渡すが、ビーらしき生き物はどこにもいない。
「私はビーはもちろん、昆虫や魔獣、動物などの言葉がわかるのです。ですから、何か気づいたことがあれば、私に報告してくれるんですよ」
「それって、いろんな生き物と会話ができるってこと!」
「そうなりますね。ただ、あまりにも距離が離れていると聞き取れないのです。ビー同士ならいくら離れていても会話が出来ます」
――戦闘はダメダメだが、援助なら結構いい線行ってるのでは……。もっと研究すれば便利なスキルになるかも。
お出かけの時……。
「良し! お金が結構貯まったぞ!」
私は毎日少しずつ、働いたお金を貯めていた。
「これは何ですか?」
ベスパは硬貨を指さす。
「これは国のお金だよ。これがあれば、好きなものが買えるの」
「へ~、沢山あるように見えますが、いくらほどあるのですか?」
「どうだろう……。金貨二枚分くらいかな」
「好きな物が買えるとおっしゃっていましたが、お金は足りるのですか?」
「え? さぁ、私……。ちゃんと買い物したことがないからわからないかな」
「それならば、もう少し増やしましょう!」
ベスパはお金が入った木箱の中を見た後、声を張り上げる。
「へ? ベスパ、何するつもり?」
「皆さん! これと同じものを集めてください!」
ベスパは銅貨や銀貨を手に取り、窓から外に出るとビー達に硬貨を見せながら言った。
「ベスパ、何したの?」
「少し待っていただければわかると思いますよ」
「は~、何したか知らないけど、私ちょっと寝るから起こさないでよ」
「了解しました! お休みなさいませっ!」
「……」
時間がたち、私は目を覚ました。
「ん……、んん。なんか重いな……。へ?」
私の視界に映っていたのは部屋いっぱいに積まれた銅貨や銀貨、はたまた金貨まであるではないか。今、私は硬貨に埋もれかかっている。
「ちょっと! ベスパなにこれ!」
「私の友達に落ちているお金を拾ってもらいました。いや~こんなに集まるなんて、人って物をこんなに落とすのですね」
ベスパはお金の山の頂点に立ち、胸を張って堂々としていた。
「返しなさい……」
私の心の中でお金を落とした人たちの気持ちが沸々と湧き出してきた。厳しい世の中で銅貨一枚を落とすと言うことがどれだけ命に拘わるか……、私は五年間の生活で十二分に理解していた。
「へ? キララ様」
「返してきなさい! この泥棒!」
私は人差し指をベスパに向ける。
「キララ様! ちょ……、ちょっと、まってください。私はキララ様のためを思って……」
ベスパはあたふたし始め、両手を前に出す。
「たとえ落ちていたお金だとしても、お金を取ったら泥棒と同じでしょ!」
「キララ様、いったん落ち着いて、その指をしまってください」
「一回生まれ変わって来なさい! ベスパ!」
「ちょっとま!」
「『ファイア!』」
「ぎゃわあああああんっ!」
ベスパは灰になった。
「申し訳ありませんでした……」
「はぁ……。落とし物だから誰が落としたまではわからないし、同じ場所に置いておくのも違う気がする……。ベスパ、拾ったお金は教会に全て預けてきなさい」
「はい……。では皆さんお願いします」
すると、ビーの大群が窓から入ってきた。
私は身をかがめ丸くなる。
「そろそろ慣れたらどうですか、キララ様」
ベスパは私の頭上をブンブンと飛び回る。
「無理無理、絶対無理!」
部屋にあったお金がどんどん消えていく。
そしてあっという間に無くなった。
「は~、やっと落ち着いたよ。それじゃあ、街に行こう」
そう思い、私が働いて貯めたお金が入っていた木箱を覗くと……。
「あれ、お金は?」
私は気が付いた。
「もしかして、持ってかれた……」
「まぁ、どれがキララ様のお金か言うの忘れてましたねー」
ベスパは後頭部に手を置き、舌を出しながら黄色っぽい瞳を輝かせる。
「ベスパー! どうしてくれちゃってるの!」
「す、すみません!」
私は神父様に頼んでお金を返してもらった。
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