魔造ウトサの害悪性
「どうして守るんですか。そんな最悪なウトサは全て燃やし尽くすべきです!」
「ダメなんです。燃やす、埋める、溶かす、何をしても有害になってしまいます」
「え……、有害ですか?」
「そうです。僕も何度か魔造ウトサの存在を消そうと色々試しました。初めは、キララちゃんがやろうとしていた、燃やして炭にする方法。これをやったら魔造ウトサから瘴気が大量に発生したんです。驚き過ぎで腰を抜かしましたよ。換気をしてなかったら即死だったでしょうね」
「そんなに……」
「次に試そうと思ったのは水に溶かして川に流す方法。これもダメでした。川に流す前に、試しで水に少量溶かして魚のいる水槽に入れたんですけど、魚が即死しました。水の量からして1対300くらいの差があったんですがね。魔造ウトサを水に溶かして川に流したら、どうなっていたか。想像するのも恐ろしいです」
「魚が即死……」
「最後に土に埋めました。この方法は今までの2つよりも効果はありました。ただ……送られてくる料に対して毎回この作業を行っていたらキリがありません。加えて時間が経つにつれ、地面が変色していったんです。試しに苗木を植えたら、次の日には枯れていました。土を汚染してしまったんです」
「土まで汚染するなんて。その魔造ウトサ、どれだけ害悪なんですか」
「ドリミア教会には奇跡を扱える聖職者と邪気を払う聖水があります。この2つを使えば消滅させられると踏んでいるのでしょう。例えば、重鎮が依存症になったとしても、病気だと言いはり、高額な奇跡や聖水を使用させる。重鎮の依存症を治して大金を手に入れます。その重鎮はお菓子が原因だと知らずに、魔造のウトサ入りのお菓子を食べ続け、依存症を再度発症。負の循環を繰り返す。すると、王国中で大量のお金の木が完成します。僕の想像でしかありませんけど、ドリミア教会ならやりかねないでしょう」
「そんな酷い教会なのにどうして信者がいるんですか。すぐにでも暴動が起きてもおかしくないと思うんですけど」
「ドリミア教会は大本の正教会から派生した宗教になります。元々正教会は多くの民に信仰されており、その影響力は絶大です。王都にいる国民は殆ど正教会を信仰しています。その為、派生形のドリミア教会も影響力が強く、スキルを重視する正教会信者に抵抗なく受け入れられている。表立った行動をとる機会は少なく、悪い行動は全て正教会が隠ぺいする。ドリミア教会の利益は正教会の利益に直結するので抑制策を取りません。もう根から腐っているんですよ。カトリックと無名会は懸命に正教会の暴走を抑制しようとしていますが……あと一歩力が足りずに粛清の対象になってしまいます」
「そうなんですか……。色々複雑に絡み合っているんですね。ショウさんは途中から断わらなかったんですか」
「何度も言いました。その度に帰ってくるのは脅し文句と大量の金貨。あげくの果てに『店を奪われ家族を殺されるか、この金を使って店をさらに大きくするか選べ』と言われ、了承してしまったんです」
「そうですか……。家族と天秤に掛けられたら仕方ないですよね。私だって家族を殺すなんて言われたら絶対に選べません。ショウさんは被害者なんです。本当に悪いのは害悪な方法でお金を作り出している教会の方。ふぅ~どうしましょうか。まぁ、とりあえず、いっぷくしましょう」
「へ……。いっぷく、ですか?」
――ベスパ、クーラーボックスをさっきまでいた部屋に持って来て。他の人に見られないよう光学迷彩で消しながらね。
「了解しました! すぐ持ってきます!」
「ショウさん、さっきまでいた部屋に戻りましょう」
「わ、分かりました」
私達は先ほどまでいた部屋に戻る。
既にクーラーボックスはテーブルの上に置かれていた。
「いつの間に、この箱は運び込まれたんですか」
ショウさんは驚きながら椅子に座る。
私は蓋を開けて牛乳パックを1本取りだす。
「それじゃあショウさん、この牛乳を温めてカップに入れてきてください」
「え……。分かりました」
ショウさんは牛乳パックを持って多くの人が眠る料理場の方に歩いて行った。
「ベスパ、今の状況は?」
「はい、街の人は5店のお店で高級なお菓子を購入しています。買えない方は怒鳴り散らかし、暴動を起こす寸前ですね」
「確か、人を狂わせているのは魔力が原因なんだよね?」
「はい、そう考えております」
「それなら、ベスパ達が魔力を吸い取ればいいんじゃないの? 暴れて吸い取れない人は『ハルシオン(トリアゾラム精製)』で眠らせてあげてから処置すればいいし」
「確かにそうですね。ビーたち一匹一匹に蓄積できる量は少ないですが、全てを私に集めて死ねば、人の中に溜まった魔力を消し去るのは容易です。ただ、根本的な解決にはなりませんよ」
「まずは、暴動を止めるのが最優先だよ。私の魔力はどれくらい回復したの? 魔力がないと何もできないし」
「キララ様の魔力は既に10割を超えています。無意識に漏れ出していますので、私がビーたちに報酬として振り分けているのです」
「え……。私ってそんなに魔力の回復が早かったの」
「そうですね。魔力も溜まりすぎては危険ですから、私が管理しておりました。日に日にキララ様の魔力貯蔵量も増えていますから、私の管理もいずれ必要なくなると思います。その時になったらキララ様の魔力量はどれほど膨れ上がっているのか私は楽しみで仕方ありません」
「そうなんだ。ベスパが魔力を管理してくれていたなんて、見えない所で頑張ってたんだね。ありがとう」
「いえいえ、管理しないとキララ様の体が爆発してしまうので当たり前の仕事ですよ」
「爆発って……、またそういう怖い情報を教えてくれないんだから」
「私がいる限りはお教えする必要ありませんでしたから」
「まぁ、いいや。ベスパ、街の魔造ウトサ依存者の人から魔力を吸い取ってきて」
「了解しました!」
ベスパは壁をすり抜けて行く。
ベスパと入れ違いでショウさんは戻って来た。
「お待たせしました。温めたモークルの乳です」
「ありがとうございます。ショウさんも座って飲んでください。心が落ち着きますよ」
「ありがとうございます、それではいただきます」
真っ白なカップに注がれた牛乳は、白い湯気を立ち昇らせていた。
牛乳の優しい香りは私達の心を落ち着かせてくれた。
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