私のスキル『虫使い(ビー)』
アイクを見送った後、私は家に帰り、ベッドの上に向かった。
――とりあえず、あのビーに付いて知らないと。
私がスキルをもらってから始めに行ったのは、ビーとの会話だった。
「まず、あなたは誰なの? どうして喋ってるの?」
私はベッドの上で毛布に包まりながら、部屋の中を飛んでいるビーに聞く。
「私は女王様から生まれた存在であります」
ビーは空中で停止し、喋る。
「私から生まれた?」
――このビーは何を言ってるの……。私、こんな虫を生んだ覚えないんだけど。
「そうです。私は女王様の魔力から生まれました。なので女王様の分身と言っても過言ではありません」
「あの……、その女王様って言うのやめてくれない……。なんか恥ずかしいんだけど」
「しかし、私たちビーは女王様から生まれているので、そこは忠誠を払わないと」
――ビーの忠義か。
「ええっと……。じゃあこれからは女王じゃなくて名前で呼んで。そのほうがまだマシだから」
「了解しました。ではこれからはキララ様! とお呼びいたします」
ビーは翅音をブンブン鳴らしながら大声で言う。
「次に、え~っと……その姿はやめてくれないかな。怖くて直視できないんだけど。あなた、姿を変えることなんかはできるの?」
「できます、私はキララ様の魔力ですので、キララ様の思う姿になる事が出きますよ。ビー限定ですけど」
「それじゃあ、現実の姿じゃなくて、もっと可愛らしい姿になってくれない、アニメ……と言うか、誰が見ても驚かない感じで」
「わかりました。ではキララ様の記憶の中から少しでも可愛い姿になりましょう」
そう言ってビーは、淡い光に包まれる。
「こんな感じでどうでしょう」
頭胸腹に加え、胸に六本の脚と翅が生えていたビーは妖精のような人型になった。
――うわ、懐かしい……。子供のころに呼んでもらった蜂の絵本のキャラクターに似てる。ただ、あそこまで髪がキラキラの金髪じゃないし、スーツみたいな黒い服も着てない。赤色の蝶ネクタイが絶妙にうざい。三頭身くらいの可愛らしい見た目……、と言うかどこかホストっぽく見えなくもない。まあ、手足が短いし、赤ん坊みたいだから恐怖感はマシになったか。
「うん、さっきよりもマシ。やっとびくびくしないで済むよ」
私は息を吐き、気を楽にする。
「私たちはキララ様に危害など与えませんよ。もしそんな奴がいるのでしたら私が懲らしめてやります!」
ビーは握り拳を作り、シャドーイングしながら飛ぶ。
「そうかもしれないけど……、怖いものは怖いの。それに喋るビーって……」
「今までも私はキララ様に、話しかけてきたのですがやはり言葉が通じなくて。神様がくださったスキルのおかげで、こうして会話をすることが出来ているのです」
――スキル。
「スキルって「虫使い(ビー)」のこと?」
「そうです。『虫使い』の効果によってこうして話しができるのですよ」
「でも、あなたは私の魔力だって言ってたよね。それなら、別にスキルが無くても話せたんじゃないの?」
「そうかもしれませんが、キララ様が強制的に私たちのことを嫌っていたような状態でしたので、意思疎通が出来なかったのだと思われます」
――嫌っていた……。思い当たることが多すぎる。
「確かに、私はビーが出たら真っ先に自分の安全を確保しようと考えてた」
「スキルのおかげで、私とキララ様を繋ぐ道が強制的に開かれた感じになってしまいましたが何はともあれ、これからお供することが出来るのでうれしい限りです」
ビーは私の頭の上をブンブンと飛び回る。
「でも、あなた弱いでしょ。『ファイア』で死んじゃうんだから、戦えると思えないけど」
私はちょっと挑発するようなことを言ってしまった。
するとビーは翅をブンブンと鳴らし頬を膨らませる。
「そんなことありません! 私はキララ様を守るためならどんな強敵にでも勝ってみせます!」
「『ファイア!』」
私はビーに向って『ファイア』を放った。
「ぎゃあああああああああ~!」
私が放った『ファイア』はビーに吸い込まれるように直撃し、マグネシウムを燃やした時のように激しい光を発しながら燃えて消えた。
――消えちゃった。
そう思っていたら
「ちょっと! 何するんですか! 燃えて一回死んじゃいましたよ!」
ビーは八秒ほどするとまたもや私の目の前に現れた。
「復活した……。どういうこと?」
「言ったじゃないですか、私はキララ様の魔力から生まれた存在です。キララ様の魔力さえあれば何度でも復活します!」
ビーは鼻息を荒げながら胸を張り、堂々と答える。
「そうなんだ……。って、ちょっと待って。もしかして一生この鬱陶しい存在が纏わり付くってこと?」
「そういうことになりますね。安心してください、私がやられたとしても私の魔力はキララ様に戻りますから」
――いや、そういう問題じゃなくて……。
「じゃあ、あなたは私が死なない限り不死身ってこと?」
「どうでしょうか、私にもよくわかりません」
――よくわからないって、あいまいな回答だな。
「あなたの名前はなんていうの?」
「名前はありません。ですからキララ様が私に好きな名前を付けてください」
――好きな名前……。別に好きな名前があるわけじゃないから、適当に。
「そう……、じゃあ、あなたの名前はベスパにする」
「ベスパ……。わかりました。私はこれからベスパと名乗ります!」
どうやら気に入ってくれたようだ。
「ベスパの声は他の人には聞こえているの? それに、見えているの?」
「いえ、私の声はキララ様にしか届いていません。ですから盗み聞きされる心配はありませんよ。ただ、周りから見たらキララ様が独り言を呟いているように見えますのでお気をつけて」
「私、独り言だって周りに思われてたの」
――アイクを見送る時、変な目で見られてるなと思った……。周りから変な子だって思われてたのかな、結構恥ずかしい。
「実際の私の大きさはビーと変わらないので他の人からは気にされることはないでしょう」
「はぁ……。それじゃあ、ベスパが他にできる事って何なの?」
「そうですね、先日もやったようにビーを集めることが出来ます」
「私にとっては全く要らないスキル……。他に?」
「先ほども行った視界の共有が出来ます。試しにやってみましょうか?」
「え?」
ベスパはそう言うと、窓から外へ飛び出していった。
「『視界共有』」
すると私の目の前にあった毛布が消え、家の屋根が見える……。山や川、平原など魚眼レンズで見ているような景色が視界に映った。
「いや……、これ気持ち悪い……」
いきなり上空の景色を見させられたあげく、グワングワン揺れる視界、さらに複眼によって多くの景色が一斉に私の頭の中に入ってくる。
もう既に三半規管が悲鳴を上げていることがわかった。
「と、止まって! もういい、もういいから!」
「了解しました」
すると、視界が元に戻る。
「はぁ……。一瞬で疲れちゃった。もう全く使えないじゃん」
「どうでしたか?」
ベスパは外から部屋の中に戻ってきて空中を飛ぶ。
「もう最悪……」
「初めはそうかもしれませんが、次第になれていきますよ」
「そうかな……」
――いや、こんな気持ち悪くなる行為はできるだけ使わないようにしよう、私の頭が壊れちゃう。
「それじゃあ、攻撃なんかはできるの?」
「もちろん! 私はキララ様の魔力ですから、この体で攻撃に適した部位を作れます」
そう言って、お尻を向けると鋭い針が出てきた。
「この針でブスッと刺して攻撃しますよ!」
「あなた、女の子だったの?」
「どうしてです?」
「だって針があるから……」
「私は性別なんてどうでもいいんですよ。キララ様さえ守ることが出来れば!」
「そう……。じゃあ試しに、私に攻撃してみてよ」
「そんなことできません! ただでさえキララ様は私たちを嫌っていらっしゃるのに」
「良いから! 訓練だと思って」
「わかりました……。当たりそうになったら寸止めします!」
「全力で攻撃して来てね」
「は、はい! では行きます!」
そうして、ベスパは助走を付けて私に飛び込んできた。
「テリャ―!」
「『ファイア』」
「ぎゃああああああ~! 熱い!」
ベスパは床に落ちて灰になった。
「は~思った通り、戦闘には向かなそう……」
――速度が遅い、これならあの双子には簡単に倒されちゃうな。
「キララ様! 私を二回も殺すなんて!」
復活したベスパは両手足と翅をブンブン動かしながら怒ってきた。
「避ければよかったじゃん」
「…………確かに!」
――この子、バカなのかもしれない。
その日からベスパとの生活は始まった。
「ベスパはどこで寝るの?」
「私はここで寝ます」
そう言って持ってきたのは小さな丸太だった。
「丸太……」
「はい、丸太です」
ベスパは丸太をかじり、小さくなったベスパが丁度収まるくらいの大きさの穴を開けた。
「では、キララ様、お休みなさい」
ベスパは頭を下げ、穴の中にもぞもぞと入っていく。
「お休み……って」
――いや、もう朝だから。
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