ルドラさんの手腕
私達はギルドの近くまでやってきた。
「さてと……、ベスパ、昨日作ったクーラーボックスと同じ役割を果たす荷台を出せる?」
「はい! もちろんです。すぐに作りますね」
ベスパ達はほんの数分で荷台型のクーラーボックスを作ってしまった。
「キララ様、完成しました。昨日の試作品より頑丈に作ったので簡単には壊れませんよ」
「そうなの? 私には昨日とどこが変わっているのかよく分からないけど……まぁ、ベスパがそういうなら、きっと頑丈に出来てるんだろうね」
たとえベスパが頑丈だと言っていても私は一応点検する。
木製の車輪や厚めの扉、などに問題がないか確認していく。
「車輪は割れてないし、接続部分も問題ない。扉の滑らかな開け閉め具合もいい感じだね。うん、これなら売り物になるかな」
私はレクーの引いている荷台に戻り、3人に伝える。
「皆、今から私はルドラさんと言う商人さんを呼んでくるので、ちょっと待っててください」
「うん、分かった」
私はレクーの隣に冷蔵車(クーラーボックス型の荷台)を置き、商人のルドラさんのもとに向かう。
私はギルド前に向い、少し警戒する。
――前来た時に扉をぶち破って出てきたんだ。今回も何があるか分からないから、用心だけはしておこう。
私は恐る恐る近づく。
「今日は、騒がしくなさそう……」
私はギルドの扉そっと押して中に入る。
お昼時を過ぎている為あまり人はいないが、ギルドの中はそれなりに席が埋まっていた。
「そう言えばここ、飲食店もやってるんだった」
獣人族のトラスさんは忙しそうに駆け回っている。
私はカウンターの方に歩いていき、ルドラさんと思わしき人物に話しかけようとした。
だが、ルドラさんはシグマさんと話している様子だったので近くの1人用の席に座り、話し終わるのを待つ。
――どんな話をしているんだろう。耳をちょっと傾けてみてもいいかな……。
「今、どういった状況なんだ」
「それがですね。結構大変な事態になっているみたいなんですよ」
「そりゃそうだろう。ブラッディバードが増え始めたんだ。近くの村人にとっちゃ迷惑で仕方ないだろうな」
「そうですよね。でも、もう少し増えないと大量発生として認識されないですから、駆除にお金が掛かってしまうそうなんですよ」
「まぁ、金の無い村は冒険者を雇うだけの貯えなんてあるわけないからな。俺も助けてやりたいが、もう少し我慢してもらわねえと。その分、大量発生認定されたときはすぐに駆け付けると伝えてくれ」
「そうですね。分かりました、村についた時そう伝えますね」
――ブラッディバードが増え始めたんだ。あんなデカイ鳥が暴れ出したら恐怖だろうな。でもすごいお宝のにおいがする……。あ、ルドラさんが立った。早く話しかけないと……。
「すみません、ルドラさん。昨日お会いしたキララ・マンダリニアです。頼まれていた物を持ってきました」
「あ、キララさん! 待ってましたよ! 丁度さっき商業ギルドでお金を降ろしてきたところです」
「そうなんですか。それじゃあ、早速商品を見てください」
「了解です」
私はルドラさんを連れ、荷台の方へと歩いて行った。
「おお~、これがあの箱と同じ効果を持った荷台。これは売れるぞ~」
ルドラさんは目を輝かせながら、冷蔵車を舐めまわすように見て回った。
「これを金貨50枚で買えるなんて……。僕の知り合いの商人に渡せば金貨150枚は固いですね」
「150枚……。す、すごい金額。そんな金額で買う人は本当にいるんですか?」
「いますよ。王都ならゴロゴロいるでしょうね。王に生ものを献上できたりする訳ですから。食材を腐らせず長距離を運べる荷台なんて、売れるとしか考えられません」
「そうだといいですけど……。でも、あんまり有名にならないよう配慮してくださいね。あまり仕事を増やされると、本業の仕事が回らなくなりそうですから」
「そうですか……分かりました。僕の友人にもそう言っておきますね。あ、でもあいつ自慢好きだからな。まぁ、心配しないでください何とか説得しますから」
「な……何とかですか」
――なんとも不安な言い方だな。まぁ、お金がもらえるなら少しくらい忙しくても我慢するけどね。
「えっと、次に牛乳ですけど荷台の後ろにあるので着いてきてください。あと重いので持ってもらえますか」
「了解です。それにしても、立派なバートンですね……」
「ありがとうございます。私が育てたんですよ。乗りこなすのも一苦労でした」
「はぁ~、バートンの飼育もされているんですか……。このバートンなら王都でも十分通用する品格ですよ。ここまで白いバートンも珍しいですし、高貴な方達に相当な高値で売れると思いますよ」
「レクーはどんなに高値を出されても絶対に売りませんからね。もう私達の家族同然なんですから」
「あ、癇に障る発言をしてしまい申し訳ありません。商人ですのでつい……」
「いえ、別に怒っている訳じゃないので。それにレクーが王都でも通用すると言う話を聞けて嬉しかったので気にしないでください」
「そうですか。それなら良かったです。えっと、この子達はお友達ですか?」
荷台の前座席に座っている3人にルドラさんは気づいた。
「お友達と言えばお友達ですけど、今日から私達の牧場で働いてくれる従業員さん達です」
「へぇ、まだ小さいのに働かせてもいいんですか? 力仕事や知識を使った仕事は難しいと思いますが……」
「子供達には難しい仕事を任せません。初めは簡単な仕事から始めてもらいます。それこそ配達や掃除なんかですね。月日が経てば体格も大きくなりますし、仕事にも慣れ始めてきたら難しい仕事にも挑戦してもらおうかと思っています」
「はぁ~、しっかりしてる牧場なんですね~。もし牛乳の評判が良かったら、僕が村と王都を繋ぐ役割を担ってもいいでしょうか? と言うか私にやらせてほしいです」
「まぁ、牛乳の売れ行きが良かったら考えますよ。その分、ルドラさんの手腕に掛かっている訳ですが……、自信はあるんですか?」
「もちろんですよ。僕の商人経験と人脈を使いまくって、何としてでも買ってもらいます。いや、あっちから買いたいと懇願される状態にまで牛乳の価値を高めてみせます」
「いや、そこまでしなくても大丈夫ですから。えっと、普通に王都で売れる経路さえ作って貰えれば十分なので、あんまり無理しないでください」
「そうですか……。まぁ、キララさんがそうおっしゃるのなら従いますけど……。僕の力関係なく自然に広がってしまったらすみませんね」
ルドラさんは笑顔を私に向けた。
――何だろう……嫌な予感がする。有名じゃなくて、王都の人たちがちょっと知ってるくらいでいいんだよな。あんまり有名になりすぎると、後々こわい。私もアイドルの時、何度殺されかけたか。
私はルドラさんを普通の荷台の後ろに移動させる。
「ルドラさん。牛乳の取り扱いについてしっかりと覚えてください。私達の牛乳は安全第一、味第二、売上第三、を掲げています。牛乳、モークルの乳は栄養価が高くとても腐りやすいので、安全面は欠かせません。私達の牛乳を飲んでお腹を壊したなんて話を聞きたくありませんから」
「牛乳の白さで安全だと十分伝わるんじゃないですか? モークルの乳があそこまで白くなるのを僕は今まで見た覚えがなかったので、凄く驚いたんですけど」
「まだ、スグルさんに検査を行ってもらっている途中なので何とも言えませんが、色だけで判断できる商品じゃないんですよ。毎日ドキドキしながら配達してますから。少しでも色がおかしいなと感じたら廃棄、また違う商品の作製に回します。安全面100%を目指して日々努力しているんです」
「は~、他の牧場にも見習ってほしいほどの仕事意識ですね。感服しました。それじゃあ僕も、商品の取り扱いをしっかりと守らなければなりませんね」
「はい、その意気ごみでお願いします。私はルドラさんならしっかりと守っていただけると思って話をしますが、もし守れない様な場合がありましたら、すぐに手を切りますので、ご了承ください」
「はは……これは僕の腕の見せどころですね」
私はルドラさんに牛乳の取り扱いについて説明した。
「私達の牛乳は超高温瞬間殺菌と高温保持殺菌の二種類の殺菌方法を使っています。加えて魔法も使い、さらに安全性を高めています。ルドラさんに運んでもらうのは超高温瞬間殺菌略してLL牛乳ですね。王都にはこのLL牛乳を売ろうと思っています」
「その2つは何か違うんですか? というか殺菌とはいったい何でしょうか。瘴気の除去と何か違うんですかね」
――あ……、こっちの世界では瘴気と細菌は一緒の扱いなんだった。
「えっと……瘴気の除去と考えてもらって大丈夫です。あと2つの違いは安全度の違いですね。LL牛乳の方が腐りにくいんです。なので長い距離を移動する際には有効だと判断しました」
「なるほど」
「本来LL牛乳は、あまり温度を気にしなくてもいいんですが王都まで3日以上掛かると思うので、しっかりとした温度管理を行ってもらいます」
「その為のこれですね……」
ルドラさんは冷蔵車を指さした。
「はい、冷蔵車の中に氷を入れられる部分があります。氷を常に入れてある状態を保ってもらうのが1つ目の条件です。ルドラさんは魔法で氷を出せますか?」
「ええ、氷を出すくらいなら全然できます。学園でちゃんと学んできたので、こう見えても結構優秀な方なんですよ」
――へぇ……ルドラさん、学園に通ってたんだ。それなら話をもっと聞いてみたいけど、今は牛乳の話だよね。
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