3人の食欲
「すみません! お待たせしました」
「あ、キララちゃん。お疲れさま。今回も上手くいったの?」
メリーさんは荷台の前座席に座り、足をプラプラしながら聞いてきた。
「はい、今回も上手く行きました。それじゃあ皆さん、昼食にしましょうか」
「ほんとですか!」
カイト君はレクーの背中に乗りながら私の方に振り向く。
そのせいで体勢を崩し、よろけてしまった。
「ちょ、カイト君危ない」
「うわっ!」
カイト君はレクーの背中から落ちてしまう。
ただ、地面に叩きつけられる前にレクーがカイト君の服に噛みつき落ちるのを防いだ。
「よ、よかった……」
レクーはそのままゆっくりとカイト君を地面におろす。
「落ち着いて乗らないと危ないですよ」
レクーはカイト君に話しかけるも、その言葉は通じない。
だから、私が代弁する。
「カイト君、レクーが落ち着いて乗らないと危ないって」
「そうですよね。ごめんなさい」
カイト君は潔く謝った。
「次からは気を付けてください」
「次からは気を付けてだって。別にレクーは怒ってないから、謝らなくていいよ」
「ほんとですか……。それじゃあ、レクーさんの背中にまた乗せてくれますか?」
「もちろんですよ」
「もちろん、乗ってもいいって」
カイト君は喜び、レクーに抱き着いた。
――そんなにレクーを気に入ってくれたんだね。レクーにも友達が出来てよかった。
「それで……キララちゃん、今からどこに行くの?」
セチアさんはお腹を押さえながら私に聞いてくる。
「そうですね。市場に行って食べ歩きしましょう」
「食べ歩き……。盗み食いじゃなくて?」
「盗み食いはもうしちゃだめですよ。犯罪者になってしまいます。今日から皆さんは私達の牧場で働く従業員さんなんです。牧場の印象が悪くなるような行動は避けてもらいますからね」
「は、はい……。ごめんなさい」
「分かって貰えれば十分です。それじゃあ、市場に向いましょう」
私達はレクーの引く荷台に乗り、市場を目指した。
丁度昼時だった為、多くの人が市場で買い物をしている。
「ん~、やっぱり人が多いですね。えっと、ゆっくりと歩くので何か欲しい食べ物が見つかったら言ってください。そこで止まるので」
「分かった。えっと、ほんとにどんな食べ物でもいいの?」
「値段と要相談ですね。高すぎる食べ物は買えないので。でも値段さえ安ければ何を食べてもらっても構いませんよ」
「それじゃあ、あれを食べてみてもいい……」
「え、もう決まったんですか。決めるのが早いですね、セチアさん」
私達は市場の入り口に来たばかりなのだが、セチアさんは食べたい物をもう見つけたみたいだ。
セチアさんの指差している方向には魔物の串焼きが売られていた。
「串焼きですね。分かりました買ってきます。カイト君とメリーさんも食べたいですか?」
「はい!」×2
2人は元気よく手を上げながら返事をした。
「分かりました。それじゃあ、4本買ってきますね」
私は荷台から降りると串焼きを売っている露店へと向かう。
「すみません。串焼きを4本ください」
「はいよ。1本銅貨5枚だ。4本なんで銅貨20枚か銀貨2枚だな」
「分かりました」
――一本500円くらいか……。ほんとに日本の屋台と変わらないな。味は全然違うだろうけど。
私はポケットから財布代わりにしている革製の袋を手に取り、中から銀貨2枚を取り出す。
「はい、銀貨2枚です」
「ちょうどだな、まいどあり」
露店の店主から焼きたての串を4本貰い、私は皆の待つ荷台へと戻った。
「買ってきましたよ。1人1本取ってください」
3人は1本ずつ串を手に取ると、躊躇う素振りを見せず、先端に刺さっている肉を頬張った。
「ん~~! お肉、初めて食べました。串焼きは盗むのが難しくて一度も食べた覚えなかったんです。でも、お肉ってこんな味なんですね。噛み応え凄いです」
――皆美味しそうに食べてるな。本当に美味しいのかな。大分香辛料のにおいがするけど。さすがに塩の味はしないよね。
私の持つ串焼きからは、ハーブと胡椒、唐辛子、山椒の様な香辛料の匂いがした。
――一番強い匂いは、ハーブかな。多分魔物の肉をハーブに付けて、胡椒で味付けと腐りにくくしてるんだろうな。
私は色々考えながら、串焼きに齧り付く。
「もぎゅもぎゅもぎゅ……。ん~、辛いけど味が付いてない肉よりマシかな」
魔物の臭みは大量の香辛料によってかき消されている。
むせかえりそうな程、香りの強い香辛料は、私の舌裏から唾液を溢れさせる。
その為か噛めば噛むほど、魔物の肉と香辛料の味は溶けあっていく。
100回くらい噛んだだろうか。
これくらい噛んでやっと串焼きの肉は飲み込めるほどの軟らかさになった。
私が1つの肉を食べている間に3人は串焼きの肉を殆ど食べてしまっていた。
「凄い速いですね。ちゃんと噛んでますか?」
「え? あ~どうだろう……。早く食べるのは習慣になってるから、あんまり意識して噛む回数を数えてないや。昔は盗んだら早く食わないと店主にバレたり取られたりするから、すぐ食べてたんだ」
「それはあまりよくないですよ。ちゃんと噛んで細かくしてから飲み込んでくださいね。そうしないと消化に悪いです。あと、最低でも30回は噛まないと顎も弱くなります。年を取ってから美味しいものが食べられなくなりますよ」
「ハーイ」×3
いまさら言っても遅かったかもしれないが、私は一応言っておいた。
「それじゃあ進みましょうか。私はもうお腹いっぱいなので、食べなくて大丈夫ですけど。まだ食べたい物があれば言ってください、私が買ってきますから」
私達は多くの人が行きかう中を少しずつ進んでいく。
3人の食欲はすさまじく、屋台の食べ物を片っ端から食べつくしていく。
肉、野菜、黒パン、果物……。
新しい露店が現れるたびに私は荷台から降りて運びを繰り返していた。
「はぁはぁはぁ……。さすがにもうお腹いっぱいになりましたか……」
「そうだね。丁度8分目になったくらいかな」
「私はまだまだ食べれるよ~」
「僕も~」
「す……すごいですね。でも、さすがにこれ以上は買えないので勘弁してください……」
――この食欲モンスター達をどうにかしてお腹いっぱいにさせてあげたいけど、露店でやるにはお金が掛かりすぎるから、自炊で賄わないといけないな。そう考えると、私って串1本でお腹いっぱいになれるなんて効率良すぎだな。
レクーにもゴンリやシトラスを食べさせ、活力を養ってもらう。
べスパ達にも5個ほどゴンリを投げ与える。
ベスパ達は空中でゴンリを一瞬にして食べ終えると、狂ったように喜ぶのだ。
空中でブンブンとうるさい音が鳴っている。私はビー達が落ち着くのを待った。
――さてと、ベスパ。ショウさんかルドラさん、スグルさん、誰が一番暇そう?
「そうですね。今だと、ルドラさんが暇そうにしてます」
――それじゃあ、ルドラさんの所に行こう。今、ルドラさんはどこにいるの?
「ギルドにいます。ギルドマスターと何か話しているみたいです」
――ギルドにいるのね。分かった。
「レクー、ギルドに向ってくれる」
「分かりました」
私はレクーにお願いし、ギルドへと向かってもらった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。
毎日更新できるように頑張っていきます。
これからもどうぞよろしくお願いします。