レモネティー
「美味しい……」
「はい、凄く美味しいです。私の求めていたミルクティーはこれです。本当に素晴らしい、これだけ美味しいミルクティーは王都でも飲めませんよ。私は8年ほど王都で修業しましたけど、これを超えるミルクティーを飲んだ覚えがありません」
「やっぱりミルクが新鮮だと美味しくなるんですかね」
「それもありますね。でも、ただ新鮮であればいいという訳じゃありません。モークルのミルクを紅茶にそのまま入れてもこの味は出せません。昔に一度試した覚えがありますが確実にこの味に負けています」
「そうですか。新鮮なだけじゃダメなのは分かりましたけど、何でこんなに美味しいんですか?」
「紅茶はいい品を使っています。王都の貴族の方が飲まれているロイヤルブレンドに私特製のブレンド紅茶を混ぜてお湯だししています。昨日、キララちゃんの牛乳を飲んでから舌に残った微かな情報を頼りに牛乳に最も合う調合を考えて作り上げました」
「す、すごい執念ですね」
「それはもう、至極のミルクティーを飲むためなら私はどこまでも足を運びますよ。その至極のミルクティーを私の手で作れるなんて思ってもみませんでしたけどね」
「ミルクティーがそんなに好きなんですね」
「そりゃそうですよ。ミルクティーはなかなか飲めないですからね。至極となればさらに難しいです。でも、キララちゃんの牛乳なら、どんな人でもこの美味しさを体験できるかもしれません。私の行った工程なんて、たかが知れてます。キララちゃんの牛乳は本当にいい品ですね」
「そんなに言ってもらえて私もうれしいです。えっと喫茶店なのにミルク単体では売られていないんですか?」
「そうですね、私もミルクだけで売りたいんですけど、単体で飲めるミルクが見つからなくてですね。でもやっと見つけました。キララちゃんの牛乳なら間違いなく単体でも出せますし100%売れます。この味を嫌いな女性は殆どいません。ウトサ以外の甘みを感じられる飲料、それだけでも売れますよ! 絶対にみなさんよろこんでくれます!」
――す、すごい燃えている。カロネさんは皆に喜んでもらうためにやっているんだ。それだけじゃなく自分の探求心まで追い求めている。可愛らしい見た目からは想像もできないくらい努力家なんだ。
「はぁ、すみませんね。ちょっと取り乱してしまいました。それにしても、なんか爽やかな香りがしますね。私、こんな匂いのする花は飾っていないはずですけど……」
「凄いですね。こんなに沢山の匂いがある中で嗅ぎ分けられるんですか」
「できますよ。何たって私は鼻がいいですから。それにここの花を植えているのは私なんです。分からない訳無いじゃないですか」
「そうなんですか。ちょっと待ってください、今、出しますから」
私はレモネとレモネの葉をカロネさんに手渡した。
「えっと、牛乳と同じように持ってきた品なんですけど」
「これはレモネ、ですよね。キララちゃんがどうしてこれを?」
「村にレモネがいっぱいできていたので一度見てもらおうかと思いまして。カロネさんはレモネを知っているんですね」
「そうですね。一度口にしましたけど刺激が強すぎて食べきれませんでした」
「レモネはあまり露店で売られていないと思うんですけど、どうしてなんですか?」
「レモネはですね、別名眠気覚ましと言われるほど酸味の強い食材です。生で食べる人はいません。野生の動物や魔物も口には決してしません。それほど強烈な酸味なんです。なので食材なんですけど、皆に知られていないんですよ」
「だから、メニューの中にレモネの文字が1つも無かったんですね」
「はい、レモネの紅茶を作っても食材と知られていないので売るのはとても難しいんですよ」
「えっと、それなら一度試してもらえませんか?」
「え……なにを試すんですか?」
「紅茶の中にレモネ汁を入れるんです。レモネ汁だけじゃなくて輪切りにしたレモネでもいいんですけど、味がだいぶ変わって面白いですよ。紅茶の苦みが緩和されて飲みやすくなる人もいるはずです」
「そうなんですか。そう言われると試したくなってきましたね。ちょっと待っててください。ストレートティーを入れていきます」
「あ、後ティーポットにお湯を張って持って来てくれませんか。レモネの葉を使った
ハーブティーも飲んでみたいので」
「分かりました。すぐ持ってきます」
――それじゃあ、私はその間にレモネの葉を乾燥させよう。風魔法の『ドライ(乾燥)』を使って葉の中の水分を蒸発させていってと……。
私の手に持っているレモネの葉はみずみずしかったが葉の中から水を抜かれてしまったため、緑色を保ったまま乾燥した。
「これでよし。後は細切れにしてお湯に入れれば、レモネハーブティーが出来るはず」
「キララちゃん。持ってきましたよ、ストレートティーとお湯の入ったティーポット」
「ありがとうございます。それじゃあ早速作ってみましょう」
――作ると言っても、レモネティーの場合はレモネを輪切りにしてストレートティーに浮かべるだけなんだけどね。
「それじゃあ、ストレートティーを注ぎますね」
レモネを輪切りにしたものをカップに入れておき、その上からストレートティーを注いでいく。
輪切りにされたレモネの香りは強烈で嗅ぎに行かなくても勝手に漂ってくる。
周りの花の香りを消し去ってしまうほどレモネの香りは強く、部屋中に充満してしまった。
「すごく強い爽やかな香りですね。でも、決して悪くありません」
「そうですね。これだけ匂いが強いと紅茶の香りもかき消してしまいそうです」
私は仕事が忙しすぎて、家でお茶を飲む時間すらなかった。
なのでレモネが紅茶に合うか知らない。
レモネの味は全くと言っていいほどレモンと同じだから、味は問題ないと思っている。
――これがレモネを使った初のレモネティー。美味しいのだろうか。
私は浮かんでいるレモネをフォークで、皿に移し替えてから一口すする。
レモネの香りと酸味が口いっぱいに広がった。
紅茶の渋みはレモネの刺激後に感じられる。
鼻を通るレモネの香りは、どこか夏の匂いに似ていた。
「美味しいですね……。思っていたよりも紅茶にあっていてびっくりしました。これならメニューに加えてもいいと思います。それだけ美味いです」
「ほんとですか。気に入ってもらえてよかったです。それじゃあ、こっちのレモネの草もティーポットに入れてハーブティーにしてみましょう」
「そうですね。っていつの間に乾燥させたんですか?」
「魔法で水分を蒸発させただけです。『ファイア』と殆ど原理は同じですよ」
「へぇ……凄いですね。私、魔法はあまり得意ではないので、凄く羨ましいです」
「私も得意という訳じゃなく、ただ毎日練習してきただけなんですよ。私だって一瞬で魔法が使えたわけじゃないんですから」
「そ、そうですよね。すみません。私は魔法よりもお茶に興味があったのでお茶の勉強ばかりしていました。人それぞれですよね」
「そうですね。誰にでも特異不得意はありますよ。それじゃあ、このレモネの葉を千切って……」
「あ、ちょっと待ってください。適度に細かくした方がいいので私が包丁で均等に細切れにしてきます」
「そうですか、分かりました。よろしくお願いします」
私は、乾燥させたレモネの葉をカロネさんに渡した。
カロネさんはお店の奥に颯爽と走っていく。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。
毎日更新できるように頑張っていきます。
これからもどうぞよろしくお願いします。