ミルクティー
多くの種類があるにもかかわらず、匂いはとても綺麗に纏まっていたのだ。
「あ、キララちゃん。お待ちしてましたよ。ようこそ花見喫茶『ローズ』へ」
カロネさんは受付から私の方に駆け寄ってきてくれた。
「こんなに早く来てくれるとは思ってなかったですよ。オリーザさんの言ってた通り時間に厳しいんですね」
「仕事ですから」
「そうですか、えっと、牛乳はどこにありますか? すぐ試してみたいんですけど」
「ちょっと待っててください、私だけじゃ運べないので、いま店の前に移動してもらっていますから」
私は既にべスパに命令し牛乳を運ばせていた。
「キララ様、完了しました」
――ありがとう、それじゃあ後は周りの警戒をよろしく。
「了解です」
「カロネさん。もう運び終わったので、店の入口に取りに行ってもらえませんか」
「分かりました」
カロネさんはスタスタと歩き、店の入り口の扉に向かう。
扉の取手に手をかけて内側に引くと、クーラーボックスが入り口に置いてあった。
カロネさんはクーラーボックスを持ち上げ、店の中に運んでくる。
「ふー。やっとできます。このミルクなら、絶対に成功するはず……」
「え? なにができるんですか」
「ミルクティーです」
「ミルクティー、それは至極の飲み物……」
「少し待っていてください、すぐ作ってきます」
カロネさんはクーラーボックスから1パック取り出し、お店の奥へと向かった。
ーーま、まさか、ミルクティーを飲めるなんて……。確かに紅茶はこの世界にあると知っていたけど、手を出せなかった。だって凄く高いんだもん。それなら水で良いかなって……避けてた。でもミルクティーか盲点だったよ。
私はテーブルに置かれているメニュー表を手に取り眺めた。
「へぇ、飲み物が沢山ある。えっと、水、紅茶、コーヒー、……ってコーヒーもあるんだ。やったぁ凄くうれしい。でも一番高い。そりゃそうか……市場でも見つけられなかったし、きっと栽培できるところが遠いんだな。コーヒー一杯銀貨5枚って……。どんなコーヒーなのか逆に気になる。紅茶は種類多すぎて全く分からない。多分、色んな花をブレンドして作っているんだろうけど……」
私は、メニュー表を眺めていたが一向にミルクの文字とレモネの文字を見つけられなかった。
「ミルクとレモネ、何でないんだろう。乗っててもおかしくないのに」
「はーい! お待たせしました! キララちゃん、私特製ミルクティーですよ!」
カロネさんは西洋風の綺麗なカップを小さなお盆に乗せて持ってきた。
カップからは白い湯気が立ち昇り、熱い紅茶らしい。
既にカロネさんが持ってきただけで紅茶の香りは店中に広がっていた。
カロネさんはお盆を私の座っているテーブルにゆっくりと下しす。
「うわ~、綺麗な色ですね。それにいい香り……」
カップから立ち昇る紅茶の香り、これは何とも落ち着く。お店の中にはたくさんの花があって目でも落ち着く。それに花の匂いと紅茶の香りがここまで調和するなんてすごいな。
「ささ、キララちゃん。ミルクティーをのんで見ましょう。あ、キララちゃんは紅茶を飲めますか? 少し苦いかもしれないですけど……」
「大丈夫です。私、紅茶大好きなので!」
「そうですか、それなら良かったです」
――実際にこの世界で紅茶を飲むのは初めてだけど、匂いと色からして地球の紅茶と変わらないはず……。
私はカップの持ち手に指を掛け、少し揺らす。
水色に溶け込んだ牛乳によって紅茶は白濁しており、揺らした振動によって波紋を作っている。
よく混ざり合っているのか、揺らしても色は分かれず、優しい香りを辺りに広げるだけだった。
既にカロネさんはミルクティーに口を付けており、顔は緩み切っている。
私の方をとろけ切った瞳で見つめ、試飲を促してくる。
私はゴクリと生唾を飲み、のどを一度潤した後カップから伝わる程熱いミルクティーを口に運ぶ。
カップにそっと唇を添え、カップを傾けミルクティーを啜った。
「はゎゎゎゎゎゎゎ~」
心から緊張が抜ける。
ただミルクティーを飲んだだけなのに、私の心から恐怖、緊張、焦り、すべて一瞬で吹き飛んだ。
砂糖の甘みは無い。ただ感じられるのは紅茶の苦みに似た渋みだけ。
ただ、渋みを徹底して消す配合をしているのだろう、この渋みでさえ深みに感じる。
さらに私の持ってきた牛乳、これほどまで紅茶に合うなんて。
分かっていた、分かっていたが泣きそうだ。
一日に何度も女最強の武器を見せていいのだろうか。
きっと牛乳は温めてから紅茶の中に入れたのだろう。
いや、それだけじゃない一度攪拌されている。
あまりにもまろやかな甘みが私の舌先から伝わってきたのだ。
ただ牛乳を飲んだだけではこれほどのまろやかさを感じない。
ちょっとした一工夫を行わなければ、出せない味だ。
本領を発揮した牛乳は私の想像を遥かに超え、紅茶を何倍も引き立てている。
この飲み物を嫌いな人はいないのではないかと思うほど、万人受けする味だと思った。
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