トゥーベルの種芋
「泣くほどうまかったのか……、品書きに加えるのを検討してみるか」
「はい……そうしてください。あと、可能ならソウルを着けて出された方がいいと思いますよ」
「まぁ、そうだな。味付けと言ったらソウルしかねえか。香辛料でも悪くはないが力が足りなさそうだもんな。って、嬢ちゃんはソウルを仕手っているのか? 大分高い調味料だが、その歳でソウルの味を知っているとは結構な金持ちなんだな」
「え……いや、その、だってソウルくらいしかないじゃないですか。味を付ける調味料なんて」
私は笑って誤魔化す。
「まぁ、それもそうだな」
「えっと、ウロトさん。このトゥーベル? でしたっけ」
「ああ、その食材の名前はトゥーベルという野菜の一種だ」
「このトゥーベルって、お値段は高いんですか?」
「まぁ、そうだな。だいたい1個、銀貨1枚くらいだ。料亭で使っているのはとびっきりいい食材しか使っていないからな」
「銀貨1枚、トゥーベルの大きさはどれくらいですか?」
「そうだな、これくらいだ」
ウロトさんは、親指と人差し指で輪を作り、オッケーサインを作った。
「えっと輪の大きさがトゥーベルの大きさでいいんですか?」
「ああ、そうだ。売っているのはこの輪、程度が主に流通しているな。旬が丁度過ぎた頃だから、価格がよけいに高騰している。これからは銀貨1枚より高くなっていくはずだ」
「そうなんですか。でも何でそんなに高いんですか。だってその小ささで銀貨一枚って、ちょっと割に合わないと思うんですけど。あと、野菜だったら結構収穫できるじゃないですか、それなのに銀貨1枚は高すぎません?」
「確かに、よく取れるんだが出荷する際にほとんど駄目になる。芽が出て食材にならない、食べられる時間が少ないというのが値段の高い理由かもしれんな」
「そ、そうなんですか……」
――確かに、それだけ小さいジャガイモに芽が生えてしまったら、ソラニン(毒素)をいっぱい作っちゃうよね。でもジャガイモ欲しいな。ただ蒸かして、バターを付けるだけでジャガバターに出来る。ああ……食べたい、食べたいよ……。バターなら牧場で作れる。あとはジャガイモという、貧乏人最強の見方を手に入れる。食料がパンに偏るのもいけないからね。
「確かに1個1個買っていれば高くつくかもしれん。だが自分たちで育てて時間を懸け、すぐに収穫して食べてしまえば元は取れると思うぞ」
「育てて、食べる。えっと、そのトゥーベルって育てるのは簡単なんですかね?」
「簡単と言えば簡単だ。土に埋めて時間が経てばそれなりの量は取れる。だが、味は粗末で雑味酷い。美味いトゥーベルを育てるためにはまず何が何でも土が命。あと美味い水だな。食材は何でもそうだが、土と水が良ければ美味くできる。その美味い食材をどれだけ高みへ持っていくかというのが、農家の腕の見せどころだろう」
「土と水……ですか」
――村に流れている川は雪解け水だと思うから綺麗な、良い水だと思う。実際、村の皆は飲んでるし。でも土の方はどうか分からないな。村で農業をしている人がいないから、試してみないと実際どういった問題があるのか判断できない。
「えっと、トゥーベルの種芋はどこで買えますかね?」
「種芋なら、家に余っているのがいくつかあったからな。それを数個やろう」
「え! いいんですか!」
「ああ、なんたってモークルの乳をあれだけ美味くできるんだ。もしかしたら、トゥーベルも格段に美味くしちまうかもしれないだろ。それで美味いトゥーベルが収穫出来たら、うちに卸てくれよ」
「は、はい! もちろんです。それじゃあ、私は牛乳を持ってきますね」
「よろしく頼む。こっちはトゥーベルの種芋を裏の畑から持ってくるよ」
「畑……、そんなのがあったんですね。周りが囲まれてたので気付きませんでした」
「自家製に出来る食材は出来るだけ自分で作る。自分で作れない食材は卸すといった感じだな。トゥーベルはちょうどいい感じに出来たんでな、今回使ったわけだ。それじゃあ、取ってくるよ」
ウロトさんはお店の奥へ向かって行った。
「ベスパ、このテーブルにクーラーボックス1個を運んでくれる」
「了解です!」
私はいつも通り、目を瞑り、耳を塞ぎ、その場に縮こまる。
「キララ様、完了しました!」
テーブルの上には、色がほとんど一緒のクーラーボックスが綺麗に置かれていた。
「うん。間違いなく10本入っているね。氷もまだ解けてない。さすが空気で出来た2重層の耐熱性だよ」
私は少し待っていると、奥の方からウロトさんは戻ってきた。
「ふう、何とか大丈夫そうだ。これならまだ使えるぞ」
ウロトさんは麻袋に10個程度の種芋を入れ、持って来てくれた。
「ありがとうございます。これが牛乳です。お確かめください」
「おう」
ウロトさんはクーラーボックスの蓋を開け、1パック開けて少量手の甲に出して啜った。
「うん、やはり美味い……。これなら相当美味い料理が作れるぞ。街の役人も喜ぶだろうな」
「そうですか、それなら良かったです。えっと、パックを開けたら早めに飲んでくださいね。そうしないと腐ってしまいますから。あ、でも1日くらいだったら、このクーラーボックスに入れておけば、全然持ちますので」
「そうか、有難く使わせてもらうよ。えっと、金貨5枚だったな」
ウロトさんは店の奥に歩いていき、種芋のときよりも早く戻ってきた。
「金貨5枚だ」
子袋に入った金貨五枚を受け取った私はしっかりと数え、問題なく懐に入れた。
「はい、問題ありません。では7日にまた来ますね」
「ああ、その時には何か新しい料理を考えておくよ。楽しみにしてな」
「はい! 楽しみにしています! 今度は味付きの奴をお願いします!」
「はは……現金なやつだな……」
――そりゃそうだ、味が付いていた方がおいしいに決まっている。私の夢の為、絶対に調味料は必要なんだから。
私は、ウロトさんの店を出る。
「ありがとうございました。ふぅ~、いい取引先だな。ずっと確保しておきたい相手だよ。牛乳を買ってもらっただけでなく、種芋まで貰ってしまった。でも私の知っているジャガイモの半分以下の大きさな。これをどうにか大きくできないかな。そうすれば一気に食べ応えのある食材に変わるんだけど。まぁ帰ってから考えよう、これからまだ4件も残ってるんだから」
私は、待たせている3人のもとに戻る。
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