相手を思う気持ち
リーズさんの病院を私の眼でやっととらえたところで問題は発生した。
「な、なに……もしかして事故。誰か倒れてるじゃん」
大道の真ん中で誰か倒れていた。
道には太い車輪跡がありその線上で誰か倒れていたのだ。
――人の進みがどうして遅いのかと思っていたけど、まさか道の真ん中で事故が起きていたとは想像してなかった。でもどうして、みんな見て見ぬふりをしているの。この状況を見れば、すぐ何かに引かれたと思うはず……。いや、私こそ周りを見てないで早く助けに行かないと、他の人と同じになっちゃう。
私は荷台から降りて倒れている誰かのもとに走る。
「大丈夫ですか! 聞こえますか! って……よく見たらドワーフさん。それにこのドワーフさん……どっかで見た覚えがある。どこだったかな……」
「う、うう……」
「よかった、まだ生きてる」
「う、腕は……。腕は、ついてるか……」
ドワーフさんは目を細めながら、苦しそうな表情で私に問いかけてきた。
「え? 腕ですか。はい、大丈夫です。すごく腫れてますけど、ちゃんと付いてますよ」
「そ、そうか……。なら、いい……」
ドワーフさんは白目をむいて、意識を失ってしまった。
「大丈夫ですか! ベスパ! 荷台にこのドワーフさんをすぐ乗せて! 『光学迷彩』を使いながらでお願い!」
「了解です!」
私はレクーのもとに戻り、手綱を握る。
ビーたちはドワーフさんに群がっていき、その姿を消した。
「キララ様! ドワーフさんを乗せました!」
「よし。それじゃあ、レクー、病院まで急ごう。レクーも人を轢かないように気を付けながら移動してね。私も気を付けるから」
「はい、分かってます」
レクーは他のバートンより格段に大きいので、周りの人はよく避けて通ってくれる。
そのお陰か事故を起こしそうになったことは一度もなかった。
ただ、改めて事故現場を見ると昔を思い出す。
日本は事故が絶えない国だったから。
それでも、事故が起こった時、すぐ助けに入れる人達がいたのは日本のいいところだった。
この世界では違うのだろうか……。
たとえ誰かが倒れていても、周りは助けようとしないのだろうか。
倒れていたドワーフさんを見る周りの目は『じゃまだな……』と言った黒い感情を露わにしていた。
私はそれを思い出し、胸が締め付けられる。
――もう少し他人を思いやれる心を持ってほしいな……。たとえ種族は違っても同じ言葉を話して、生活を共にしているんだから。
私達は人の隙間を潜り抜け、やっとの思いでリーズさんの病院に到着した。
「すみません。リーズさん! さっき道で事故があったみたいなんです。倒れているおじさんがいて、怪我をしているので見てあげてくれませんか!」
「な……。キララちゃん。今日もそういう日なんですか……」
リーズさんは顔が多少引きつっていたが、私についてきてくれた。
――リーズさんはお医者さんなのだから傷ついている人を助けるのは当然の責務だと思う。なので私は、これからも怪我している人を見つけたら病院にどんどん運び込みますからね。
荷台まで到着したリーズさんはすぐさま後ろに回り、私達が運んできたドワーフさんの容体を見る。
「うん、息はありますね。ですが外傷が酷いです。ドワーフはもともと頑丈ですから簡単には死にませんけど、意識を失うほど怪我をするなんて。足の骨は完全に折れていますね」
リーズさんは少量のヒールをドワーフさんに掛ける、酷い外傷を少しでも治しているようだ。
「よし……これで瘴気の侵入は抑えられます」
「先生、担架をお持ちしました」
「ありがとうございます。それじゃあ、運びますので担架をもっとこちらに寄せてください」
リーズさんはドワーフさんを少し浮き上がらせ、担架に乗せた。
担架に乗せられたドワーフさんは、看護師さん達に押されて病院内に入っていく。
「よかった、これでドワーフさんの命もつなげられた。あのまま放置されていたら、きっと死んでたよね。さてと、少し遅れちゃったけど2人のお見舞いに行きますか……」
私は昨日入院した2人のお見舞いをしに来たのだ。
もちろん忘れてなどいない。
私はラルフさんのいる病室に向う。
「確か……ここだ」
私は病室の扉を開き、中に入る。
病室の中にはベッドに眠る1人の少年と、ベッドにうつぶせに眠る1人の少女がいた。
「おはよう……。セチアさん……」
「う……ん……。あ、ああ……キララちゃん、おはよう。ってもう朝なんだ。ラルフは……やっぱり起きてないよね」
セチアさんは昨日より顔色がいい。
ただ、夜な夜な泣いていたのか目元が赤く腫れていた。
「セチアさん、大丈夫ですか?」
「うん。寝たら気持ちの整理が出来たよ……。私はここで寝てても仕方ないからね。今日で病院から離れようと思う。えっと……子供たちは皆、キララちゃんの村に行ったんだよね」
「はい。今、皆は仕事の説明を受けています。セチアさんもまだ間に合いますから、明日にでも仕事の説明を受けてください」
「うん、分かった。病院もタダじゃないし、私がお金を稼いで、ラルフの入院費を払わないと……」
セチアさんは目元を擦り、無理して笑っている。
――私は笑顔の元プロだ。見え透いた笑顔などお見通しだよ、セチアさん。でも、無理してでも笑えって言ったのは私だし……。心に負の感情をあまり詰め込み過ぎないでほしいな。
「あまり気負わないでくださいね。お金なら交渉して待ってもらう支払い方も出来ますから」
「ありがとう、キララちゃん。心配してくれて」
「これから毎日のように会うんです。そりゃ、心配しますよ」
「はは、そうだね……。これからは毎日のように会うんだもんね」
『パンパン!』
セチアさんは自分の頬を2回、掌で強く叩いた。
「よし! 仕事頑張るぞ! ラルフが起きた時には大金持ちになっていて、絶対に驚かせてやる!」
セチアさんは声を張り上げて目標を高らかに宣言した。
――うん。セチアさんなら大丈夫そうだな。気持ちの切り替えが早くて先を向いてる。その切り替えの早さはセチアさんの強みだよ。
「それじゃあ、今から私はもう1人の方に行ってきますね」
「もう1人? この病院に入院している子供がもう1人いるってこと?」
「はい。今からその子に会ってきます」
私はラルフさんの病室を出てメリーさんのいる病室へと向かった。
メリーさんの病室に着いた私は、扉を開けて中に入る。
「おはようございます……」
「あ……。おはようございます、キララさん」
先に声を掛けてきたのはカイト君だった。
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