キララの崇拝する神様
「はぁ、それにしても……私の部屋にはほんと何もないな」
私の部屋にある家具はベッドと机、小さな本棚しかない。
私はベッドに寝転がり、ラルフさんとセチアさん、メリーさん、カイト君を思い出していた。
「大丈夫かな。メリーさんとセチアさん、カイト君は無事だけど。ラルフさんの方は昏睡状態だもんな。でも、本当に亡くならないでよかった。だけど、脳死になってたら、もう目を覚まさないのか。
私は、自分に感じる不安ではなく他人に対しての不安に押しつぶされてしまいそうだった。
私は眼を閉じて自然に眠れるよう心掛ける。
眼を閉じているだけなのに、頭の中を今日の出来事が埋め尽くしていく。
不安が私の心を蝕んでいく。
「キララ様、心配しなくても大丈夫ですよ。彼らは今も生きているじゃないですか。我々は彼らのこれからを見据え、必要な対策を考えるべきなのではないでしょうか?」
「もう……勝手に私の心を覗かないでよ」
「申し訳ございません。キララ様があまりにも気を病んでおられましたので」
「そりゃあ、私と同年代の子供達が想像以上に辛い日々を送っていたんだろうなと思ったりさ。私のせいで危険な目に合わせてしまった。ラルフさんとセチアさんには申し訳なくって」
「キララ様は精一杯やっていたじゃないですか。そのおかげで多くの子供達を危険な日常から救い出せたんです。キララ様は周りをもっと見るべきですよ。確かにラルフさんは昏睡状態に陥り、セチアさんは心に深い傷を負いました。でも、ラルフさんはまだ生きています。いきなり目を覚ますかもしれないじゃないですか」
「そうだけど……」
「メリーさんは喜んで私達の村へ来てくれると仰いました。他の子供達も嬉しそうにしてましたから、キララ様は皆の笑顔を救ったのですよ。今日はキララ様にとって忘れられない日になったと思います。子供たちもキララ様と同じなのではないでしょうか。数年後、子供たちは『人生が変わったのはキララさんに助けてもらった日だ』と口にしますよ」
「どうしたのベスパ……。私を励ましているの?」
「そうですね。キララ様の心が沈んでいると私の心も沈んでしまうのですよ。ですから、元気を出してください。このままだと私は床に張り付いてしまいそうです……」
ベスパは部屋の床にベターっと張り付き、解けたガムのようになっていた。
「はは……。もう原形ないじゃん。そうだね、私が沈んでても仕方ない。大切なのは輝く未来を見据えて、前向きに動くこと。そうだよ……私は皆を元気にするアイドル力を持っているんだから。逆に私が沈んでいたらみんなの心も沈んじゃう。アイドルが沈んでいい時なんて、一生に一度もない。皆の気持ちを上げるのがアイドルなんだ」
「キララ様。そのアイドルとはいったい何なのですか?」
「アイドルって言うのはね。人を元気にする神様達の総称だよ。私はアイドルの1人を知っているの」
「へ~。アイドルとは神様だったのですね。キララ様の思考によくアイドルという名が登場するので、その度、私はよく理解できなかったのですよ。いま、キララ様に教えていただいて、やっと納得できました。それで、キララ様は何というアイドルをご存じなのですか?」
「私の知っているアイドルはね。キラキラ・キララって言うの。とある世界で1憶人を幸せにしたアイドルなんだよ。私は、そのアイドルを尊敬しているの」
「1億人……。はぁ~、凄いですね。それほどの人を幸せに出来るとは、何と素晴らしい力を持った神様なのでしょうか。しかもキララ様と同じ名前なんて、凄い偶然ですね。キララ様はアイドル様を崇拝しておられるのは分かりました。では、キララ様のご家族はどの宗教に入られているのですか?」
「え? えっと……私もよく知らないけど。確か、神父様の教会がカトリックだから、私の家族もカトリックなんじゃないかな……。多分」
「宗教……。私にとってはよく分からない団体ですね。まぁ、私にとっての神様はキララ様なので、キララ様の崇拝するアイドル様が私の崇拝する方になるのですかね?」
「まぁ、何を信じるかは自由だから、ベスパがアイドルを崇拝したいと言うならそうすればいいんじゃない」
「そうですね、キララ様の言う通りです。私はキララ様の信念をいつまでも共に信じ続けますよ。キララ様の向う所へお供し、どこまでも付いて行きます」
「はは……。あまり近づかれると焼き払っちゃうから。一定の距離を保っておかないとダメだよ」
「いつの日か、キララ様のトラウマを吹き飛ばし、難なくキララ様に触れられるようになるその日まで、私はたとえ何度焼き払われようとも、キララ様のお傍を離れるつもりはありません」
「私のトラウマはそんな簡単に消えないから。すごい時間がかかるかもね。もしかしたら一生克服できずに人生が終わっちゃうかも」
「私はそれでも一向にかまいません。私とキララ様の心はいついかなる時も繋がっているのですから」
「あんまり私の心を覗くのは止めてよ。なんかすごく恥ずかしいじゃん……」
「大丈夫です! キララ様の心が燃え出した際には踏み入らないようにしていますから」
「私の心が燃える……。それってどんな時なの。ブラックベアーに『ファイア』を放ったときとか?」
「確かにその時も燃えていました。ですけど私の心も一緒に燃えていましたので、関係なく心を通わせられます」
「じゃあ……。いったい、どんな時?」
「最近だと確か……。超巨大なブラックべアーに殺されそうになった時ですね。フロックさんに助けてもらったキララ様の心は、私でも立ち入れませんでした。現れた瞬間から相当燃えておられましたね」
「な……なな……ななな……」
私の頬がどんどん熱くなってくる。
なぜそのような現象が起こるのか自分でもよく分からず、熱い頬に小さな掌を当て冷ます。
それでも全く冷えず、しだいに体まで熱くなってしまった。
「は……早く寝ないと、明日に疲れを残しちゃう」
動揺を隠しきれない私は、布団に潜り込み目をギュッと瞑って眠ろうと努力する。
ただ……フロックさんの顔が頭に思い浮かび、私はベッドをのたうち回る。
ベスパは頭に? を浮かべながら自身の寝床であるである丸太の穴に入り、丸まって眠った。