黒光りする虫
「結構暗くなっちゃったな……。ベスパ、光れる?」
「はい、魔力を流してもらえれば」
「分かった」
私は魔力をベスパに流し込むよう意識する。
するとベスパは白色光を放ち、一帯を照らした。
「うん、見えやすくなった。これなら前を気にしなくても安全に走れる」
私達も街の出口にまで到着し、兵士のおじさんに挨拶する。
「こんばんは」
「はい、こんばんは」
「おじさん。ちょっと聞いてもいいですか」
「ん? なんだ」
「私達よりも前に男の子が通りましたよね」
「ああ、通ったぞ。そう言えば、嬢ちゃんの友達だって言ってたな。何かあったのか?」
「いえ、ちょっと確認したかっただけなので。それじゃあまた明日来ますね。さようなら」
「はい、さようなら」
どうやらウシ君達は無事に門を抜けられたらしい。
私達は村までの道を進み、約3分の2進んだところでウシ君達と合流した。
「はぁはぁはぁ……やっと追いついた。結局暗くなるまでまでかかってしまった。大丈夫だったガンマ君」
「はい、無事に門を通過できたので誰にもバレませんでした。兵士のおじさんに大分睨まれたんですけど、僕何か間違った行動してませんよね?」
「う、うん。してない……していないよ。兵士のおじさんが睨んできたのは多分、私の行いが影響しているだけだから……。ガンマ君は何も気にしなくていいよ」
「そうですか。ならよかったです」
私達はベスパの灯りを頼りに外灯の無い荒道を進んで行く。
――暗い夜道はやっぱり怖いよね。なんでなんだろう……。ベスパの灯りがあるとはいえ人の気配も無ければ、誰かが住んでいるという痕跡も無い。こんな道を進んで行くと私達の村があるんだけど、何で遠くの山付近に作ったんだろうか。まぁ……殆どの家が林業をしていたみたいだから、ベースキャンプが大きくなった感じかな。
「あ! お兄ちゃん見て! 灯りが見えてきたよ!」
テリアちゃんが帆から顔を出して、目を輝かせながら村の灯りを見る。
「ああ、見てるよ。寝てる子もいるんだから、もう少し静かにしてて」
「は~い!」
「大きな返事だな。元気があってよろしい」
――ガンマ君とテリアちゃんは相当仲がいい兄妹みたい。私は今まで一人っ子と姉しか経験がないので、兄や姉がいると言った感覚がよく分からない。頼りになる存在なのだろうか……。そもそも、私は頼りにされているのだろうか……。
「さ、皆。もう少しで村につくから、心の準備をしておいてね」
私達は何事もなく街から帰宅した。
私は移動中に不慮の事故が起きなくて胸を撫で下ろす。
村に入ると各家庭の灯りが窓から逃げ出しており、外灯の無い荒道よりも周りがよく見える。
「ベスパ、周りが十分見えるようになったから、もう光らなくていいよ。あ、一応いつでも光れるように準備はしておいて」
「了解です」
「ウシ君、レクーの後ろに付いてきて。今から皆が住む家に案内するから」
「分かりました……」
「それじゃあ、レクーは私の先導で動いてね」
「はい。分かりました」
私はレクーを先導し、皆が住む予定の空き家が多くある場所を目指す。
道を照らしていた家の灯りが段々と弱くなっていき、灯りの付いている家が周りから無くなった。
つまり、家の中に人がいなくなったということだ。
「やっぱり、ここら一帯は人が住んでいないんだ……。凄くもったいないなぁ。えっと……数日前、見に来た家がもう少し行った所にあるはず」
私は以前訪れたときの記憶をたどり、何とか目的の家に到着した。
「あ、ここだ。レクー止まって」
レクーはしだいに減速していき、目的の家の前で止まった。
ウシ君もレクーの後ろに止まる。
「さてと、鍵は持ってたっけな」
私は服のボケットに手を突っ込むが、何も入っていない。
入っていたのは、牛乳瓶の蓋だけだった。
「やっぱり持ってないや。ベスパ、家の中に入って開けてきてくれる?」
「了解です。すぐに開けてきますね」
ベスパは木の扉をすり抜けていった。
すぐに家の中でガチャガチャと音が聞こえ、ガチャン!と大きな音が鳴る。
その後、ベスパは木の扉を再度すり抜けてきた。
「開きました」
「ん、どれどれ……」
私は扉に手を添え、少しずらす。
『ギギ……』
建付けは悪いが一応開いている。
「この家の中には誰もいないよね?」
「はい、人物らしき者はおりませんでした。その代わりに私の友達が大量に住んでいるのですが……どうしましょう。出て行ってもらいますか?」
「友達って、虫だよね」
「はい、そうです」
「それなら……あまり出会いたくないし、この家から出て行ってもらいたいかな」
「そうですか、了解しました。友達の皆さんには、この家を出て行ってもらうよう説得してきます」
ベスパは家の中へ再度入って行く。
数秒後、私の背筋に凍り付くような怖気がゾゾゾゾゾゾ……と走る。
家の入口から黒光りする輩が現れ、私は目を疑った。
――うっわ……。気持ち悪……。どう見てもゴキブリじゃん。まさか姿形がほとんど一緒だなんて。さすがゴキブリって感じ。それにしても、何匹いるんだろう。パッと見た感じ、200匹は優に超えてるよね。でも、久しぶりに見たな、ゴキブリみたいな虫……。
私はゴキブリに似た虫を見て、懐かしい気持ちが少し込み上げてきた。
――蜂より、ゴキブリの方が全然ましだよ……。だってゴキブリは何もしてこないもん。逆にゴキブリが何をしてるって言うのさ。ゴキブリたちは、身を静かに隠しているだけでしょ。それを人は『ゴキブリが気持ち悪い』というだけの理由で、殺しちゃうんだから。何て可哀そうな虫達なんだろう。
私はぞろぞろと出てくる虫たちに同情していると、子供達が大きく反応する。
「あ! 『ブラットディア』だ! いっぱいいるよ! 早く捕まえないと!」
――え?
「ほんとだ! 今夜はお腹いっぱい食べられそうだ! よし、皆で沢山捕まえよう!」
――え……え……?
ガンマ君とテリアちゃん、他の子供達は荷台から一斉に飛び出し、ゴキブリに似た虫たちに飛びついていく。
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