スキルの良し悪し
「私は王都のギルドで仕事をしていた、元冒険者です。一度正教会に反発し、反感を買ってしまいました。皆さんに迷惑が掛かると思い、当時のパーティーを抜け、この地まで来て病院を開きました。おかげさまで多くの方が利用してくださる、病院になりました。……、この話は別にする必要ないですね」
――え……何、いきなり話を止められると、気になってしょうがないんだけど。
「私のスキルは『癒しの加護』と言います。主に回復魔法が得意になり効果が高まります。回復魔法が会得しやすくなり、消費魔力も少なくて済む優秀なスキルです」
「す、すごく便利なスキルですね……」
「別にスキルを自慢したいわけではなく、このスキルだったからこそ、正教会に潰されずに私は生きています。正教会は人柄や血筋ではなく、スキルで人を選びます。例え、どれほど素行の悪い人物であれスキルが優秀であるのならば、正教会は優秀な人材で無駄スキル持ちより、無能で有能スキル持ちを選ぶのです」
「えっと……無駄スキルって、どんなスキルですか。私のお父さんとお母さんのスキルは無駄っぽいですけど……」
「無駄スキルと言うのは、取り柄の無いスキルを言います。キララちゃんの両親が持っているスキルは『木を切るスキル』『袋を出すスキル』ですよね?」
「はい……そうです」
「一見、無駄に見えるスキルですが、どちらも仕事を得られるので利用価値があるスキルと言えます。無駄スキルではなく、使い道のあるスキルですね」
「それじゃあ……無駄スキルって言うのはどんなスキルですか?」
「そうですね……、風を起こすスキルや火を起こすスキルと言った魔法でも同じような現象を起こせるスキルは無駄と言えますね。また、何かを使役するスキルでも使役する者が特定されている場合、その使役できる者によって価値が変わってきます」
「使役するスキル……」
ーー私のスキルは「虫使い『ビー』」だから、使役スキルに分類されるのかな。
「使役スキルは『ビー』が最も弱く『ドラゴン』が最も強いでしょう。今現在生きている冒険者で私が知っている使役スキルを持っている方がいます。その方はSランク冒険者で『フェニックス』を連れた女性です。大抵の魔物はチリすら残らず燃え尽きます。耐えられるのは魔法耐性を持つブラックベアーくらいです。使役スキルは、強さの幅が大きすぎて…一概に判断するのが難しいんですが」
――あ~、そうですよね~、どうやら私のスキル『虫使い『ビー』』は雑魚スキルということが分かりました。私は、正教会様に逆らわない方がいいですね。それにしても『フェニックス』って、不死鳥の火の鳥かな? それなら逆に見て見たい……。
「今回の件は、報告書に纏めます。政府に新しい技術の連絡をしなくてはなりません。叩き潰すかどうかは、あちらが決めるでしょう。私は少しでも世の中を変えるために行動し続けます。研究者や技術者たちは、苦悩に飲まれながらも世を変える良くすることを目指しています。まぁ、キララちゃんには関係ありませんけどね……」
「いえ、私も、頑張って世の中を変えられる物を作ってみたくなりました。私のモットーは『持つ者が持たない者を助ける』です。正教会とは反対の考え方かもしれませんけどね」
「そうですか。ですが、出すぎた行動は慎んでくださいね」
「はい、大丈夫です。私は、結構世渡り上手ですから」
「はは、まだ10歳の言葉とは思えませんね。ふぅ……、キララちゃん、ラルフ君のことでお伝えしたいことがあります」
「え……まだ何かあるんですか?」
「ラルフ君は、もう目を覚まさないかもしれません」
「え! でもさっき、5%から10%で目を覚ますって……」
「確かにそう言いました。ですが、この割合は医療機関が提示した数字です。しかも息が止まってから2~3分の間に治療を開始した場合なんですよ。今回は20分……いや移動時間だけで20分ですから、治療を開始するまではもっと長い時間、息が止まっていたと考えられます。そんな事例はありません。人が息を止めていられる時間はスキルや魔法を使用しない限り、持って2~3分、長くて5分が限界でしょう。子供は心拍数が多く、空気を沢山吸い込まなければなりません。それにも拘らず、20分以上も呼吸が止まっていた。普通、死んでいなければおかしいんです。目を覚ましたら奇跡としか言いようがありません」
「奇跡……ですか……」
「はい、奇跡です。ただ、ラルフ君が目を覚ました場合、キララちゃんの心肺蘇生術という行動が奇跡を起こさせた要因であるなら、報告しない訳にはいきません。心肺停止による死亡者は、あとを絶ちません。原因はほとんどの人が回復魔法を使えないからです。回復魔法が使える冒険者または聖職者が到着したころには手遅れになっている場合が多いのです」
「そうなんですね……」
「もし、キララちゃんの行った心肺蘇生法に効果があるのなら、治療までの命を伸ばせます。そうなれば、死亡率が下がるかもしれません」
「認められるといいですね」
「そうですね……、認められるのも奇跡に近いでしょうけどね」
私は立ち上がり、一礼して診察室を出た。
――ラルフさんが目を覚ますには奇跡が起こらないとだめなのか。奇跡が起きる保証は無いし、命があるだけでもありがたいんだど、セチアさんにとっては辛い現実だろうな。
病室に移されたラルフさんは空気を肺に送り込む用のチューブを口から伸ばし、眠っていた。
すぐ傍にはセチアさんがラルフさんの現状を見守るように椅子に座っていた。
「セチアさん。大丈夫ですか……」
「うん……私は何も問題ないよ……。でも、ラルフがこんな状態になってしまったのは、私のせいだから。それがちょっと許せなくって……」
ーーセチアさんの大切な人が、生死の淵をさまよっていたんだ……、並大抵の気持ちじゃ、冷静に自分のせいなんて言えないよ。
もし私が、セチアさんと同じ状況で、ライトやシャインが意識不明の状態だったら、きっと気が気ではなくなってしまうだろう。
「私は家に一度帰らないといけません。村で子供たちが待っていますから。仕事の準備もしなければならないですし、病院にずっといる訳にもいきません。セチアさんはどうしますか?」
「私は……、もう少しラルフの目が覚めるのを待ってみるよ。もしかしたら、私がどこかに行っている間に目を覚ますかもしれないし。そんな時、ラルフに現状を説明してあげる人が必要だから……」
「そうですか、分かりました。それしゃあ私は、先に帰りますね。明日また様子を見に来ます」
「うん、分かった」
私は病院から出るとレクーのいる厩舎に向かう。
レクーを厩舎から出したあと、荷台に繋ぐ。
私は重い足取りで荷台に乗り、先に帰った子供達を追いかける。
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