酷い顏
「皆、はじめまして。そんなに怖がらなくても大丈夫。私はあなた達の味方だから……」
「キララさん!」
テリアちゃんが荷台から降りてきた。
「テリアちゃん、大丈夫だった」
「はい、いきなりウシ君が走り出したのは驚いちゃいましたけど……、全然大丈夫でした」
「そう……よかった。ガンマ君……これで皆かな?」
「はい、僕が連れてきた子供たちが9人、ここで新しく顔を合わせたのが10人います。えっと、僕たちを合わせて……21人います」
「21人。分かった、えっと……今から皆に食べ物1袋ずつ配るから、気にせずに食べてね。あと水も1本ずつ配るよ」
私はレクーの荷台から残っている子袋を取り出し、みんなに配っていく。
水の入った牛乳瓶も一緒に……。
「皆、体調はおかしくない? 苦しくない? テリアちゃんも……」
「はい、大丈夫です。逆に居心地がいいくらいですよ。友達も沢山できました!」
「それならよかった……」
「あの……大丈夫ですか、キララさん。顔色がよくないように見えるんですけど……」
私はガンマ君に指摘され、宙に浮いていた魂が体に入ってきたように、はっと意識が戻ってきた。
顔をグリグリと指圧し、無理やりにでも笑う。
「だ、大丈夫、大丈夫。こんな天気だからちょっと暗く見えちゃってるかもしれないけど……、体調は全く問題ないよ!」
「キララ様……。無理はよろしくないと思いますよ」
――大丈夫……、無理してなんていないよ。ただ……心配なだけ。でも、この心配している気持ちは子供たちに通じちゃうから……、何とか隠さないと。
「そうですか……。でも隠しきれてないですよ……。その表情じゃ。水面に映る顔を一度見てきてください。あ、何なら私の視覚を共有しましょうか?」
――そんなに酷い? 分かった……。『視覚共有』
その時見た顔は……、まぁ……酷い顏だった。
色々と無理している顔……、それこそ過労死寸前のサラリーマンがしている表情と全く同じ……。
「はは……確かに、こりゃ……酷いね。……気分を変えないと次行く所でこんな顔してたら、私達の印象が悪くなっちゃう……」
私はレクーの引く荷台から、牛乳瓶を1本手に取り、牛乳を金属製の小さな鍋に入れた。
『ファイア』で無理やり温め、ホットミルクにして体に流し込む……。
ほどよい甘さと、風味によって緊張が解されて行く……。
先ほどよりも体が温まり、血流も良くなったような気がした。
「ありがとう……ミルク、チーズ。あなた達の牛乳で私の心は大分楽になったよ……。よし! 切り替えて行こう! 今から子供たちの将来がかかった大勝負なんだから!」
私は右腕を曇り空に高らかに掲げ、大声を出す。
「す……凄いですね……。温めた牛乳を飲んでそこまで回復するなんて……。何かの魔法か何かですか?」
ベスパは目を丸くして、空中を漂う。
「いや……違うよ。ただの思い込み……。温かいものを飲むと体が温かくなって、気持ちが上がるの……。体温が下がるとどうしても嫌な考え方をしちゃうから……。体外から無理やりにでも体温を上げて、気持ちも上げる。そう……ただの思い込み。魔法みたいに何でも解決できるものじゃないけど……、思い込みの力は凄いんだから」
「はぁ……なるほど…。元気になった要因は思い込みの力だったんですね」
「まぁね。それじゃあ、今からオリーザさんのパン屋さんに行く。そこで待っている人たちと話をしてこれからの売買を決めてくる。その間、ベスパは子供たちを見ていてくれる」
「はい、お安い御用です。なにが来ようとも指一本触れさせません」
「はは、頼もしいね……。何かあったらすぐ連絡と対処をお願い」
「了解しました!」
私は子供たちのいる荷台に戻り……少し話しかける。
「皆、今からも待っていてもらうんだけど……大丈夫かな。トイレに行きたい子とか……いない?」
チラホラと手を上げる子がいたので、誰にも見つからないようにベスパの『光学迷彩』を使い、私が反応しない程度のドームを作ってもらう。
そのドーム内に穴を掘り、そこでトイレを済ませてもらう…。
少年が拭くものを求めてきた。
「拭くもの……。そっか、拭くものか……どうしよう……、私……紙を持って来てないんだった……」
「紙くらい我々で用意できます。どれくらいの厚さ大きさが必要ですか?」
「え……それじゃあ……出来るだけ薄くて、破れにくい厚さで……。大きさは……1人の子供が使うくらい……。抽象的すぎるかな……」
「いえ……問題ありません。ほんの数秒で作成してまいりますので、少々お待ちください」
ベスパはロケットのように飛んで行く……。
そしてほんとに数秒たったころ……戻ってきた。
「キララ様、紙でございます」
ベスパはティッシュのような茶色の紙を持ってきた。
「ほ……ほんとに紙が出来てる。それに薄くて軟らかい。なのに破れにくい……。いつも思うけど……よく作れるね、こんな物……」
「特技ですから」
ベスパは胸を張り、エッヘンといった具合で威張る。
「とりあえず、使わせてもらうから」
私は少年にその紙を手渡し、使ってもらう。
「す……凄い。凄いよこれ。全く痛くない。いつも布で拭いてたから凄く痛かったんだよ」
「そうなんだ……」
――凄い食いつきよう……。確かにこんな軟らかい紙ないもんな……。私たちも、紙袋みたいな硬さの紙で拭いたりしてたから凄くいいかも……。
子供たちは皆、トイレを済まし荷台に戻った。
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