命の危機
「キララ様! 大変です! ラルフさんが水に流されています!」
――え? ……嘘、いったいどこを、そうか地面の下か。
私は耳を疑った。
確かに、地下水路というくらいだから、もしかしたらと思っていたけど……。
「はい! 先ほどの雨により穏やかだった水の流れは、いつの間にか激流になっていたみたいです! このままだと窒息しかねません!」
――べスパじゃ助けられないの!
「仲間の連絡を受け、只今他のビー達を引き連れて急行しておりますが、間に合うかどうか……」
「そんな……」
「あの、きららちゃん、ラルフはどこ? 確かここに残ってたよね」
「セチアさん……どうやら、ラルフさんは地下水路に落ちて、流されているようです……」
「え? ……それってどういう意味。ラルフが流されてる。そんなどうして」
セチアさんの顔は一気に青ざめていく。その場にへたり込み、放心状態になった。
「セチアさんたちの帰りが遅いと心配したラルフさんが様子を見に行ったんです。そこから、ラルフさんの行方が分からなくなったので調べていたんですが……どうやら、激流に攫われていると、報告が入りました」
「っつ!!!」
セチアさんは意を決し立ち上がると、地下水路の入り口に向った。
「セチアさん! どこに行く気ですか!」
私はすぐさま、セチアさんの右腕を掴む。
「ラルフを助けに行く! ほおっておけない!」
「今、私の部下が救助に向かっています! セチアさんまで助けに行って、万が一地下水路に落ちてしまったらどうするんですか!」
「それでも行く! ラルフを見捨てるわけにはいかない!」
――どうしよう、どうしよう……。このままだと、ラルフさんが死んじゃう。でも、ベスパ達でも間に合わないかもしれない。考えろ、考えろ、考えろ、セチアさんまで危険に晒してしまう。今できること、私が今できること……。は!
「ベスパ! ラルフさんを流している地下水がどこに向うか分かる!」
「はい! このまま行けば、街の外にある川に流れつくはずです! どうやら地下水貯蔵場と川に流れいていく経路が違うようですが、地下水貯蔵場が満杯になり、全ての水が川の方へ流れていくようです。ラルフさんもそれに巻き込まれるはずですから、確実に川に向います」
「分かった! 街の外にある川だね。それなら一本しかない。確か、川は北から流れてきているから南方向に向えば。えっと、どっちが南だ。あの太陽が西に沈むのだとしたら、太陽を左手に合わせて、後ろ側が南になるはず。セチアさん!!」
私は、またもやへたり込んでいるセチアさんに声を掛ける。
「!!」
セチアさんはビクッと大きく跳ねて、私を見つめた。
「今から、ラルフさんを助けに行きます!! セチアさんは……」
「私も行く!!」
私が言い切る前に、セチアさんは大声で叫んだ。
「……分かりました、一緒に行きましょう!」
私とセチアさんはレクーの引く荷台の前座席にすぐさま座る。
私は手綱を引き、レクーを川の下流方向へ走らせた。
丁度その時、ウシ君が私たちのもとに到着した。
「あ……キララさ……」
レクーの引く荷台に乗った私達はウシ君の前を颯爽と通って行く。
「ウシ君! そこにいる子供たちをお願い!! 今、1人の命が危ないの!」
私は大声を出してウシ君に伝える。
――きっとウシ君なら大丈夫だろう。子供達をちゃんと守ってくれるはず。
「はぁ……また僕はガキンチョのおもりですか……。分かりましたよ……やればいいんでしょ、やれば……」
☆☆☆☆
「キララさん! いきなりどうしたんですか! 手袋付けないと、手がボロボロになりますよ!」
レクーは走りながら喋る。
「今はいいの、それよりレクー今から全力で、駆ける。いい!」
「それは、もちろん。いつでも行けます」
「よし、全速力で行くよ!」
「はい!」
「キララちゃん! このバートン、うわァアア、ってどうなってるの!」
レクーは一気に速度を上げる。
「説明は後です。すぐ下流へ向かいます。そこにラルフさんが流れてくるはずです。それを捕まえて、心肺蘇生法を行います!!」
「し……心肺蘇生。なにそれ……。嫌な響き……」
「多分、ラルフさんの心臓は止まっています。それを動かす方法です……。一刻も早くやらないと、ラルフさんが死にます」
「そ……そんな」
「心肺が痙攣し血液が上手く送れなくなってから60秒事に10%死亡率が増えます。つまり……10分経ってしまったら100%死にます」
「……今、何分経っているの!」
「分かりません……、ラルフさんの心臓が止まっているのか……、まだ動いているのか……でも、何もしない訳にはいきません。状態を確認したらすぐ、病院に運びます」
「ラルフ……大丈夫。……絶対に、絶対に無事だから……」
――ベスパ! 今のラルフさんの状態、分かる!
「ただ今! ラルフさんに接近中。ただ、水の水量が思ったよりも多く激しい流れにより上手く近寄れません! 見たところによると、藻がいているようです! まだ息はあるかと!」
――よかった……まだ死んでない。ベスパ! 今の個体数で、どこまで出来る!
「今の我々には、ラルフさんの頭を水面のギリギリまで持ち上げる程度かと! この激流ならそれが限界です! もう少しで、幅が広がるはずですので、そこで一気に掴みにかかります!」
――お願い! 私たちもすぐそっちに向うから。外に出たら、持ち上げられるだけのビーを集めて、川から陸に上げておいて!
「了解です! 我々も一度水に埋もれます! その際、連絡が不可能になる場合がありますが我々は魔力で覆われていますので心配なきよう」
――分かった、ラルフさんをお願いね。
「了解です!」
「セチアさん、急ぎましょう。まだラルフさんの心臓は止まっていません」
「うん……。大丈夫……ラルフは絶対に大丈夫……」
セチアさんはずっと何かに祈るように両手を握っている。
私とセチアさんは南門に向かい、一気に駆け抜ける。
「ごらあああ~~~~! 早すぎるだろおお~~~~!」
後ろから大声で叫ばれているような気がするが、今は止まっていられる状況じゃない。
「はぁはぁはぁ……急げ……急げ……急げ……!」
レクーは地面を思いっきり駆ける。
――レクーの足がこの距離で衰えるわけがない……。
レクーはさらに速度を上げ、私達はきっと最速で下流の川岸にまで到着できただろう。
「川が……泥色に、相当降ったんだ、雨……」
「ラルフ! ラルフ! どこ! どこにいるのー!!」
私とセチアさんは荷台から降り、川岸のぎりぎりにまで近づく。
だが……ラルフさんらしき人物が全く見えない。
――ベスパからの連絡も途絶えたまま……、いったいどうなったの……。お願い……早く来て……。
「キララ様! 今、狭まっていた経路から抜け出しました! ラルフさんの頭部を持ち、そちらに移動中です!」
――ベスパ! よかった……、それで状況は!
「既にラルフさんの動きは止まり、顔色が大分悪いです。口元が紫色に変色しています。このままだと相当やばい状況です!」
――すぐ私たちのところへ!
「了解しました! 今から街中のビーを集めます! 大量のビーが姿を現しますので、注意してください」
――分かった……、でも今は……怖がっている場合じゃない。私が吐こうが、気絶しようが関係ない……。すぐにやって!
「キララ様……。了解しました!」
水の出てきている出口の奥の方で光が一瞬見えた……。
その時。
曇り空の中、草むらから一気に浮かび上がる小さな生き物たち。
見間違え用が無い『ビー』だ。
ベスパの放った光に集まるように、四方八方からおびただしいほどのビーが凄まじい速度、そして大きな翅音を鳴らしながら、地下水路の方に向かう。
「す……スゴイ……私が助けられた時よりも多いよ……」
セチアさんは大量のビーを見て、その場に硬直している。
「あ! セチアさん! あそこを見てください!」
ラルフさんが頭を出して、川に浮いている。
どうやら地下水路から出てきたらしい。
ベスパが発光し、ラルフさんの上空を旋回していた無数のビーたちが川へと一気に飛び込んで行った。
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