2人の道の提案
2本の牛乳瓶が私の前に落ちてくる。
掌で掴める位置にきた瞬間につかみ、そのまま2人に渡した。
「こ……これは何ですか?」
セチアさんは渡された物がよく分からず困惑している。
「私たちの牧場で作っている牛乳という飲み物です。実際はモークルの乳ですから、美味しいですよ。一度飲んでみてください」
「そ……それじゃあ」
2人は牛乳瓶の蓋を取り、喉へ一気に流し込む。
「……美味い」「ほ……ほんとに美味しい」
2人は目を丸く開いて、見つめ合う。
「そうですか、お口に合ってよかったです。私たちの牧場は主に牛乳を売っています。出来ればいろんな人にもっと飲んでもらいたいので、沢山作りたいんですけど、中々人手が足りなくてですね。この街で放浪している子供たちがいると知って、働いてもらおうと思ったんです。もちろん、嫌な作業だったら他の仕事に替えますので、応相談しましょう…」
「どうしよう……。なんかすごすぎて私、怖いんだけど」
「ああ……。なんでなんだろうな……。もしかして牧場でずっと働かされるとか……」
「それは無いです。ちゃんと成人したら好きな道を選んでもらって構いませんよ。お金を溜めてまたこの街に戻ってきてもらってもいいですし、鍛錬して冒険者になっても構いません」
「え! 冒険者になってもいいの!」「鍛錬……。鍛錬できる場所があるのか」
――やはりこの2人は冒険者という言葉に反応するらしい。それなら……適任がいる。
「もちろん、私の村は田舎ですから好きな所で鍛錬し放題です。丁度、魔法と剣術共に私よりもすぐれた人物が村にいます。その者に教えてもらうといいですよ」
「さっきの魔法よりもすごい魔法が使える人がいるの……」
「剣術を教えてくれる人……」
2人は顔を再度見合わせ、大きく頷いた。
「行きます!!」×2
――よ……よかった、何とか了承してくれた。これであとはガンマ君が連れてくる子供たちと会って、地下水路の中にいる子供たちを説得すれば、完璧だ。
「今すぐ、子供たちを連れてきますね!」
「あ、ちょっと待ってください。持って行ってほしい物があります」
私は荷台に戻り、小さな袋が入った大きな袋を手に取る。
私は大きな袋を抱えて走り、セチアさんに手渡す。
「その中に入っている小さな袋を子供たちに食べさせて上げてください。体力が少し回復するはずです」
「分かりました!」
セチアさんは小さな入り口から地下水路へと入って行った。
「あ、あの……ありがとうございました。まだ俺たちが役に立てるか分かりませんが精一杯頑張らせてもらいます」
ラルフさんはさっきの威勢がどこに行ったのかと思うほど物腰が柔らかくなった。
「はい、頑張ってもらいますからね」
「キララ様。 ウシ君がこちらに向ってきています」
――え……もう付きそうなんだ。結構早いな。ウシ君の様子はどう?
「通常運転ですね。『早くミルクと交尾して~』と嘆いています」
――そうなんだ……いつもと変わらないね。よかった、子供達にイラついていたから、少し不安だったんだよ。あとどれくらいで着きそう?
「そうですね……。もう2~3㎞ほどだと思われます。ウシ君の速度だと……17時くらいに到着するのではないでしょうか」
――ちょっと遅いかな……。移動する速度を少し上げてきてもらえる。子供たちが酔わない程度に。
「分かりました、ウシ君にそう伝えてきます」
ベスパはまだ明るい日の方向へと飛んで行った。
――子供たちを牛君の荷台に乗せたあと、オリーザさんのパン屋さんに行く。そのあと家に帰るl明日、皆に仕事の話をしてから街にもう一度来て、残りの2人を村まで連れて帰る。うん、私の完璧な計画、このまま順当に行けばいいんだけど、人生はそんなに甘くないからな……。
セチアさんが地下水路に入ってから数刻…、中々出てこない。
「どうしたんだろう……」
「俺、ちょっと見てきます!」
「お……お願いします」
ラルフさんは、セチアさんを心配してか地下水路の中に入って行った。
「大丈夫かな……。ベスパ、早く帰ってきてほしいんだけど。まだかな……」
「キララ様! 伝えてきました! 速度を上げて移動中なので、すぐ到着すると思います」
「そう、ありがとう。あ、それと……地下水路中の2人と子供たちが気になるから、見てきてくれる。何かあったらすぐ連絡して」
「了解しました! 少し見てきます」
ベスパは数匹のビーたちを連れて、地下水路に続く入口に入って行った。
「これで見つかると思うんだけど……、セチアさん無事かな……」
ベスパが入ってすぐ、出てこられない原因が分かった。
「キララ様、子供たちはどうやら暗闇にとらわれているようです。手持ちランプが壊れたか、燃料が不足していると考えられます」
「なるほど……。それじゃあ、私がベスパに魔力を送るから、光って皆を導いてあげて」
「了解しました、では魔力路を繋ぎます」
私とベスパとの間に何らかのつながりが生まれる。
元私の魔力なのだから、違和感は無いのだが相手がビーというのは少し複雑な気分だ。
「ふ!」
私は目を閉じて力を籠める。
『ファイア』を撃つ時よりも楽なため、大量の魔力を送り込んだ。
私はこの魔力操作に長けているらしい。
ライトもそれを褒めてくれる。
使える魔法の数では勝てないが魔法の質量では勝っているらしい。
少しでも姉の威厳を残せている部分だ。
「キララ様! 多すぎます、逆に光で見えにくくなりました」
「あ、ごめんごめん。何も考えないで送っちゃった。そのまま、他のビーに魔力を分け与えたらいいんじゃない」
「なるほど、確かにそうですね。忘れていました。この量なら分散させた方が効率よさそうです」
「それならよかった。じゃあ、皆を安全に連れてきてね」
「了解です。ただ…この場にラルフさんがいないのですがどこに行ってしまったのでしょうか?」
「え? ラルフさんいないの……。うそ、さっき入って行ったのに。きっとどこかにいるはずだから探してくれない」
「了解です。とりあえず、子供たちの先導は私が行い、共にいるビー達にラルフさんの探索を行ってもらいます」
「うん、お願い。もし危険な状態に陥っているなら早く助けないと」
少しして……。先に出てきたのはベスパと子供たち、セチアさんだった。
「あの! セチアさん大丈夫ですか!」
「いや~、途中でランタンが消えちゃって、真っ暗で動けなかったんです。でもなんか神秘的な光に導かれてたら外までたどり着けました。あれは何だったんでしょうか……。もしかして神様が私たちを助けてくれたのかも」
――そうか、セチアさんには光ってる光源体にしか見えなかったんだ。それならそれでよかった。
「キララ様、私はもう一度、地下水路の中に入ってラルフさんを探してきます」
――うん、お願い。何かあったらすぐ連絡して。
「了解です!」
ベスパは入口から出てきたと思ったら、早々に地下水路へと入っていった。
「あの! あなたが、キララさんですか!」
私よりもだいぶ小さな子供たちが10名ほど、そのうち数名は元気なのだがぐったりしている子供たちもいる。
服装はもちろんボロボロ、髪も伸びっぱなしだし、不衛生極まりない。
こんな状態だったらいつ病気になってもおかしくないな。
「そうだよ、私がキララ・マンダリニア。どうしたのかな?」
「あの! あの! さっきの食べ物もう1個食べてもいいですか! この袋に入ってたやつ」
子供達は小袋を私に見せてきた。
「あ~、いいよいいよ、いっぱい食べな」
「いいの! やった~」
「あ……。でもあまり食べすぎると、お腹緩くなっちゃうかもしれないから、少し満たされたくらいでやめておいた方がいいよ」
「はーい! 皆にも配ってきます!」
――この子は元気いっぱいだな……ん?
「キララ様!!」
私の脳内にベスパの声がいきなり響く。
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