夫婦漫才
「二人とも大丈夫。怪我はない?」
私は尻もちをついている二人のもとへと駆け寄った。
「だ……誰」
男子と女子は私の声を聴いて、目を丸くしていた。
「えっと……私の名前は……。というか……二人とも危ないでしょ! 刃物を向け合ったりして!」
「あんたには関係ないだろ。俺達とほぼ歳も変わらなそうだし、どっかのボンボンかよ……。俺たちに何かくれるのか? はぁっ、くれるわけねえか……」
男子の方は不貞腐れて、私から目線を逸らした。
「キララ様、いきなり燃やさないでくださいよ……。驚いてしまったじゃないですか」
復活したベスパは私の後方から、頭を下にして逆さまの状態で飛んでくる。
――仕方ないじゃん……。あれしか止める方法が思いつかなかったんだから。
「あの……さっきのって、魔法ですか?」
女子の方が目を輝かせて聞いてくる。
「え? まぁ……何かと聞かれれば魔法って答えるかな……」
――実際は、ベスパが爆ぜてるだけなんだけど……。
「す……凄い! えっと何歳ですか!」
女子は身を乗り出して、私に迫ってくる。私よりも背が高いので圧迫感があった。
「一〇歳……だけど……」
「え! 私達より年下じゃん! 私達は一二歳なんだよ」
――え! 私よりも年上だったんだ。見た目は私と殆ど変わらないじゃん……。私が大人っぽいのか、相手が子供っぽいのか、どっちだろう。
「一〇歳で魔法が使えるなんて……。いったいどうやってるの。私達も使えるの? 実は私達、スキルを持っていないんだよ……。だから少しでも戦える力が欲しいの。剣や魔法、槍、斧、弓、なんだって言い。強くなりたいの!」
――一二歳だったら教会でスキルがもらえるんじゃないの。
「おい! やめとけよ、セチア……。さっきの魔法はどうせスキルだろ。俺達には使えないよ」
男子の方もスキルを持っていないから、ものすごく機嫌が悪い。別にスキルで何でもできるわけじゃないんだけどなぁ。逆を言えばスキルが無くても努力次第でどうとでもなる。
その前に、この子達がスキルを持っていないことが不思議だ。
「あの……どうしてスキルを持ってないんですか? 一〇歳になったら教会でもらえるんじゃ……」
「それは……俺たちはまだ教会でスキルをもらってないからだ。一〇歳になった年……、俺たちはドリミア教会に行った。そしたら奴らに追っ払われたんだよ……」
男子は相当悔しかったのか握り締めた拳を濡れた地面に叩きつける。
「どうして……、教会はどんな人にでも公平な態度を取らないといけないって神父様が言ってたけど……」
「さあ……どうしてだろうな。俺にもわからねえよ。金なんじゃねえの……。金が無いとなんにも出来ないのと一緒でさ……」
「え……私の家もお金なかったけど、スキルはもらえたよ。この街の教会じゃないけど……」
「お前、街の住民じゃなかったのか。道理で田舎臭い格好だと思った……」
「ラルフ! そんな言い方ないじゃん! 可愛いでしょこの子の服装! 田舎臭いのはラルフの方じゃん。そんなボロボロの服を着てさ」
女子は私の肩を持って、男子の方を見ながら叫ぶ。
「まぁ、落ちついてください。服装はそんなに気にしていないので……。あと、私が放ったのはスキルじゃないですよ。歴とした魔法です」
「な……マジかよ……」
男子は逸らしていた目線を私に向けなおした。
「やっぱりそうなんだ! 凄い! あの、私達に魔法の使い方教えてくれませんか!」
女子は私の肩に手を置き大きく揺らす。
――凄い食いつきようだな……。何でそんなに、ああ……冒険者に成りたいんだっけ。一応確認しないと……。
「えっと……どうして魔法を使いたいんですか?」
「そりゃあ……冒険者に成りたいし。魔法が使えたらかっこいいじゃん!」
「いや、セチア。魔法よりも剣術の方がカッコいいだろ。ばっさばっさとなぎ倒していく姿はそりゃ男の憧れだぜ!」
男子も立ち上がり、小さなナイフを持って剣術の真似事をする。
「私男じゃないし。魔法の方がカッコいいよ、いつか魔法で空を飛ぶのが夢なの……」
女子は両手を神様に祈るように胸元で握り締め合い、空を見上げる。
「お前……そんなキラキラした夢を持ってたのかよ……」
「いいじゃんべつに、夢を持っていたって」
――男子は剣術……、女子は魔法……、これまた剣と魔法の板挟み……。
「とりあえず名前を教えてもらってもいいですか? 私の名前はキララ・マンダリニアと言います」
「あ、そうだね。私まだ名前言ってなかった。私の名前はセチア・サスリエ。年齢は12歳、得意なことは物を盗むこと。好きな食べ物は……なんでも、食べられれば何でも好き。あ、でも最近食べた乾燥したよく分からない白い食べ物が一番おいしかった」
――ビーの子かな……、確かに美味しそうに食べてたし……。
「あ……えっと、俺の名前はラルフ・ミトリア。年齢は12歳。得意なことは……特に無いな……。好きな食べ物は……何でも。食べられればそれだけで十分だ。美味しさは関係ない」
「セチアさんとラルフさんですね。分かりました。えっと……2人にはまず栄養を取って貰おうと思います」
「栄養……? 食べ物をくれるの」
「食べ物をくれるんなら子供たちの方に……」
「もちろん、子供たちにも渡すつもりですから、心配しないで食べてください」
「子供たちのこと知ってるの? いったいどうして……」
「えっと……ちょっとした特技ですかね……。ちょっと待っててください、今持ってきます」
私は目線を少しずらしたあと、駆け出してレクーの荷台に掛かっている帆を開ける。
荷台の中に置いてある大きな袋から小さな袋を2つ取り出し、2人のもとに戻る。
「これを……」
「あ! これ、私が服を脱がされそうになってた時に助けてくれたビーが置いていったやつ……。どうしてキララちゃんが持ってるの……?」
「た……偶々袋が同じだけだと思いますよ……」
――苦し紛れにもほどがある……。
「セチア、お前どこから盗んできたんだよ……、服を脱がされそうになったって……」
ラルフさんは少し引き気味になり、セチアさんに聞く。
「大通りの店だけど?」
ラルフさんの質問に対して、セチアさんはとぼけた面で淡々と返した。
「やばいなそれ……。お前、殺されなくてよかったな……。大通りの店を襲うとか、普通考えないだろ」
「だってそっちの方が売れるものが多いから」
「ま、まぁ……早くそれを食べちゃってください」
「分かった」
セチアさんは小袋の口を開け、掌に中身をすべて出す。
「これ……やっぱり逃げてた時と同じ食べ物だよ。もしかしてキララちゃんが助けてくれたの!」
「ひ、人違いかと…」
――人違いというか、ビー違いというか……。
「上手いなこれ……なんか癖になる味だ。全く食べた覚えが無い物だけどな」
ラルフさんも一粒ずつしっかりと食べてくれた。
どうやら2人ともビーの子を気に入ってくれたみたいだ。
――それにしても……ビーの子の効果、凄くない。あれだけやつれてたのに、肌に張りがちょっと戻っている気がするんだけど。
「何か力が湧いてきたような気がする……。食べ物を口にしてなさすぎて体を動かす力が出なかったからかもしれないけど、今なら冒険者でもやって行けそうだ……」
「だから! 一回冒険者から離れてよ。冒険者、冒険者そればっかり。別の道を探さないと」
「別の道ってどこだよ。俺達には道なんてないだろ! 少しは考えろよ、バカ!」
2人は取っ組み合いになり、額と額をくっ付けながら睨み合っている。
もう、そのままキスしてしまいそうな距離だ……。
――また始まった……夫婦漫才ってやつなのかな。仲が良いのか悪いのか……。
「あの……私から道の提案をしてもいいですか?」
「へ?」×2
睨み合っていた2人は私の方を向く。
「私、今街中で放浪している子供たちを保護しているんです。保護した子供たちは皆、私の住んでいる村に来てもらおうと思っています」
「子供たちの保護……」
「村に来てもらう……」
「はい、私達の仕事を手伝ってもらいたくて。その……道の提案というのは、セチアさんとラルフさんも私と一緒に村に来ませんか。必ず街で暮らすよりも安全な生活を約束します」
「え……えっと……。どうしよう、ラルフ……」
「い、いや……。俺にも全く分からん、セチアならどうする……」
2人は少し話し合った末……。
「それじゃあ‥…少し質問をしてもいいですか?」
「はい、何でも聞いてください!」
「どんな仕事なんですか……。私達に危険な仕事はまだ早いかなと思いまして」
「主に動物のお世話をしてもらいます。他には配達、掃除、ちょっとした料理の手伝い、商品の梱包作業とかが仕事内容ですかね」
「何か……危険じゃなさそうな響きの仕事ですね……」
「まぁ動物さん達を怒らさなければ比較的安全です。子供でもできるような仕事が沢山あります。ですので、子供たちにも働いてもらいます」
「それじゃあ……、住む場所とか食べ物とか、どうするんですか。私達そんなお金ないですし」
「それはもちろんこちらから配給します。寝る場所も完備してありますし、働いた分だけお金も支払われますから、特に心配する必要はありません」
「う……嘘だろ。そんな仕事先があってたまるかよ……。どうやってそんな夢みたいな仕事を信じろって言うんだよ。ほんとは劣悪な環境下で永遠と働かされるのが落ちなんだろ。俺は騙されないぞ!」
ラルフさんは私を上から睨みつける。
――まぁ……そうなるか。それじゃあさっきと同じ手でいくか。ベスパお願い。
「了解しました。牛乳瓶ですね、すぐお持ちします」
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