4年の月日
気づいたら、あっという間に四年の月日が経っていた。
「ファイア!」
私はアイクに向って手の平を広げ難解な円形の魔法陣を浮かべたのちに火の塊を放つ。
「甘い!」
四年が経ち、身長が結構伸びたアイクは私が放った火の塊を軽々しくよけ、私の目の前に走り込んできて、木剣を振りかざしてくる。
「ファイア!」
私は地面に火の塊を放ち、衝突した瞬間に起こる爆風で土煙を立てその場を離れた。
アイクは土煙を裂くように切りかかるが、そこに私はいない。
「どこに行った!」
――ふ……、アイクまだまだ甘いね。私から目を放すなんて。
私は土煙を利用してアイクの背後を取り、魔法を放とうとする。
「しまった!」
――とった!!
だが、私が魔法を放とうとした瞬間、目の前にビーが通りかかる。
「ギャアアアー!」
私はその場に縮こまってしまった。
「はぁ……。毎回毎回、ビーなんかにビビるなよ……」
そう言いながら、アイクは木剣でビーを叩き切る。
「すごいねアイク……、木剣をビーによく当てられるね。あんなに小さいのに」
「いや、あいつら弱すぎるから……。ん」
アイクは視線をそらしながら私に手を差し伸べる。
「ありがとう……」
私はアイクの手を握り立ち上がった。
「私なんて、魔法をビーに全然当てられないんだから」
「いや、それはお前が怖がって全然見てないからだろ」
「そうかもしれないけど……」
「は~、キララは明日の聖典式でビーが怖くなくなるスキルが貰えたらいいな」
アイクは毎日の鍛錬で結構いい筋肉をつけ、イケメンに成長していた。まだ一〇歳だが、すでに大人の雰囲気を醸し出している。
それに加えて私は未だにちんちくりんだ……。食べている物はほぼ変わらないのに……。
「別にそんなスキル要らないよ。それにしても明日なんだね、聖典式……」
――お母さんが言った通り、本当に四年間なんてあっという間だった。毎日魔法の練習をして、教会のお仕事を手伝って、家に帰ったら、ビーの子を食べる。こんな生活を繰り返して来た私は、さぞ立派に成長した……と言うわけではなかった。
今でもビーは超怖いし、魔法だって最近は上達している気が全然しないし、ビーの子は相変わらず気持ち悪い。変わったことと言えば、アイクがちょっと男らしくなったかな。まあ、私に子供の趣味は無いけど。
「アイクって、剣を使うのがほんと上手いよね。もう、体の一部じゃん」
「ああ……。何でだろうな、俺にもよくわからないんだけど、なんか手に馴染むんだよ」
アイクは木剣を指先でバタフライナイフのように巧みに操っていた。いや、ペン回しじゃないんだから……。
「剣に使えるスキルだといいね。なんでも切れるようになるスキルとか、凄い速さで動けるとか」
「俺はスキルにあんまり期待してないよ。スキルなんておまけでしかないと俺は思ってる」
「おまけ? どうして……」
「俺は努力したから強いんだって、努力したから強い奴にも勝てたんだって。そう思える時が一番うれしいんだ。スキルなんてもらったら『スキルのおかげだ』とか『スキルが無かったら何もできないだろ』とか、言われるかもしれない。それだったら俺はスキルなんて要らない」
「そんな考えが出来るなんてアイクはすごいね。私は物凄く強いスキルが欲しいなって思っちゃうよ」
「良いんじゃね、キララは糞弱いし」
アイクはさも当然のようにそう言いだした。
「な! さっき私に負けそうになってたのはどこの誰ですか!」
「ビーが来ただけで戦闘を放棄するような奴はビー以下だぜ!」
――アイクとは四年でだいぶ打ち解けることが出来たと思う。今はこうして、お互いに得意な分野で競い合ったり、悪い点を改善しあったりしている。
「キララはこれからどうするんだ? 学園にでも行くのか?」
「学園なんていけないよ! どれだけ授業料が掛かるか知ってるの?」
「そうだよな~」
アイクは後頭部で手を組みながら苦笑いをする。
「アイクはどうするつもりなの?」
「俺は、冒険者になる!」
「一〇歳で! そんな無謀な……」
「母さんは俺を女手一つで育ててくれた。すぐにでも恩返しをしたいんだ」
――いや、あんたまだ一〇歳だから。一〇歳でそんなこと言ってたら、地球の子供たちはいったいどうしたら良いていうの。
「す、すごいね、アイク。私はもうちょっとこの村にいようかな……」
「それもいいかもな、ビーを克服してからいろんな街に行くといいさ。ビーはどんな所にでもいるからな」
「ははは……、そうするよ」
「じゃあ、俺はもう帰るわ」
そう言って、アイクは木剣を左腰に掛け、自分の家に帰って行った。
――とうとう明日か……。神父に強いスキルを願ったらくれるのかな? いや、無理だよね。確か神父が言うには、神様がそれぞれの子に合ったスキルを選んでくれるらしいけど、私に合ったスキルって何だろうか。それが少しでも強ければいいのにな……。
こんなことを家に帰りながら考えていた。
「ただいま」
「お帰りなさい。お姉ちゃん!」
私が家に入ると身長が伸びた七歳児のライトが飛びついてきた。私が言うのもなんだが、バカみたいに可愛い。もう、子役なら『君、一〇○○年に一人の逸材ね!』って言われるくらい。姉フィルター無しなのが恐ろしい。
「ただいま、ライト」
「今日も、アイクさんと修行してたの?」
「うん。明日スキルをもらうから最後にスキル無しで戦いたいって言われた。だから嫌々行ってきたの。まぁー、私が勝ったけど……」
――ちょっとした嘘をつく、こうでもしないとお姉ちゃんとしての株が下がっちゃう。
「ちょっと! ライト、姉さんは今帰ってきたばかりだから疲れてるでしょうが。アンタは今から私と修行するの!」
私そっくりで超絶可愛い少女がライトの手を持ち、外に引っ張り出す。私の妹のシャインだ。もう、ほんと私の子供の頃よりも可愛いんじゃないかというくらいの美貌をすでにほこっている。
「え~、シャインは手加減を知らないからな」
「手加減なんてしていたら、強くなれないでしょうが!」
「二人ともほどほどにね……」
この双子も相当大きくなった。
よちよち歩きしていた頃が嘘みたい。
――まだ七歳だけど、地球人の七歳児と言っていることがこんなに違うとは。
ライトは、あまり運動が好きじゃないみたい。逆に魔法に物凄く興味があって私によく質問してくる。
私が教えられることなんてほぼ無いけど、できるだけ真剣に聞いてあげようと努力はしている。
努力しているんだけど……最近、ライトはよくわからない事ばかり質問してくるんだよね。
「『ファイア』で火が付くのは皆、知ってるけど、他の詠唱や呪文でも同じ現象が起こせたら、相手の不意を突けるかも。お姉ちゃんはどう思う?」とか。
「詠唱を言わずに魔法が使えたら、魔法がもっと早く打てるんじゃないかな。お姉ちゃんはどう思う?」とか。
――私が考えもしなかったことを次々考えているらしく、すぐに私を超えていってしまうんだろうなと最近思っている。
シャインの方は、昔から行動力がすごかったけど、最近は良く木剣を練習しているようだ。
もともと運動神経が良かったシャインはアイクの木剣を振る姿を見て興味を持ったらしく、同じように剣を振りたいと言い出した。
初めは、お母さんに「女の子が剣を振るなんていけません!」て怒られていたけど、そんなことで止まるシャインではなく、剣の練習を続けている。
アイクともよく手合わせしているようで、筋が中々良いと褒められてうれしがっているのを最近目撃した。
私自身、剣の才能が皆無なので少し羨ましい。
「剣を自由自在に操れたらかっこいいよね……」
私はライトが出発の準備をしている間、剣を振っているシャインを見て不意に言葉を出してしまった。
「やっぱり、姉さんもそう思う! そうだよね! 魔法より剣の方がカッコいいよね!」
――しまった!
「え!」
服を着替えていたライトが私の方に鋭い視線を送る。
――ヤバイ、聞こえてないと思ったのに、まさか耳まで良いのこの子。
「姉さん! 確かに剣もカッコいいけど、魔法の方が上手く操れた時、カッコいいよ!」
ライトは動きやすい短パンを履かず、パンツ一丁で叫ぶ。
――ほら……、ライトまで食いついてきた。はぁ、だからこの二人の前ではあまりこういった話をしないようにしてたのに。
「はいはい、どっちもカッコいいよ」
「剣の方がカッコいい!」
「いや、魔法の方がカッコいい!」
「はぁ……、二人とも……、言い合いはほどほどにね」
最近はずっとこんな感じで、喧嘩している。
昔はずっと手を繋いでどこを行くにしても一緒なくらい仲が良かったのに……。
こうなると、どっちかがぶっ倒れるまで戦いが続く。そして夕食にビーの子をお腹いっぱい食べるというのが、一日の流れみたいだ。
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