街の子供達の状況
「さてと、ギルドマスターであるシグマさんから聞いた話では子供たちを街の外に連れ出しても問題ないらしい。もちろん子供たちの意見を尊重するけど、できるだけ連れて帰る」
「そうですね、すぐに向かいましょう。何とか持ちこたえているようですが、俄然危険な状態にあります」
「命の危険がある子はリーズさんの所に運んで、治療してもらおう。その分のお金は私が出せばいいし」
「ですが…放浪者を受け入れて頂けるでしょうか」
「リーズさんなら心配ないよ、きっと力になってくれる。お父さんだっていまだに返せないくらいの付けがあるくらいだから、お金を払えば大抵助けてくれるよ。それより…どうやら人にバレたらあまり宜しくないらしいからさ『ビー』達の『光学迷彩』を使ってウシ君の荷台を隠しながら行こうと思うんだけど、前と同じくらいの『ビー』達を集められる?」
「はい、それくらい問題ありません。すぐさま取り掛かれますが、どういたしますか?」
「今はまだやらなくていんだけど、子供たちが乗り込み始めたら隠して」
「了解しました」
「それじゃあ、手あたりしだい子供たちにあって行こうか。ベスパ案内してくれる」
「はい、こちらの方角です」
私はレクーとウシ君をそれぞれの荷台に繋ぎ、ベスパに付いて行くよう動かした。
「ベスパ、子供達の状況を知りたいから見てきた映像を私にも見せてくれる」
「了解です、記憶を共有します」
私の頭の中にベスパが見てきた記憶が流れ込んでくる。
⭐︎⭐︎⭐︎
「う…う…、お腹空いたな…。もう丸2日何も食べてないや…、頭も回らないし…僕…このまま死ぬのかな…」
「お兄ちゃん…お腹空いた…」
「ああ…僕もだ…ごめんな何も食べさせてやれなくて…ん…何だ。『ビー』が飛んでる…こんなに雨が降っている中で…って…なんか近づいてきたぞ…」
ベスパは二人の子供達に小さな袋を2つ落とした。
「何なんだ…いったい…」
少年は恐る恐る中身を覗く。
何度か触り、ビーの子が食べ物だと直感してくれたのか…口に放り込む。
「お…美味しい…食べられるぞ、これ…」
少年は妹に一粒食べさせる。
空腹で倒れそうだった妹がぱっと起き上がり、一粒ずつ口に放り込んでいった。
久しぶりに食べ物を口にしたのか、感動してしまったようで泣き出してしまった。
たった一粒で起き上がるほど元気になるんだ。どちらも生きる気力が湧いているように見える。
「普通ビーが食べ物を運んでくるとは思えない。誰かが持って来させたのかな…」
死にそうだった少年たちの顔は顔色が良くなり始めていた。
問題ないと判断したのか、ベスパは次の子供のところへ向かう。
「はぁはぁはぁはぁ…何とかこれだけの商品を盗めたぞ…これでみんな当分は食べていける…。ってもう追ってきた。とりあえず、ごみ溜めへ…」
少女はゴミ溜めに入り込んだ。
すぐ、男が追ってきた。
「ち! あのクソガキどこに行きやがった! 店の商品持ち出しやがって、ガキだからって次見つけたら容赦しねえぞ!」
少女は追ってきた男を回避する。
「は、誰が見つかるか…バーカ…。でも…これだけあれば、当分の間は生きていけそうだ…って! な!」
少女がごみ溜めから出た瞬間、目の前には別の太った男が立っていた。
「オーナー! 見つけやした! 店の商品盗んだガキです!」
少女は持っていた品物を全て捨て、何とか逃げようと試みる…。
「クソ!…」
少女は路地を曲がり、何とか逃げ切ろうとやけになって走るが…。
「おっと…逃がさねえぞ、クソガキ…丁度いい、お前で日々のストレスを発散させてもらうとするか!」
「く!」
前も後ろも防がれ…少女は追い込まれてしまった。
「何だ、ガキ…大人とやり合おうってか…。どうやって勝つつもりだ…、そんな錆びれたナイフ1本で」
「う…うるせえ…、お前らばかりいい思いしやがって…少しくらい分けてもらってもいいだろうが…」
「あれのどこが少しなんだ。あの商品だけで金貨5枚相当だぞ。お前を闇市にある奴隷商にでも売ったら精々銀貨5枚ってところだろうな! だが俺に使われればもう少し高めに出してやってもいいぞ」
「ふざけるな! 誰がお前なんかに、ぐ! は、離せ!」
太った男が少女の両手を後ろから掴む。
「オーナーさっさと済ませちゃいましょうよ、仕事にも支障が出るんで」
「ああ…そうだな。さっさと済ませて帰るか…」
「おい! 何するんだ!」
「おいおい、あまり大きな声を出すなよ、周りの奴らに気づかれるだろうが。おいデブ、ガキの口塞いどけよ」
「了解です」
太った男は布で少女の口を縛る。
「ふぐぐうぐあう!」
『ブーンブーン!!』
「あ…? 何でこんな薄汚い路地にビーがいるんだ…。あっち行っとけ、しっしっ! こちとら今からストレスを発散するところなんだよ。お前に魔法使っている余裕ないんだ」
『ブーンブーンブーン!!』
「確かに多いですね…手で払っても払ってもわいてきます。ここら辺に巣でもあるんですね」
「知らねえよ。ビーの巣くらいどこにでもあるだろ。ギルドに文句言いに行かねえとな。おらさっさとやっちまうぞ」
『ブーンブーンブーンブーン!!』
「オーナーなんかやばいかもしれないですよ…」
「あ? 何がだ。お前この状況で出来ねえって言うんじゃねえだろうな」
「い…いや、そう言う意味じゃなくて…あの黒い物体…全部『ビー』なんじゃ…」
「はぁ…何言って……。嘘だろ…おい。お前は炎系の魔法使えたか…」
2人の男は、ベスパが集めたビーの集団に気がついた。
「え…ええ、一応『ファイア』は使えますけど。あの数ですよ…」
「問題ない、この雨中だろうが『ビー』の群れごとき『ファイア』の一発で燃え尽きる。さっさと放て」
「了解です。『ファイア!』」
太った男の放った『ファイア』は、黒い物体から先行した1匹のビーに受け止められてしまう。
魔法を受けたビーは燃え尽きてしまったが、後ろの黒い物体は健在した。
「え…なんかよく分からないですけど『ファイア』が消えました…」
「何してる早くしろ! 俺は魔法が使えないんだよ! もうこのガキはどうでもいい、さっさと放して攻撃しろ!」
「は、はい!」
太った男は握っていた手を離し、魔法を放つために集中した。
いきなり離したため、少女は地面に尻餅をつく。
その衝撃で口を縛っていた布が緩む。
「ッツ! …いきなり放しやがって…いつつ…って! 何だよあれ」
『ファイア!』『ファイア!』『ファイア!』『ファイア!』
太った男から放たれた『ファイア』は黒い物体から先行するビー達に全て受け止められる。
「おいおいどうなってるんだよ! ビーがこんな行動するわけないだろう! 纏まって一気に襲ってくるだろうが! 何で『ファイア』から群れを守るような行動するんだよ! 虫に意思なんて無いだろ!」
「オーナー! もう魔力がありません! 元々魔力量が少ないので、次が最後です」
「ち…クソガキ! こういう時くらい役にたってもらおうか! お前は魔法を放て、俺はそれと同時にこのクソガキを投げ込む。このクソガキを囮にして俺たちは逃げるぞ!」
「は、はい!」
「クソ!放しやがれ!」
男は、少女の首根っこの服を掴む。
「何も食ってねえ細い体で抵抗なんてできるわけねえだろうが! ゴミはゴミらしくゴミ虫の餌になってろよ!」
「『ファイア!』」
「おら! よし、逃げるぞ!」
男は思いっきり少女を投げ込んだ。
その後、2人はその場から退散していく。
「…ッツ…思いっ気に投げやがって…あ…」
少女の目の前には黒い物体が…そして間近で見ると…黒い物体に見えていたのは無数の『ビー』の姿だったと気づいたようだ。
私なら一瞬で気絶するだろう。
余りの数に少女も足がすくんでいる。
そのまま体が動かなくなった少女はビー達に飲み込まれていった…。
「う…な…あれ…何ともない。あれだけいっぱいいたのに…。どこに行ったんだ…それに。何だ…この袋」
ベスパは少女にビーの子が入った小袋を落としていた。
少女はすぐ袋を開け、乾燥したビーの子を手に取った。
「何だろう…これ。食べていいのか…。いや、よく分からない物を食べるのは…」
『ぐぅぅぅぅ~』
「はぐ…。あ! 思わず食べてしまった…。でも不味くないな…逆においしいかも…。はぐ、はぐ、はぐ!」
少女は袋の中身を全て食べ終える…。
「は…もう無い…。あれ…でも少しだけ元気になったような…。これなら皆の所に帰れるかも。さっき捨てた品物が残っているか見に行こうかな。でも…あの大人が残っているかもしれないしな…。ん〜やっぱり様子だけ見に行こう…」
少女は、はだけたボロ雑巾のような服を整え、走り出した。
その様子を見届けたベスパは次の子供達のところへ向かう。
⭐︎⭐︎⭐︎
「はぁはぁはぁ…。寒い…寒いよ…お姉ちゃん…」
「大丈夫…。大丈夫だから…お姉ちゃんが何としてでも守ってあげる…。おじさん達から貰ったお金で、美味しい物でも食べよう…」
「う…うん…」
「ちょっと待っててね…、私お金を稼いでくるから…。この橋の下で…雨を凌いでるんだよ…」
「お姉ちゃん…行っちゃ、やだ…」
「ごめんね…守るためにはお金が必要なんだ…、すぐ戻って来るから…この布を羽織って、体を冷やさないようにしててね…」
「あ! 待って…行かないで」
「…っ!」
その女子は走り出した…。
「雨が降ってくれてありがとう…体の臭いを消せる…。汚れも目立ちにくい…。お腹が痛いけど…問題ない…。あの子を守るためなんだから…」
少女は繁華街へ向かい、金持ちそうな人に声を掛けていく…。
「あの…おじさん…私とやりませんか…」
「あ? 何だぁガキ…、そうかこっちに来い」
おじさんは女子の体を見るや否や…路地裏へ連れ込んだ…。
「ち! やっぱガキはガキだな…ほら、金だ。くれてやる。もう2度と話しかけてくるな」
地面に銀貨1枚を投げ捨て…おじさんは去って行った…。
「あれだけやっといて…銀貨1枚って…割に合わないな…。選ぶ人間違えた…。これじゃあ…病院の料金に足りないよ…早く次の人に声を掛けないと…」
女子は何とか立ち上がり、路地裏を歩いて行く…。
「っつ! …最近…お腹の調子が悪いな…。体もだるいし…でもそんな弱音吐いてる場合じゃない…。次のお金持ってそうな人に話しかけないと…あの子が死んじゃう…」
女子は大通に出た時…、白衣を着た優しそうな人を見つめた。
その人に私は見覚えがあった。
「あの人…優しそうだな…、お金いっぱい持ってそうだし。よし、次は…あの人にしよう」
女子は靴も履いていない状態で、何かを物色しているその人に声を掛ける。
自分の強調された胸を白衣を着た人の背中に押し当て…もたれ掛かった…。
「あ…あの…、大丈夫かい?」
優しく声を掛けてくれるその人はきっとやってくれないのだろう…。
なぜなら既に結婚しているのだから。
「あの…私を買ってくれませんか…、体には…自信があるんです…。少しで良いんでお金をもらえたら…何をしてもらっても構いません…」
「ちょっと、君! 酷い熱じゃないか、こんな状態でいったい何をやっているんだ!」
その人は女子のおでこに手を当てたあと、すぐ背負った。
「私は良いんです…、それよりも弟の方が酷くて…。病院に…」
「ちょっと! ちょっと! 君、大丈夫かい! 仕方がない、とりあえず病院に運ぼう!」
女子はその人の大きな背中に揺られながら意識を失った。
ーーリーズさんなら女の子を任せても問題ない。
その人はリーズさんだった。
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