余裕のある者が人を助ける
「えっと…そんなに褒めて頂けると、牧場のモークルたちも喜ぶと思います。それで…街で売るにはどうしたら良いですかね…。今の所、パン屋さんと同じように数量限定で売って行こうと思っているんですけど…」
「そうだな…これだけの品を欲しがる店は多いだろう。そりゃあ数量限定にしないと独占されちまうだろうからな。嬢ちゃんの働いている牧場もバカでかいわけじゃないんだろ」
「はい…そうですね、家族でやっていますし、手が回らなくなるので」
「そうだろうな…。やはり街で売るなら、数量限定でもっと金額を上げたほうがいいと思うぞ。今の3~4倍は上げられるはずだ。街の人々に売りたいのなら、品質を保ち下げられる費用を見つけて、安く売る。そうしないと多方面から反感を買うだろうからな…」
「3~4倍…そんなに上げてもいいんですか…。村で売っている価格と大分違いますけど…」
「問題ないだろう。いい商品を高く売るなんて当たりまえなんだからな。まぁ…もっと詳しい話が聞きたいんだったら商業専門のギルドに行ってみるといいかもな」
「ここ以外にもギルドがあったんですか? 知らなかったです…」
「まぁ普通はこっちの冒険者ギルドが主流だが、他国から商品を売りにきたり、もちこんできたりする場合は商業ギルドの審査を受けないといけないらしい。街で悪質な商品を販売させるわけにはいかないからな。王都で売る場合は、さらに厳しい審査があるそうだ」
「そうなんですね…分かりました。その商業ギルドなる場所にも一度行ってみようと思います。それじゃあ…次の質問なんですけど…」
「ああ、まだあったんだったな。えっと、この街についてだったか? 具体的にどういう意味だ」
「えっと、具体的に言うとですね。この街は住みやすい街ですか?」
「住みやすい街…と言えるのかもしれないが、住みにくい街ともいえるな。数年前に領主が変わってから、民衆は相当苦労しているみたいだ。犯罪も増えているし、失業者も増えている。豊かな者は更に豊かになり、貧乏な者は更に貧乏になる。最近じゃあ仕事が辛すぎて冒険者に転職する若者も増えてきた。働き過ぎて死ぬのか、冒険中に死ぬか…なら冒険中を選ぶ輩が多いってことかもしれないな」
シグマさんは俯き、暗い顔になる。
少し間が空き、ノルドさんとブレイクさんが話し始める。
「そうですね…私の友達も街で仕事をしていますが、最近会えていません。どうも、家族を養っていかなければ成らないらしく辛い仕事を止めようにも止められないんだとか。私は良い仕事が見つかるまでの間、金銭を負担すると言ったのですが…。今の仕事を止めても、そのあとやって行ける気がしない…だそうです」
「あ~いるいる、よくお姉ちゃんたちと飲んでるとき、死にそうな顔でエール飲みながら何時まで働くのかブツブツ言っている奴ら。まぁ…冒険者の俺らより『安定している』と言ったらそれまでだが…心の方が全く安定してないよな」
2人の話に付けたすようにシグマさんも話し始めた。
「まだまだ掘り下げればいくらでも黒い部分が見つかるだろう…。だが…実際この街が豊かになっているのは今の領主が動き出してからだ。実力はあるのだろうが…相当無理難題を押し付けるやつなのは確かだろうな。特に放浪者の処置に対しては全くの無視を決め込んでいる。どこで野垂れ死のうが全く気にしてない。死んでいるのを見つけた場合すぐさま除去するくらいだ…。俺も何人か除去されている放浪者を見たが…酷いもんだぜ。こんな暗い話を嬢ちゃんにしてもよかったのか?」
「はい、大丈夫です。何となく分かっていましたから。あと1つ…私のやりたいことがあるんですけど…犯罪じゃないか聞いてもらっていいですか?」
「おいおい…いったい何をしようって言うんだ」
「街中を放浪している子供たちを何とかして助けてあげたいと思って…子供たちを牧場で雇いたいと考えているんです。ただ…放浪者と言っても子供ですし、誘拐とかの犯罪にならないかなと思いまして…」
「子供たちを雇う…。放浪者をどこへ連れて行こうが犯罪にはならないと思うぞ。今の領主が全くの無視なんだからな。無視している放浪者を誘拐したところで何も言われない。逆に放浪者に気を掛けるのは、この街で浮くからな…。俺もたまに余った食い物を渡すが…周りからの眼が凄いぞ『苦しんでいるのはそいつだけじゃない…』みたいな目で見てくるもんだからな。誰の子かも分からない子供たちに何かをしてあげられるだけ、この街の人々に余裕が無いんだ。だからどんどん子供の放浪者が増えていく。最近じゃ『殆どが子供たちの放浪者なんじゃないか』と思う程だからな。嬢ちゃんが子供たちに何をさせるのか知らないが…助けてやれるなら助けてやってほしい」
――シグマさんもそう思っているんだ…、それに子供たちを助けてあげてもいいみたい。
「だが、出来るだけ見つからない方がいいな。連れて行くならバレないように工夫した方がいいぞ」
「なるほど…分かりました。出来るだけ人にバレないようにしたらいいんですね」
「そうは言っても、なかなか難しいですよ。この街中で人目に付かないようにするのは」
「そうだな、俺なんてすぐ見つかっちまうし。モテすぎて仕方が無いというか、俺のオーラが凄いのかもな」
「お前は単純に目立とうと行動しているからだろ。もっと普通にしてたら誰もお前に気づかないと思うぞ」
「え…俺って普段そんなにオーラ無いんですか…」
彼らが雑談を離し始めたころ、ベスパからの連絡があった。
「キララ様、体力の消耗によって意識不明の子供たち数名を橋の下に避難させました。大分熱が上がっており、危険な状態にあると思います」
――そうなんだ、分かった。とりあえずそっちに向おうと思うから、一回戻ってきて。
「了解です!」
「えっと、それじゃあ私はこれで…。話を聞いてくださりありがとうございました。参考にさせていただきます」
「ああ、値段が決まったらぜひうちでも使わせてくれ。それに子供たちを頼む」
「はい、頑張ってみます」
――なぜ私が頑張るのか自分でもよく分からない。でも、助けられるのだから助ける。今の私には周りを助けられるだけの余裕を持っている。余裕を持っているから助けようと思える。だけど、この街の人々にはそんな余裕が無いらしい。それなら余裕のある私が何とかしないと…。
私は3人にお辞儀したあと、駆け足でギルドの外に出た。
土砂降りだった雨が少し収まり、小雨程度になっている。
私は傘を差さず、そのままレクー達の待つ厩舎に向かった。
ちょうどベスパも厩舎に到着し、出発の準備を整える。
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