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「いや~、すまなかったな。嬢ちゃんがいるのすっかりと忘れてた。あまりにも話を聞かないバカがいたからよ」
シグマさんは右手で髪を掻きながら苦笑いを浮かべる。
「はは…だ、大丈夫ですよ。私そんな気にしていませんから。えっと…はじめましてキララ・マンダリニアと言います」
「どうもはじめまして、ノルド・パトレイジーと言います。一応Aランク冒険者になりました」
「さっきはどうも、泥を落としてくれてありがとうな。俺の名前はブレイク・カルア。ノルドよりもだ~いぶ先にAランク冒険者になったんだぜ」
「それで嬢ちゃん。今日は何をしに来たんだ?」
「はい、今日はギルドの方々に話を聞いてもらいたくてここまでやってきました」
「ほう、どんな話を聞けばいいんだ?」
「えっと…聞いてほしい話は主に2つあります。1つ目が商品の価値を見定めてほしいのと、2つ目がこの街についてです…」
「子供にしては変わった質問ですね」
ノルドさんは私の顔を眼を細めて見てくる…。
「そうだな、もっと可愛い相談かと思ったら…だいぶ大人じみた話だ…」
隣にいるブレイクさんも眉間にしわを寄せながら見てくる…。
「了解だ。俺に分かる範囲なら答えさせてもらう。まずどっちの質問からするんだ?」
「でしたら…まず商品の査定から」
「商品…はてその商品はどこにあるんだ?」
「あ、そうでした…。ちょっと待っててください」
私は、一度ギルドの外に出る。
先ほどから扉の横に置きっぱなしになっていた牛乳瓶を手に取り、シグマさんのもとへ戻った。
――いつの間にか扉治ってる…。またあのドワーフさんかな。さすがに仕事速すぎなんじゃ…。いやいや、今は目的に集中しないと。
「これです」
シグマさんに牛乳瓶を手渡す。
「これは…いったいなんだ? 中に何か入っているようだが…、ポーションか?」
「いえ、ポーションではなくモークルの乳になります。上の蓋を取って飲んでみてください」
「モークルの乳…」
シグマさんは牛乳瓶の蓋を取ると、口側から中を覗き見る。
「モークルの乳がこんなに綺麗な白色をしているのか…ノルドも一度見てみろ」
シグマさんは手に持っている牛乳瓶の口をノルドさんの目の前へ持っていく。
「うわ…ほんとですね…。モークルの乳がこんなに白いなんて採れたてですか?」
「いえ、多分2~3日前に採取したモークルの乳ですよ。氷が置かれた寒い部屋で保管してありましたので、安心して飲んでもらって構いません。もちろん雑菌や小さなゴミは、ほぼすべて取り除いてあります」
「2~3日前でこの白さ…全く臭くもない。逆に採れたての優しい匂いがまだ残っているぞ。それじゃあ…戴かせてもらう」
シグマさんは牛乳瓶の口付近を手で仰ぎながら牛乳の匂いを嗅ぐ。
「はい、グビッと行ってください」
そしてシグマさんは牛乳瓶に口を付け、喉へ一気に流し込んで行った。
「どうですか…シグマさん。モークルの乳…美味しいですか。シグマさんはこう見えても、食材には特にうるさいからな。料理に使えるか使えないか勝手に判断しちゃう癖があるくらいだし」
ブレイクさんの発言により、シグマさんが実は食通なのだと知って私はちょっと焦る…。
「……………」
シグマさんは黙ったまま、その場に立ち尽くしていた。
「シグマさん。大丈夫ですか? 無理して飲まなくてもいいですよ。流石に3日も経ってたら腐ってしまいますし」
ノルドさんは心配そうにシグマさんを見つめる。
「……………嬢ちゃん…これは売り物なのかい?」
素に戻ったような野太い声でノルドさんが私に話しかける。
あまりにも低い声なので、ベテランの刑事かと思い、私は言葉を詰まらせた。
「え…は…はい。私の村では普通に売っています。あと、この街で1店のパン屋さんに使ってもらっていますよ。結構好評だったんですけど、あまり美味しくかなったですか?」
「そうか…これは売り物なのか…。それで、肝心の値段はいくらで売っていたんだ?」
シグマさんの険しい顏は変わらない…。
――なんか、尋問されてるみたい…。
「えっと、村では1本銅貨2枚、街では1本銅貨5枚です。運ぶ費用が上乗せされてこの値段にしたんですけど…。どうしてか街のパン屋さんにバグっていると言われてしまいまして…」
「バグっている? まぁ確かに…街で売っているモークルの乳はコップ一杯で約銅貨8枚くらいだからな。少し安くはあるが…バグっているとはどういう意味なんだ。聞いた覚えないんだが…」
ブレイクさんは頭を傾げ、シグマさんがなぜずっと険しい顔をしているのか分からない様子だった。
「嬢ちゃん…この2人にも飲ませてやりたいんだが、余ってないか」
「はい、余っています。ちょっと待っててくださいね」
私はギルぢの外に再度出て、扉の横においてあった残りの牛乳瓶を持ってシグマさんのもとへ戻る。
「はい、どうぞ」
私はノルドさんに牛乳瓶を渡した。
「ふむふむ…中々変わった素材ですね。ガラス…じゃないし。木材でもない。手で握ると少しへこむが潰れるわけでもなくしっかりとしている。これはいったい何の素材からできているんだい?」
「えっと…これは私のスキルから作り出した物です。主な材料は木だと思うんですけど…あまり詳しく知らなくて」
「そうなんだ。それじゃあ、戴くよ」
私は隣にいるブレイクさんにも牛乳瓶を渡した。
「あんがとよ」
ノルドさんとブレイクさんは同時に牛乳を飲み干す。
「……………」
「……………」
――どうしよう2人とも固まっちゃった…。不味かったのかな…、それとも口に合わなかった…。
「シグマさん…バグってますね…」
「バグっているというか、ぶっ飛んでるというか…。さっきの発言が恥ずかしいっす…」
「そうだろ…。俺の味覚がおかしくなっている訳じゃねえんだな…」
「え…そんなにおかしいですか…。どこがだめなんでしょうか? 別に不味くないと思うんですけど…」
シグマさんは空になった牛乳瓶をカウンターに置き、話し始めた。
「まず…値段が安い。安すぎる。これだけの物をこの値段で売ったら同業者が死ぬ」
「同業者が死ぬ…。えっと、つまりモークルの乳を売っている人たちが死んでしまうという意味ですか…」
「ああそうだ。高くて品質の悪い物より、安くて品質の良い物があったらそちらを買うだろ。だが…これは安すぎて品質の良すぎるものだ…、こんなものを世に送り出したらモークルの乳を売って生活している人たちの仕事を奪ってしまう」
「えっと、パン屋さんにも同じ意見を貰ったんです。同業者とうまく付き合っていくには、どうしたらいいんでしょうか…」
「簡単だ、品質を下げるか、値段を上げるか。どちらかを行えば、同業者を殺さないですむ」
「いや…でも、品質を下げるのは…信用問題に関わりますし、値段を上げるのも村の人たちが飲めなくなってしまいます…」
「そうだな、村では安いのに街では値段が上がる。至極当然だ。村で売るならその値段で構わないと思うが、街で売るのには少々値段が低すぎる。俺の分野じゃないが流石に同じ値段では売れないな…」
「やっぱりそうですか…、王都だとどれくらいの値段がするんですか」
「王都なら、このレベルだと金貨は優に超えると思う…しかも保存できるときた…。菓子職人にとってはありがたい品になるだろうから…うん、想像できんな。菓子職人は貴族御用達となれば莫大な富と名声を手に入れる。そんな奴らがこの乳を飲んだら…いったいいくら払うのか…。全く分からん」
「えっと、それじゃあ…私の持ってきたモークルの乳は相当いい商品なんですね…」
「俺が飲んできたモークルの乳の中では間違いなく一番美味い…。美味すぎて言葉が出てこなかった…。まさかモークルの乳でここまで感動するとは思ってなかったよ…。多分そこの2人も同じ考えだ」
「ええ…。初めて飲みましたよ、こんなうまい飲み物…。中々出会えませんって、うますぎて言葉が出てこないなんて‥‥」
「はい…私も職業柄、結構いろいろな街や村へ訪れますが、こんな乳を初めて飲みました。もうこれは、モークルの乳とは全く別ですよ…。採れたて以上の味がするって訳が分かりません…」
どうやら2人にも好評らしい。そうなると益々値段が分からない…。
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