見た覚えのある冒険者…
私はギルドの銭湯…と言えばいいのか分からないが、女性用のお風呂場で体を温めていた。
「やば~、広い場所でお湯に浸かるなんて…いつぶりだろう~。もしかしたら初めてかも知れない…」
久々に大きなお風呂に入り、先ほどの泥まみれ状態がどうでもよくなるくらい心の緊張がほぐされていた。
「キララちゃん。体を拭く用の布と乾かした服、子供用の下着をここに置いとくからにゃ~。自由に使ってにゃ~」
「は、はい。ありがとうございます」
私は気持ちがとけすぎてどれだけ長風呂したか分からない。
ただ…今までの鬱憤を晴らすように、大満足するまで堪能した。
「はぁ~気持ちよかった…」
脱衣所で体を拭き、木棚に置いてあった子供用の下着を着た。
すぐ隣には、綺麗に洗濯され乾いている服が畳んでおいてあった。
「いや…洗って乾かすのはやすぎない。なんか魔法でも使ったのかな」
特に気にせず服を着たあと、濡れた髪を魔法で乾かしていく。
雨と汗によってべた付いていた私の髪は、お湯によって汚れが綺麗に流され、手櫛でもすっと髪をとけるくらいさっぱりした。
脱衣所に取り付けてあった鏡を見て服装の乱れがないか確認する。
その場で一度右脚を軸にして回り、再度服装の乱れがないか確認した。
まぁアイドル時代の職業病だ。
「よし、問題ないかな…」
話をするには第一印象が大事だと思い、出来るだけ見た目を綺麗にしたかったのだ。
シグマさんたちのいる広い部屋の方へ向かうと…、何やら話し声が聞こえる。
「だ~か~ら~! それは難しいって言ってるじゃないっすか。俺1人でも十分できますよ! アイツと手を組んで依頼を受けるなんて俺は絶対に嫌ですからね」
「お前1人だとどうしても不安なんだよ。だからノルドと同じパーティーに入って合同で依頼をこなしてくれ。報酬を分け合っても十分手元に残るだろうが」
ーーノルド…どっかで聞いた覚えがあるな…。どこだったっけ…。
「ノルドとパーティーを組むなんて絶対に嫌です。あいつと俺、滅茶苦茶相性悪いですからね!」
「そんなこと言って…。お前よりもノルドの方がモテている状況が気に食わないだけだろ」
「は! ちょっと! そんなこと一言も言ってないじゃないですか。確かにアイツは俺と同じくらいイケメンですよ。身長も高いし、優しくて誠実だ、物も丁寧に扱うし食べ方だって貴族かと思うくらい綺麗なんですよ。ほぼ俺と同じじゃないですか。俺が唯一勝ってるのがランクだけなんですよ」
「あ~、そのランクなんだが…。丁度昨日か、ノルドのパーティーもAランクに到達したんだよ」
「ちょ! マジですかそれ!」
「ああ、本当だ。随分と私を褒めてくれてたみたいだなブレイク」
「おお! 来たかノルド、よく来てくれたな。他の2人はどうした?」
「はい、メルとラルは今日休んでもらっています。依頼を達成して昨日この街に帰ってきたばかりでしたから。話を伺うだけなら私だけでも十分だと思ったので」
「そうか、それなら別に構わないんだ」
シグマさん達が話し合っている頃、私は…ずっと扉の隙間からその状況を覗き見ていた。
――どうしよう…出ていく機会を逃しちゃった…。それよりもノルドさんって…あの時のノルドさんだよね…。ブラックベアーに吹き飛ばされてた冒険者さん…。あの時ちゃんとお見舞いに行ってあげられなかったけど、無事退院できたんだ。それに…あのブレイクって言われてた人も前にどこかで見たような…。
ノルドはブレイクの隣に座る。
「トラスさん、エールを一杯お願いします」
「了解にゃ~」
トラスさんは慣れた手つきで木製ジョッキにエールを溢れんばかりに注ぎ、ドッと勢いよくノルドさんの前に出した。
「エール一杯お待ち、なのにゃ!」
「ありがとうございます」
ノルドさんはエールを喉へ一気に流し込んだ。
「ふぅ~。冷えてておいしいですね」
「いやいや、何でお前がここにいるんだよ」
「さっき、シグマさんに聞いただろ、ちゃんと聞いてなかったのか?」
「聞いてたわ! 金欠を解消できるいい依頼の打ち合わせだよ! 俺だけでも十分達成できる依頼だけどな」
「はぁ…さっきからこの調子なんだわ。ノルド、何とかしてやってくれ」
「ちょっと! シグマさん。さっきから言ってますけど、これくらいの依頼なら俺1人だけでもできますって」
「ブレイク、ちゃんと話を聞いてくれ。最近やたらと瘴気に係わる事件が起こっているんだ。瘴気に対抗手段の無いお前1人じゃ、瘴気が何かしら依頼に関わっていた場合、依頼達成どころかお前の身にも危険が及ぶんだよ」
「は~! 俺が瘴気に対して対抗手段が無いって! あるに決まってるだろ。聖水を買えば俺だって瘴気に侵された魔獣の10や20くらい余裕でぶっ倒せるわ!」
「はぁ…その聖水を君は買えるのかい? 1本金貨50枚くらいするけど…」
「は! …俺…金欠だった…」
「こいつ今さら気づいたのかよ…。バカだな―ほんと。何でお前Aランクに成れたんだ? やっぱりリーズのおかげか…」
「リーズさんは関係無いでしょ! 俺の実力だって言ってるじゃないですか」
「まぁとりあえず、お前には1人じゃ無理な依頼なんだよ。だから私のパーティーと合同だ。分かったか」
「グぬぬぬ…そうなると仕方がないのか」
「やっと分かってくれたのか。こいつの性格だと永遠に断固拒否すると思ったんだがな」
「お金を返さないといけないんでね…、そんな戯言も言ってられないんですよ。どれだけ嫌な依頼でもこなさないと借金は減りませんから」
「それもそうだな。お前には俺にまだまだ借金が残っているんだから死ぬ気で稼いでもらわないとな」
「ハハハ! えっと…死なない程度にお願いします…」
「シグマさん…先ほどから何か視線を感じるのですが…」
「ああ、そうだった。そこにいるのか嬢ちゃん?」
――あ…なんか呼ばれたみたい…やっと話が終わったのかな。
私は未だ、扉の後ろから3人の会話を聞いていた。
シグマさんに呼ばれたので私は扉を開けて3人のもとに向かう。
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