新しい魔法の使い方
今回は脱げないように、靴ではなくズボンを持って引っ張る。
「ふぐぐぐぐ‥‥」
雨に濡れ始めたとき気づいたが、私には元々筋力が無かった…。
――そう言えば…私って非力なんだった…、このまま引っ張っていても意味ないかも。あ! ちょっと動いてきた!
「フギギギ…」
引っ張っていたズボンが少し動いたため、私はてっきり引き抜けていると思っていたが…どうやら違ったらしい…。
「うわぁ!」
なぜかズボンだけが脱げ、私はドロドロの地面へ転がってしまった。
「ああ…泥まみれになっちゃった…」
私の髪、服が泥まみれになり、男の人を脱がしてしまった嫌悪感から手に持っているズボンを地面に落とす。
「はぁ…こうなったら普通に雨でびしょ濡れ、それに泥だらけだし…今さら濡れても変わらないか」
『ウォーター』
頭上に魔法陣が展開され水が流れ落ちてくる。
頭上から水が勢いよく落ち始め、私の全身に付いた泥を洗い流してくれた。
「はぁはぁはぁ…。苦しい…溺れるかと思った…」
未だに使い勝手が分からない。
最近『ファイア』以外の魔法がようやく少しずつだけど使えるようになった。
ライトが熱心に指導してくれたお陰だ。
梅雨の時期もよかった。
梅雨は外が雨だと屋内で過ごす日が多く、仕事量が少し減っていたのだ。
その分、晴れの日にしわ寄せが多く来るのだけれど…。
私が室内で出来る仕事もなかったので、魔法の練習を行っていたのだ。
近くに魔法の天才がいると覚えが速いのか、比較的簡単な属性魔法を使えるようになった。
それでも『ファイア』よりうまくは使えない。
だが、いろんな魔法が使えると楽しい。日々の生活力が上がった気さえする。
先ほどのドライヤーだって『ファイア』と『ウィンド』の合わせ魔法だ。
ドライヤー以外はまだできないけど…。
他属性との合わせ魔法はとても難しい…。これからも練習を続けていく所存だ。
パンツ丸出しになった情けない状態で地面に突き刺さっている男性は土の中で何かを言い出した。
「じんだじぎょうが『身体強化』」
何かの呪文を唱え終えたのか、地面から腕の力だけで一気に跳躍した。
私は咄嗟にギルドの方へ走る。
傘を広げ盾として使う。
跳躍した男性が地面に着地した際、地面の水溜まりが弾け飛び一帯を汚した。
――私は傘のお陰で汚れるのを避けられたけど…。周りのお店に迷惑をかけすぎだよ…この人。
男性はもちろん全身…泥まみれだ…。
地面に落ちているズボンを持ち、その場に立っている。
「おい! そこの変態。なんで突っ立ってるんだ! 体洗ってやるからこっちに来い! フフ…」
ギルド内からまたもや大きな声がする。
シグマさんは笑うのをだいぶ堪えているようだけど、堪えきれていない。
私もこの状況が面白くて笑いそうになる。
仕方ないので…私は
『ウォーター』
男性の頭上に魔法陣を展開させ、水を一気に流す。
「ごぐごっぐおぐごゴグごぐおぐ」
いきなり水をかけられ、驚いたのか、男性は水の中でもがいている。
数秒たち、全身の泥汚れは綺麗に落ちたみたいだ。
「お嬢さん…。魔法を使うときはもっと…優しくお願いします…」
「ご…ごめんなさい…、上手く加減できなくて…」
「なんだ、もう泥が落ちちまってるじゃねえか。もっと嘲笑ってやろうと思ってたのに…。それにしても何でそんな恰好なんだ?」
ギルド内からシグマさんが顔を出し、乾いた布を持って来ていた。
「ま、それくらい泥が落ちてれば後は乾かすだけだな。ほら、さっさと戻らねえと風邪ひくぞ」
「誰のせいでこんなに濡れてると思っているんですか…」
「お前が俺の忠告を気にしないで女に金を使いすぎるからだろうが。自業自得だ馬鹿垂れ。ほら、さっさと水気をとって中に入れ。お前に優良な依頼が来てるんだ。これさえ達成できれば金の問題は無くなる」
「ほんとっすか! それなら早く言ってくださいよ。そんなのがあるならわざわざ、泣き付いたりなんてしませんよ」
その人は濡れた状態でシグマさんから布を受け取ると、髪を揉みくちゃに拭き全身の水滴を取るようにして体を撫でて行った。
「はくしゅちゅ…」
「ん? 嬢ちゃんじゃねえか。どうしてこんな所に、ってびしょ濡れじゃないか。ほらさっさとギルドの中に入って体を拭け。おい、トラ! お湯の準備!」
「はいにゃ~!」
びしょ濡れになったパンツ丸出しの男性はギルドの前で放置された。
「あ…あの~俺も一応びしょ濡れなんですけど…。扱い酷すぎないっすかね…」
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