将来の夢
ビーの子を食べ始めてからすごく体調がいい。
私のことを殺した生き物そっくりな虫の子供を食べて健康になるなんて腑に落ちないが、贅沢も言ってられない。
シャインとライトたちもあの日以来、風邪を全くひくことがなくなって、昔よりさらに元気に動き回るようになった。
「お姉ちゃんあそぼ!」
「お姉ちゃんあそぼ!」
「う、うん。ちょっと待ってね」
私の体力より二人の体力の方が多いみたいだ。
「おーい! キララ!」
「あ! アイク! こっちこっち!」
黒色の短髪が綺麗な少年が家の前にやって来た。
「いや、ごめん。遅くなった」
黒髪の少年は木剣を左腰に掛け、質が少々よさげな服を着ている。黒いズボンに白っぽいシャツ。皮の胸当てや腰当などを付けており、冒険者のような見た目だった。
「大丈夫。双子がちょっと待ちきれなかったみたいだけど」
「アイクお兄ちゃん遊んで!」
「アイクお兄ちゃん遊んで!」
「よ~し、遊ぼう!」
彼の名前はアイク・ティンガーラ。
少し前に、この村に引っ越してきたみたい。
年齢は私と同じで六歳、元気で明るい性格はまさしく良いお兄ちゃんって感じの子供。
「やっと、友達らしい友達が出来たな……」
この村には私と同い年の子供は一人もいなかった。
その為、友達といえる存在がいなかったのだ。
自由に好きなことを話せたり、困っていることを相談したり、そんな友達がずっとほしかった。
家にいても、何か落ち着かないし……、外に出てもビーが怖い。私はこの世界で独りぼっちだった。
だけど、アイクが来てから何か変わった気がした。
何かを気兼ねなく話せる人がいるってこんなにうれしいことなんだと、私はこの世界に来て初めて知ることが出来たのだ。
「アイクお兄ちゃん今日はどこで遊ぶの?」
シャインはアイクの手を握り、キラキラした瞳を向ける。
「そうだな、川にでも行こうか」
私たちは川に向った。
「綺麗な川だな……」
「私もそう思う……」
シャインとライトが川辺で遊んでいるのを私とアイクで見守る。
「アイクはどこから来たの?」
「俺はルークス王国の王都から来たんだ」
「王都! どうしてこんな糞田舎の村に……」
「わからない……。父さんが死んで母さんが生まれ育ったこの村に来たんだ。ただそれだけ」
「そうなんだ……」
なんかすごく重い話だった。
「でも俺、この村に来てよかった。こんなに自然がいっぱいで綺麗な場所、王都に一か所もなかったから、今、感動しすぎて言葉が上手く出ないんだ……」
「私もここの村の景色だけはどこにも負けない自信あるよ」
「確かに、こんな景色を見ていたらそう思うかもな」
「私も、アイクが来てくれて嬉しかったよ。この村に私と同い年の人いなかったからさ」
「そうなんだ。同い年の子供なら王都にいっぱいいたけどな……。まあ、綺麗な服を着たやつは貴族。逆にボロ雑巾みたいな服を着たやつはだいたい平民。俺はその子たちを見ると心が痛くなった。周りの大人たちは見ないふりをしていたけど、俺はあいつらを助けたいと思ってる。誰も悲しまない世界にする。それが俺の夢なんだ」
――なぜかいきなり夢を語りだしたよこの子。しかも、すごく大きな夢。
「叶えられるといいね」
「ああ、必ず叶えて見せる。キララの夢は何だ? 教えてくれよ」
アイクは小ぎれいな顔を横に向け、黒い眼で私を見た。
「私の夢……」
そう言えば、私の夢って何だろ……。子供なら一つや二つくらいありそうだけど、もう現実を知っているいい大人だったしな……。この世界の子供に生まれ変わったと知ってから、将来の夢とか言っている場合じゃなかったし。
――逆に、前世は私が夢を皆に与えているほうだったし。
その時、私は昔の子供の頃抱いていた夢を思い出した。
「パティシエ……」
「へ? なんて?」
「私の夢はパティシエになること。そう、それが良い! 私の夢はパティシエになって、いっぱいお菓子を食べる! ありがとう、アイク! あなたのおかげで夢を思い出すことが出来たよ!」
私はアイクの手を握り、力強く言った。
「そ、そうか、それは良かった」
アイクは私からちょっと引いて呟く。
「そろそろ暗くなってきたし帰ろう!」
「あ、ああ……。えっと、キララ……。パティシエって何だ?」
私はアイクの質問を無視して、双子を呼ぶ。
「二人とも帰るよ!」
「は~い」
「は~い」
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