濡れた地面は危ない
「よし! 準備完了。とりあえず、村にある一番大きな荷台を借りてきたから。これで20人以上は乗れるでしょ」
大型トラックくらいあるのではないかと思われる荷台を、村長さんに借りてきた。
「確かに大きいですね…、優に20人の子供を乗せられそうです」
ベスパが荷台を旋回しながら見回す。
「そう、万が一20人以上の子供が居た場合、乗せてこられるように大きめの奴を村長さんから借りてきました。本当は木を運んだりするとき用の物らしいけど、ちゃんと乗れるし大丈夫でしょう。木を乗せるものならきっと頑丈だし、車輪も壊れてない…回り具合もさっき確認したから問題はないね」
ただ…乗せる物を隠す帆が無かったので、改造して一応付けてもらった。
子供を乗せていくところなんてあんまり見栄えよくないからね。
今回は、村長さんにいっぱいお世話になった。
子供の為ならと重い腰を上げてくれた村長さんに、私はいっぱいの感謝を伝えたい。
私が小さ目の荷台とレクーを縄で繋いでいる途中…。
「今回は僕とウシ君で街へ行くんですね」
レクーは私に話しかけてきた。
「そう、レクーには私と牛乳を運んでもらう。ウシ君にはまだ確定してないけど、子供たちを運んでもらう。流石にレクーかウシ君だけだときついと考えたから今日は両方とも一緒に街へ行きます」
「まぁ、いいけどさ…あんま速く走るなよ、疲れるから」
ウシ君がいつもみたく気だるそうに答える。
早朝から街に向う準備を整え、既にいつでも出発できる状態だった。
お母さんの作った革製の水筒に水を入れ、荷台に乗せる。
今日は牛乳瓶と牛乳パック、それと牛乳瓶に水を入れた疑似水筒を数十本と、今日まで貯めたお金を荷台に乗せた。
前回よりも格段に重くなっている荷台にも関わらず、レクーは軽々と歩き始める。
レクーに続くよう、大型の荷台に繋がれたウシ君もあとをついてくる。
レクーの速度に負けじとついて来るが、初めから体力を使われても困るので、出来るだけゆっくり歩いて街まで向かう。
梅雨明けまでもう少しの季節になってきたが、まだ多少雨は降る。
地面の状態は完ぺきとは言えないものの、レクーとウシ君ならば余裕で歩けるくらいの軟らかさだ。
普通のバートンやモークルなら足を取られてしまうような柔らかさなのだが、二頭の以上に発達したその肉体から発せられる力の前には関係ない。
「ベスパ、雨の影響で道がふさがってないか見てきてよ。もし道が悪い状態なら通れるようにしてきてくれる」
「了解です。道の状態を見てまいります」
ベスパの使い方にも慣れたものだ…。
私の見えない所にも容易に行けるベスパの機動力は凄まじい。
力は無いが、支援だけなら一級品なのではないだろうか。
「キララ様、出来るだけ速度を落としながら歩いて来てください。車輪が地面にはまっているバートン車があります」
「わかった」
――私の距離からはまだ見えないけど、先の状態が分かるのってほんとに便利だ。
私達は地面に車輪がはまってしまい動けないバートン車の見える位置にまで移動してきた。
「ほんとだ…結構深くはまっちゃってるな。あれ…バートンと荷台の持ち主っぽい人が頑張って引いてるけど微動だにしてない…。仕方ない、私も手つだおう」
私はレクーの引く荷台から降り、レクーとウシ君に繋がっている縄を外す。
「すみませ~ん。大丈夫ですか?」
「あ! すみませんね。地面に車輪がちょっとはまっちゃって。荷台に物を詰め込み過ぎたのか全く動かなくなってしまいました…」
若い商人っぽい見た目をした男性がそこにいた。
明らかに非力そうな体格だが、身長は高い。
眼鏡に短めの茶髪…、髭は生えて無い…。
見た目からすると20歳くらいだろうか…、深緑のローブに身を包み多少の泥が服に付着している。
高そうな靴は、もちろん泥まみれだ。
「私たちも手伝いますね!」
「そうしてもらえると…助かります」
レクーとウシ君に繋がっている縄を男性の荷台へ結び付ける。
もとからいたバートン、レクー、ウシ君の力が合わさると、車輪が一気に回り始め、地面にはまっていた部分から抜けだした。
「いや~、ほんとに助かりましたよ。まさかあんな何も無い所で、はまるとは思ってもみませんでした。ちゃんと地面の状態を確認しながら走行しないとだめですね」
男性は髪を掻きながら、苦笑いを浮かべる。
「梅雨の時期は特に気を付けないとダメだと思いますよ。ここが、もし崖の上だった大変な事態になってました」
私はぐちぐち言いながらレクーとウシ君の縄を男性の荷台から外す。
「本当ですね。崖だったら真っ逆さまに落ちて行ってたでしょう。いや~あはは~。ここが地面でよかったです~」
その人はお茶らけた表情で笑う。
「笑い事じゃないですよ。場合によっては死んでいたかもしれないんですから。もっと危機感をもってですね…」
「あ~いえいえ、別に笑っている訳じゃないんです。商売柄いつでも笑顔でいないといけなくってですね。どんな状況でもまず笑わないといけないんですよ。師匠からもそう教わりましたし、悪い状況こそ笑えありきたりですけど中々難しいんですよ…これが…ってやばい! すみません、僕このあとすぐに用事がありまして、必ずお礼をしますからお先に失礼しますぐに
男性は懐中時計を見た瞬間、いきなり焦りだす。
その人は即座に荷台へ乗り、バートンを走らせて行ってしまった。
「いったい何だったんだろう…」
――さっき見てたの懐中時計だよね…。めっちゃ高いんじゃ…。
「ではキララ様。私はここの道を修繕いたしますので、しばらくお待ちください」
「あ、そうだね。それじゃあお願いね」
「了解です」
私達は他の通行人たちが通れるよう出来るだけ道を開け、端ギリギリまで荷台を寄せる。
空は青く、いい天気だった為『このあと雨は降らないだろう』と思っていたのだが…。
「まさかこんなに降るなんてね…」
先ほどの晴天が嘘かのように、土砂降りになってしまった。
「キララ様、なんとか修繕が終了いたしました。このまま行くと、大雨の影響で他の道も危険な状態になると思われます」
「そうだね、もう中盤まで来ちゃってるから街へ全速力で向かおう」
私はレクーとウシ君に指示を出し、出来るだけ全速力で道を駆け抜けた。
「お? …何だ…あれ、なんかものすごい勢いで走ってきてるんだが…。って、いつもの嬢ちゃんじゃねえか」
門の前に立つ兵隊のオジサンが手を大きく振り『速度を落とせ』と合図している。
「そうだね…。そろそろ速度を落とさないと…」
私は手綱をゆっくりと引いていき、レクーの足を止めていく。
しかし…荷台が速度に乗っていたせいか、なかなか止まれない。
地面が緩いのも原因だろう…。
――車体を揺らすと横転するかもしれない…。無理に止めようとしたらだめだ…。
一回で止めるのではなく、二~三回に分けで荷台の速度を落としていく。
すると速度は落ちていき、荷台が止まり始めた。
ウシ君にも早めに止まれの合図を出し、衝突を防ぐため速度を落としてもらった。
ウシ君の荷台には何も乗っていないため、容易に速度を落としている。
私達はゆっくり歩くようにして、門の前まで進む。
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