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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
綺麗な街だと思っていたのに… ~街の裏側は真っ黒だった偏~
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質素な生活の果てに…

「ここは…」


「私の部屋ですね。ここで寝泊まりしています…」


「は…はぁ…、机と椅子、布以外…何も無いですね…」


「はい、全部売りました…。当時は結構なお金になりましたが…今は黒パンを買うお金もありません」


「それは…大変ですね…」


マザーさんは机を挟み、私の前の椅子に座る。


「私たちは凄く質素な生活をしています。食べる物も買えないので質素になるのは仕方ないのですが…そのお陰で今、生きています。1日の始まりには神に祈り、教会の中を掃除し、少し疲れたらみんなで昼寝をする。起きたらまた神に祈り、教会内の掃除、近くの住民の方が亡くなられたときには祈りを捧げに足を運び、少しの金額を戴いてごくわずかな食材を買う。夜祈りを捧げてから食材を小さく分けて皆でいただく…。このような生活を4年ほど続けています…」


「す…凄いですね…。私には考えられません…」


「初めの頃は何とかして元の生活を取り戻そうと努力しましたが…、どうやら無駄だったようです。このまま同じ努力を続けていたら、いずれ私より先に子供たちが危険に陥ってしまうと悟りました。その時から私達はこの質素な生活を始めたのです。その為…多くの子供たちを引き受けていたのを止めるしかなくなり…、子供の放浪者が一気に増えてしまいました…。小さな子供が今の世の中を生きて行くには幼すぎたのです。4年間で…多くの子供たちが命を落としてしまいました…。裏の墓地には子供たちが大勢埋まっています…。助けてあげられなかった私には重い罪が課せられているのです…」


「でもそれは…、元からいた子供たちを守るために仕方ない判断だと思います…」


「はい…仕方ありませんでした…。ただ…、生まれてきた子供たちには何の罪もない…。自分の生まれてきた意味を知らぬまま…旅立つのも、悲しいじゃありませんか。私は限りなく愛を注いできたつもりです。どれほどの愛を注いでも…、何も変わりはしませんでした…。やはりお金も必要なのですね…。教祖様は…私に『愛を注げばすべての者は幸せになる』と言われました。しかし…どれほどの愛を注いでも…、幸せになるどころかどんどん不幸になっていくような気がして…。この頃から、私は自分の愛に自信が持てなくなりました…。皆は私を慕ってくれますが、私はとっくの昔にマザーなどではなくなっていたのです…」


「そんな話を…なぜ私に…」


「さぁ…なぜでしょう、分かりません。ただ、話を聞いてもらいたかったのかもしれません…。キララさんからは少し大人な雰囲気を感じましたので…、すみません。こんな暗い話を助けていただいた恩人に話すなんて…。本来は私の魂が神の世界へ行くまで溜め込まなければならない感情を、いっぱい吐き出してしまいました…。マザーの役目に背きますが…心の内を吐き出すと、すっきりするのですね」


マザーさんは小さく笑うと、その場に立ち上がった。


「再度お礼を申し上げます。本当にありがとうございました…」


机に頭が付いてしまうのではないかと思うほど頭を下げられる…。


「いえ…私もこの街で起こっている実態を知れてよかったです。話してくれてありがとうございました…」


私も立ち上がり、お辞儀をした。


☆☆☆


私とマザーさんは協会の入り口付近まで移動した。


レイニーはレクーに今までのお詫びを言っていた。


私達に気づいたレイニーは近づいてくる。


「もう帰るのか? 今日はもう日が暮れるから泊まっていけばいいのに」


「いや、帰るよ。これでも結構忙しい身なんだ。私も仕事を手伝わないと家族のみんなに迷惑を掛けちゃうから…」


「そうか、その歳で仕事してんだもんなぁ、すげえよ」


「なにも凄くないよ、ただ運が良かっただけだから」


「キララさん、運が良いのも貴方の力なのですよ。『運が良かっただけ…』と言って自分を卑下する必要はありません…。運は自らの手で勝ち取る祝福なのですから」


「マザーさん…、ありがとうございます。私…もうちょっと頑張ります」


「はい、頑張ってください。何をなさっているかは知りませんが、陰ながら応援しております」


マザーさんは私を優しく包み込むようにして胸の内へ引き寄せた。


マザーさんの服からは洗剤の匂いなんて全くしなかったのだが…、マザーさんの優しい香りと、日の匂いがとても心地よく、お母さんとはまた違った安心感があった。


「神はいつもキララさんを見守っています…。良い行いをしたり、悪事を働いたとしても、神は常に貴方を見守ってくれるのです。だからキララさんは1人ではありませんよ。私も皆にそう伝えています。1人では出来ない行いも2人なら出来る…。数が増えればそれだけ出来る行いも増える。その分幸せは増大し、悲しみは分散する。たとえそれが人でなくても、意志疎通できなくても…キララさんを慕う者が貴方を幸せにしてくれるはずです。私たちが巡り合えたのも何かの縁なのでしょう」


「マザーさんも頑張ってくださいね…。私は、教会を一新させたり出来ません。でもたまには今日みたいにパンを持ってきたりしますから」


「はい、お待ちしております。でも…キララさんはキララさんの思うように生きていただければそれだけで人生はきっと上手く回って行きます」


夕日の明かりに照らされ、マザーさんの白い肌は暖かな光を反射し、ほどよく化粧を乗せたように見える。


その顔は…私から言葉を失わせる。


私が言葉に詰まっていると、マザーさんは誰もが心を許してしまいそうな表情で微笑む。


私はマザーさんにもう一度抱き着き、名残惜しさを胸に秘める。


ゆっくりと離れたあと、私も今日一番の笑顔をマザーさんに見せていた。


そのまま言葉を交わさず…私は荷台に乗り込み、教会をあとにした。


「マザー、ほんとに何もしないのかよ…。このままだとここの教会が無くなっちまうぞ。マザーは悔しくないのかよ…」


「為せば成る…なさねばならぬ何事も…。なるほど、神はまだ我らを見捨てていなかったようですね」


「何言ってるんだよ…マザー。俺は小さいガキのところに行ってパン粥を食わせてくるよ」


「私も行きます。レイニーは、火の扱いが苦手ですからね」

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


もし少しでも、面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、差支えなければブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。


毎日更新できるように頑張っていきます。


よろしければ、他の作品も読んでいただけると嬉しいです。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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