神が作った人形…その名はマザー
「まだ日は出てるのに…ここら辺はなんか暗いんだね…」
「まぁ、ここの通りは気持ちの沈んでいるような奴しかいないから、そう感じるのかもな。ほら、見えたぞ。あそこが俺の捨てられてた教会だ」
レイニーは錆びだらけの柵に囲まれた、建物を指さした。
教会と言われれば…分からなくもないが、見かけは完全にお化け屋敷…。
教会の壁は余りにも汚い…。
昔は白かったんだろう…。今は苔にカビ…さらには大きなヒビがいくつも入っており、いつ崩れ落ちてもおかしくない状態だった。
「あれが、教会…」
――ベスパ…あれが教会なの?
「はい、レイニーさんの示している教会は間違いなくあの建物になります」
「その言い方だと他にも教会はあるの?」
「そうですね…あそこにあるのは教会というより、孤児院と言ったほうが近いと思います。どうやらもっと新しい教会が街の領主邸近くに建造されたようです。そこでは子供たちの保護を行っておらず、聖典式のような儀式ものだけを行っているみたいですよ」
――いったいどうして…。
「そこまでは私にも分かりません」
ベスパは珍しく頭を横に振る。
「ねえ、レイニー。ここ以外にも教会があるのを知ってる?」
「ああ、知ってるよ。ドリミア教会だろ、あいつらが俺達の教会を乗っ取ったんだ…」
レイニーは悔しそうに両手を握りしめ、膝に押し当てている…。
「乗っ取った? それってどういう…」
「数年前…街にはここの教会しかなかった…。だから街の皆はここの教会に来て聖典式を受けてたんだ…。それ以外にも生誕祭や行事があると、この教会に来て拝んでいった…。前の領主の時はもっといっぱいお金を回してくれて子供たちを保護してたんだ。だけど、ドリミア教会が来てから…何もかも変わった。街の連中は何も変わってないような風にしているが、俺たち子どもにとっては全てが変わっちまったんだ…」
レイニーは相当悔しいのか、歯ぐきから血が出てしまうのではないかと思うほど、噛み締めている…。
「この街…領主が変わってたんだ。しかも、教会まで増えてたなんて…。それって何年くらい前?」
「4年くらい前かな…」
――4年前か…。確か私が初めて街に来たのは…5年前…。昔と何も変わっていないように見えて、本当は凄く変わってたんだ…。
少し重い話をしている内に、私達は教会の目の前に到着した。
荷台を錆びれた柵の近くへ寄せる。
「よし…、それじゃあレイニー、子供たちを呼んできて。皆にパンを配っていくから」
「ああ、分かった」
レイニーは駆け足で教会の入り口まで走っていく。
「さてと…。どれくらい深刻なのかな…ん?」
どこからか足音が聞こえてくる…。1つ…いやどう考えても1つじゃない。
教会の入り口から、ところどころ破れ、色が変色し黒ずんだぼろい服を着た子供たちが一気に溢れてきた。
「あの、キララさんですか!」
私のもとへ1番に到着した少年がそう言ってきたので…。私は答える。
「そうだよ。私がキララ、こんばんわ」
私は、ここら一帯の暗闇を吹き飛ばすほどの笑顔で挨拶する。太陽顔負けの笑顔だと自負している。笑顔だけは誰にも負けない、そんな自信が今の私には合った。
「こんばんは!!」
だが…少年も私に負けず劣らず良い笑顔だ。
「挨拶できるんだ、偉いね!」
私はその少年の頭を撫でたあと、箱に入っている黒パンを手に取って渡す。
「はい、美味しい黒パンだよ。小さく千切って少しずつ食べるようにしてね」
「はい! ありがとうございます!」
黒パンを1つ受け取ると、少年は教会の中へ走って行った。
その少年のあとを追うように、次々と私に挨拶してくる少年少女たち…。
私は1人1人に完璧な笑顔を振りまき、パンを1つずつ手渡ししていく。子供達も皆いい笑顔をする…。
――この状況…アイドル時代の握手会を思い出すな…。『たとえどんなに相手が疲れていようが、私達はお構いなしで笑顔を振りまく…それがアイドル。キララの笑顔で皆を幸せにしなさい、貴方なら出来るわ』って先輩に言われたっけ…、懐かしい…。でも確かに…笑顔は笑顔を生む。それはどの世界でも一緒だと思う。
私は妥協せず常に100…いや、120%の笑顔を維持し続けた。体は疲れているはずなのに…。あ…そうか私は無意識に子供達から笑顔のエネルギーを貰っていたのか…。
「黒パン、ありがとうございます! 大切に食べますね!」
――こう見ると…皆、大丈夫そうに見えるけどな…。
一通り配り終えたころ、レイニーは1人の黒服を着た女性を連れてきた。
「キララ、この人が俺の母さん兼、皆の母さんでもある、この教会ただ1人のマザーだ。マザーって言うのは名前じゃなくてそう言う役職なんだって。名前は教えてくれないから、皆マザーって呼ぶんだ」
――凄い綺麗な人…、それに前世の私なんかより何倍もかわいい…。
身長は165㎝くらい…女性なのに結構高い。
首元には簡素で青い雫型の首飾り…。ガラス製だろうか…。
それにしても…凄い綺麗、この人がつけているからそう見えるのかも…。
髪は光沢のある黒い布で隠されており見えない。
眉毛が黒いので多分…髪も黒いのだろう。
狭すぎず広すぎない丁度いいおでこは滑らかで、私の肌よりも白かった…。
二重の切れ長で奥行きのある目…。まつ毛が長いため元々大きな目はさらに大きく見える。
鼻は高く、顎はシュッとしている…凄い小顔だ…。
顔全体に無駄な部分は1つもなく、神様に作られた人形のような人だった…。
人間が普通に生れ落ちて…この顔だったら、奇跡だと思う。
「初めまして、あなたがキララさんですね」
「は…はい、初めまして。キララ・マンダリニアと言います」
「どうやら、息子のレイニーがご迷惑をかけたようで、申し訳ありません…」
マザーは深々と頭を下げる。
「いえいえ…私は別に…何もしてないですよ…」
「レイニーの盗犯を止めていただきどうもありがとうございます…。この子の罪が少しでも軽くなりました」
「え…レイニー話したの?」
「ああ…マザーには隠し事できないよ…」
「そうなんだ…」
「それにこれほどの食料まで…。こんなに戴いても…我々には対価を支払えるだけの資金はありません…。せめてこの首飾りだけでも…」
マザーは両手を首もとへ持っていく。
「いえいえいえ、この黒パンは私のじゃなくて、オリーザさんって言うパン職人さんが『持って行ってくれ』と言ってたので持ってきただけです。なのでお金なんていりません!」
「ホントによろしいのでしょうか…」
「はい。逆にいらないです!」
「そう仰るのなら…善意に甘えさせていただきます…」
マザーは再度深々と頭を下げ、感謝の意を見せる。
「えっと、マザーさんって呼べばいいんですかね?」
「ええ、好きなようにお呼び下さい」
「教会にいた子供たち…さっき少し触れあいましたけど…、そこまで暗い表情をしてませんでした…。私はてっきり、もう死にそうなくらい辛い思いをしているのかと思っていました。えっと…ここの生活はどういう感じなんですか?」
「立ち話も何ですので、どうぞこちらに…」
「は…はい…」
――仕草1つ1つに心遣いが感じられる…。高級旅館の女将と対面しているような…すごい安心感…。プロだ…。
私はマザーさんに連れられ、いつ壊れてもおかしくないと思わせる入口を潜る。
「中は…そこまで汚れていないんですね」
私の住んでいる村にも教会はある。そこと遜色のないほど中は綺麗だった。
「そうですね…病気に掛かっても病院に行くお金もありませんし、なるべく清潔な環境で過ごした方が心も軽くなりますから。掃除だけは皆で協力して行っています」
「そうなんですね…」
――だから子供たちもそこまで廃れてなかったんだ…。
「こちらです…」
マザーさんは腐りかけの扉を開ける。
私はどうやら、教会の一室に連れてこられたようだ。
中には机と椅子…、ぼろぼろの布が床の一部に引いてあるだけの部屋…。結構広いのに…寂しい。
私はマザーさんに促され壊れかかった椅子に座る。
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