孤児の現状…
「こんばんわ…えっと、オリーザさんは居ますか?」
私は店員さんに話しかける。
――7日前はいなかったのに…。オリーザさんも人を雇わないといけないくらい、忙しいんだろうな…。
「あ、ごめんなさい。今日はもう閉店したんです。えっと…オリーザさんは厨房で仕込みの最中ですけど、凄く忙しいのでまた…」
ドタドタドタ!!
店員さんの話が終わる前に…誰かが走ってくる。
「やっと来たか、待ってたぞ!」
「え…、オリーザさんのお知り合いですか?」
店員さんは不思議そうな顔でオリーザさんに質問する。
「ああ、知り合いも何も。この嬢ちゃんが牛乳を持って来てくれてるんだよ」
「え! そうだったんですか。牛乳って幻の白パンを作る食材じゃないですか。そんな凄い食材をこんなに可愛い女の子が運んでいたなんて…」
――幻の白パン…。何それ、私も食べたいんだけど…。
「オリーザさん『幻の白パン』とは何ですか? 私そんなパン知らないんですけど…」
「え! 幻の白パン知らないんですか。1日限定20個の超激レア白パンですよ。私も一度だけ食べたんですけど、感動しすぎて涙が止まりませんでした」
店員さんは私の目の前にまで迫ってきて、瞳を輝かせている。
「は…はぁ…。そんなに美味しい白パンがあるんですね…」
私は少し引いてしまい、二歩後ろに下がる…。
「ところで、牛乳は持って来てくれたのか? あれが無きゃ、パン屋の仕事をやって行けなくなっちまったよ」
「ちゃんと持ってきましたよ、確認をお願いします。荷台に置いてありますから。ついて来てください」
「よし、分かった」
私はオリーザさんを荷台へ案内する。
「おい、いつまで待たせるんだよ! ………って、オリーザさん…何で…。どうしてガキと…」
「ん? お前レイニーじゃねえか、何でグルグル巻きにされてるんだ?」
「オリーザさんはこの人を知っているんですか?」
「ああ、知ってる。こいつがもっと小さいときから知ってるぞ。あまりにも腹を空かせてたんでな、試行錯誤している最中だったパン達を与えてたんだ。そしたらすっげー喜んで持って行くからよ。俺もつい張りきって作っちまった日は『レイニーが持って行くから大丈夫、逆にもっと作ってやるか!』と思えるから、何度も何度も作り続けられたんだ。それこそ、もうあきらめようと思ってた8年ほど前か…。最近までよくうちの余ったパンを与えてたんだが…、最近はめっきり余らなくなっちまってな…。それに10日前から来なくなっちまってよ…」
「そんな! 俺はオリーザさんにめちゃくちゃお世話になってきたんです。そのお陰でここまで成長できました。あの時パンを貰ってなかったら俺はきっと飢え死にしてましたよ。せっかく繁盛してしてきたオリーザさんのお店に僕達孤児が足かせになってしまうと思って…最近来てませんでした…。これ以上オリーザさんに迷惑を掛けないように何とかして働こうと思ったんですけど…」
「まだ13歳だからな…働かせてやれないよな、どこの店も…」
「はい…おっしゃる通りです…」
「13歳だと働かせてもらえないんですか? そこそこいい働きしてくれると思うんですけど…」
「ああ…昔はそういう時期もあったが…最近ではめっきり子供を雇う店は無くなっちまったな。この社会で生きて行くにはまだ幼すぎる年齢なんだ…。金欲しさで働いてボロボロになって死んでいくような子供が多かったんだよ。そんな事態になったら『店の評判が下がる』と言うもんだから、多くの店は子供を雇うのを止めたらしい」
「はぁ…そんなに厳しいんですか、この街の仕事…」
「そうだな…俺みたいな自営業や露店をやっている奴らはそこまできついと感じてないかもしれないが…。大きな鍛冶屋だったり、菓子屋、王都から出てきた連鎖店(チェーン店)、騎士団なんかは相当領主の息が掛かって、毎日ブラック労働らしい。子供たちも自分たちで売り物を作って売れれば、金は貰える。生きて行くうえで多少の足しになるんだろうが…普通の生活をするのは厳しいだろうな」
「売り物を作るだなんて…、そんな気力…今の孤児にはありませんよ…。今日を生きて行くだけで精一杯なんですから…」
「嬢ちゃん、とりあえずレイニーの縄をほどいてやってくれ」
「あ…はい、分かりました」
私はオリーザさんに言われた通り、レイニーの縄をほどいた。
「はぁ…きつかった…」
「それで、レイニー。どうして嬢ちゃんに捕まってたんだ?」
「え…えっと、それは…」
「レイニーはお婆さんのバッグを盗んでいたんです。私は、彼を拘束して騎士団に持って行ったんですけど、受け取って貰えず…。そのままオリーザさんのパン屋さんへ牛乳を運びに来ていました」
「お前…泥棒なんてしてたのか?」
「い、いや…その、働き口を探してたんですけど…どこも採用してくれなくて…仕方なく」
「お前…もし相手が街へ観光しにきた貴族だったら殺されてたぞ。盗むなら食品にしておけ。金よりも食品の方が重要だろ」
――いや…盗む物の問題じゃないと思いますけど…。
「ごめんなさい…初めは俺も…食品だけを盗んでいました。でも…それだけじゃ賄いきれなくて…」
「今、何人孤児はいるんだ?」
「教会に30人…露道で寝てるのが…14人…です。もしかしたら知らない所でもっといるかもしれませんけど…」
レイニーさんは正座になり、オリーザさんの質問に答える…。
私の時とはまったく違う態度だ…。
「その服はどうした、買えないだろ普通。スーツなんて一着、最低でも金貨1枚からだろ…」
「はい…この服も酔っ払いの若い人がよい潰れている時にはぎ取りました…。服の大きさは丁度合ったので、もしかしたら大人っぽく見えると思ったんですけど…」
「まぁ、どっから見ても子供だよな…。とりあえず店に入りな」
「え…でも…」
「いいから、入れ。腹減ってるだろ、今日は嬢ちゃんが来るから多めに残しておいたんだよ」
「わ…分かりました…」
私達はクーラーボックスを持ってお店まで戻った。
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