家族の話で嘘を付くほど落ちぶれちゃいない…
――もしかして…年齢を偽ってる…。それとなく大人しか知らない質問をしてみようか…。
「ねえ、ほんとに18歳なの?」
「あ? 俺を疑ってるのか…、どっからどう見たって18歳に見えるだろ。服も髪もばっちりと決まってるじゃねえか」
「なら、エールの味をあなたは知ってる?」
「エール? あ~、エールね、あれは確か…滅茶苦茶辛かった気がする。それと色が黄色で…泡が滅茶苦茶邪魔で食べづらかった。って、何でそんな訳分からない質問をするんだよ」
――所々間違ってそうな点があるな…。私もエールを飲んだ覚えは無いけど、多分ビールと似ている味だと思うから、この人の発言は間違っている。エールってそもそも食べ物じゃないし。シグマさんも『お酒だ』と言ってドワーフさんに出してたから、エールはお酒なのだろう。この世界での飲酒年齢は分からないけど、子供にお酒を飲ませる国があったとしたら相当狂ってるから、多分この街では飲ませてない。飲酒年齢は成人になった時だと思うから…15歳か…。つまり…この人は15歳以下だと予想する…。
「ねえ、あなた…18歳じゃないでしょ」
「な! だから何度も言ってるだろ、俺は18歳だ。そう言わねえと雇ってもらえねえだろ」
「それに15歳の成人にもなってないんじゃない?」
「な…、何でそう思うんだよ」
「なんか、あなたの発言がおかしいと思って。エールって薬草なのに、どうして食べ物って言ったの。言い間違えた?」
「あ、ああ! そうだ、そうだ。エールって薬草だったな、最近全く使ってなかったから忘れてたぜ。いや~思い出せてよかった~」
――ああ…完全に嘘つてるよ…。でも何で…18歳なんて嘘を…。ああ仕事を探すためか…、でも何で…。15歳未満からでも働ける場所くらいあるでしょうに…。
「まぁいいや。ねえ、18歳以上じゃないとどうして働かせてもらえないの? 体力の問題か何か」
「あ? 知らねえよそんなの。逆にどうしてだろうな…。ん~多分、囲い込むためなんじゃねえか」
「囲い込む…?」
「だってよ、18から20ってもう結婚して子供とかいるだろ。そいつらに働かせればバンバン金稼いでくれるじゃねえか。どんなに酷い対応でもな…。しかもこのご時世だ。一回でも仕事を止めさせられたら、次の仕事を見つけられるかどうかすら怪しい…。優秀じゃない子持ちの人間を最低賃金で働かせて死ぬまで労働させる…。それがこの街の社会なんだよ」
――うわ…悪質…。黒に黒それはもう…闇じゃん…。
「それなのに…あなたはこの街で働きたいの?」
「そりゃあ、この街には家族がいるからな…。俺が稼がなきゃ家族は死んじまう。盗みでもしねえと金は稼げねえ。仕方ねえんだよ、犯罪に手を染めてでも金を稼がなきゃこの街では生きていけねえんだ」
「ねえ、家族ってどこにいるの…。ほんとにいるの? それも嘘だったりしない。私、そういう嘘が一番嫌いなんだけど…」
「は! ふざけるなよ、家族のいるいないで嘘を付くほど俺は落ちぶれちゃいねえ」
「じゃあ、家族の話以外で嘘を付いている部分があるんだね」
「な…お前、俺をはめやがったのか!」
「いや…はめたというか最初からなんか違和感があったというか…。18歳ぽくないなと思って」
「つ! じゃあ…何歳に見えるんだよ」
「ん~、多分私よりは上行ってるよね…。その身長だと…13から14歳くらいなんじゃない。エールの味を知らなかったから15歳の成人にはなていない。どう、あってる?」
「はぁ…、やっぱりそう見えるのか…。そうだよ、13だよ…」
「そうなんだ、若いね」
「お前はいくつだよ…」
「10歳だけど?」
「はぁ? 10歳って…まだガキじゃねえか…」
「いや…あなたも十分子供でしょ。その年齢なら学園とか、教育を受ける機関に行く年齢じゃないの?」
「あのなぁ…お前がどこのお嬢様か知らねえが…、そんな所に行けるのはホントに金のあるやつか、貴族、滅茶苦茶優秀な奴らしかいけねえんだよ。俺みたいな社会のごみは、到底行ける訳ないんだ。まぁ、俺は行かなくてもいい…だが家族だけには少しでもいい思いをしてもらいたい…」
「家族って、妹それとも弟、お父さん、お母さん?」
「どっちかって言ったら、妹と弟だな…両親はもういない…というか元からいない。俺は孤児だからな…。近くの教会に捨てられてたんだよ…。この街じゃよくある話だ…」
――捨て子…孤児…そういう事態が起こってしまってるんだ。どこの世界も一緒か…せっかく生を受けたのに…。子供を捨てないといけない事情があるのかも知れないけど…。子供は宝ってよく言うのに…。
「弟と妹たちも孤児の子たちだよね…その言い分からするに…」
「ああ…そうだ、教会で構えられなくなったやつらが数十人…、教会も社会のあおりを受けて全く金が入ってこないらしい…。このままじゃ皆、餓死しちまう…。だから俺は何としてでも金を稼がなくちゃならない。こんな所でグルグル巻きにされてる場合じゃないんだよ。ほら…さっさと解きやがれ!」
「今からパン屋さんに行くんだけどさ…来る?」
私は彼に提案した。別に家族のために頑張っている彼を応援したくなったからではない。どうせパンが余っているだろうから、お裾分けしたくなっただけだ。たとえ家族のためであっても泥棒をするような人を信用するわけにはいかない。
「は? 何言ってやがる…」
「だって、お腹空いてるでしょ。どうせ盗んだ物をお金に換えて食品を買う。それを全部教会に持って行って弟達の食事にあててるだろうし…」
「嘘だとは思わねえのかよ。俺が嘘を付いて逃げ出そうとしてるだけかもしれないんだぞ」
「うん…思わない。というかそうであってほしい…。犯罪はしてはいけないけど、正当な目的があるなら、…まだ許せる。それがもし『ただ遊ぶ金が欲しいから』なんて言ってたら拘束したまま川に突き落としてた」
「おいおい…。それじゃあ…お前が犯罪者になるところだったじゃねえか…」
「そうならなくてよかったよ。それで、パン屋に行くの行かないの?」
「行くよ…。俺はもう2日も何も食べてないんだ…腹が減って死にそうだよ。減りすぎて腹もならなくなっちまった」
「そう。ならお腹いっぱい食べられるといいね」
「は?」
私は、その少年を乗せてオリーザさんのパン屋さんまで向かう。
「よし…ついた。ちょっと待っててすぐ話をしてくるから」
「って、おい! 解けよ、トイレに行けないだろうが」
「我慢してて…絶対に漏らしたら駄目だよ」
私は鋭い眼力で少年を見る。
それはまさしく蛇のような鋭い目…。
少年は睨まれたネズミのように固まる。
「あ…ああ、分かった…。――ヤバイ…ちょっとちびったかも…」
私は人数の減ったパン屋さんに入る。
まだお店は明るいが中にお客さんはいないみたいだ。
かわりに店員さんらしき人物がいた。
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