薬草は薬…それとも漢方…
「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」
「え? あ、いやその…ミグルムを…」
人間観察をしている時にいきなり話しかけられ、私は動揺してしまう。
「ミグルムですね、こちらです」
――この店員さん…どこから出てきたんだ…。
若い女性の店員さんで綺麗な服装というよりかは作業着のような服を着ている。
「こちらにございます」
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして」
店員さんはミグルムの陳列されている場所に案内してくれた。
「あの…ここって何屋さんなんですか?」
「ここですか? ここは薬草屋ですよ。ミグルムも薬草の一種ですし」
――なるほど…薬草屋さんね。薬とはまた違うのかな…。地球にも漢方と薬があったし…。こっちの世界では魔法で病気を治してた…。魔法が薬なのだとしたら…薬草が漢方なのかな…。そもそも区別があるのかも分からないし…。
「ミグルムって薬なんですか?」
「いえ、薬ではなく気付け草ですね。眠気に効くんですよ。最近では食事にも使われるようです。舌に伝わる刺激が味を引き締めると料理人さんが言ってました」
「へ~、そうなんですね…。えっと値段が書いてないんですけど。いくらなんですか?」
「それはですね、毎回値段が変わってしまうのではっきりとした値段が付けられないんですよ。今日はこの袋1つで銀貨2枚ってところでしょうか」
店員さんが見せてきた袋は、お母さんが作り出せるお守りほどの小さな袋と同じくらい…。
――ん~、あれで銀貨2枚か…。胡椒なんて料理に使ったらすぐ無くなっちゃいそうだしな…。
「ミグルムは毎日値段が変わって行くんですよね?」
「はい、昨日は銀貨3枚その前は銀貨1枚でした」
「何でそんなにミグルムの値段は変わってしまうんですか?」
「それはですね…安定して取れないからです…。ここにある物は全部そうなんですけど、冒険者さん達が依頼として採取した物と私自ら採取をおこなった物で確実に見つけられる保証が無いんです。量が取れた時は安くなりますし、少なかった時は値段が上がってしまうんです。薬草は鮮度が命ですから」
「なるほど…新鮮な薬草じゃないとダメなんですね…。薬草って保存できないんですか?」
「保存は難しいですね。例外として薬草はポーションにして保存できるのですが…。ポーションにしてしまうとその…値段が…」
店員さんは目を横に逸らす。
私も釣られて横に逸らすと…お店の奥の壁に陳列されていたのは、数十本のガラス瓶。形を言うなれば瓶のコカ・コーラのような形をしている。
大きさも少し小さいくらいだ。
「埃が被っていてよく見えないんですけど…。あの…金貨30枚…って書いてありますか?」
「はい…金貨30枚です」
「凄い効果があるんですか? 切られた腕が生えるとか…」
「そう言った効果を持つポーションも世の中にはありますが王都の方にしかありません。しかも値段は10倍違いますね」
「金貨300枚…凄い高いですね」
「そうですね…錬金術師にしか作れませんし、冒険者さん達にとっては命綱ですからね。自分の命をお金で買えるなら、買わせてほしいという人が多いんですよ。そこまで危険な所に行かなくても良いと思うんですけどね…。冒険者という職業…私にはよく分かりません」
「ははは…何となく分かります…」
私が店員さんと話をしていると、さっきの冒険者の2人組と板前っぽいおじさんは私達の方に歩いてきた。
「花さん、今日はこれにしますわ」
おじさんが持ってきたのはミグルムだった。
「はーい、5袋ですね。金貨1枚になります」
「はいよ、金貨1枚ね」
おじさんは胸元から金貨1枚を取り出し、店員さんに手渡す。
「ありがとうございましたー」
オジサンはミグルムの袋を5つ持ってお店を出て行った。
「この薬草をお願いします」
「はい、お預かりします。4枚ですので金貨2枚ですね」
「金貨2枚です」
冒険者さんも金貨2枚を小袋から取り出し、店員さんに手渡した。
「はい、確かに」
店員さんは薬草を茶色い紙で包み、冒険者さんに渡す。
「ありがとうございます」
冒険者さんは薬草を受け取ると胸の内側にしまい、そのままお店を出て行った。
――お店の中には私1人…何か買った方がいいのかな…。どうしよう…とりあえずミグルムを1袋買って退散しよう。
私はミグルムの入った小袋を手に取り、銀貨2枚を店員さんに手渡した。
「はい、確かに銀貨2枚ですね…」
「えっと…ミグルムが無くなった時にまた来るかもしれません」
「はい、またのお越しをお待ちしております」
私は薬草屋さんから出ると、道路に人だまりができていた。
道の端、人通りの少ない場所に人が集まっていたのだ。
「ん…なんだ? あんな所に人だまりが出来るようなお店あったかな…」
「動け! 動けって! おい! 何で動かねえんだよ! ちょ、おいって!」
――ん…なんか聞いた覚えがあるな…この声。確かこっちの方向にはレクーがいたはず…。
私は人だまりを何とかか掻い潜り…声のする方向へ向かう。
人だまりを抜けると、そこにはレクーにまたがる青年の姿が…。
――あぁ…なんか聞いた覚えのある声だと思ったら…、7日前に突き飛ばした人だ。
「あ、キララさん。やっと帰ってきたんですね。どうしましょう…この人。蹴り飛ばした方がいいですか?」
「っておい! 何で俺を蹴り飛ばそうとするんだよ。おかしいだろ!」
「もういい加減に降りてくださいよ、僕は忙しいんです。貴方に従っている暇なんて無いんですよ」
――あれ…あの人レクーと喋れてる…。
「ベスパ、あの人は?」
「それがですね…キララ様がお店に入られてすぐに…」
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