胡椒
「エールお待ち。それとこっちが今回の修理代金貨4枚だ」
木製ジョッキになみなみと入った黄色い飲み物…泡が白くて…それはもう見るからにビールだ。
――ビールに似た飲み物があるんだ…。ビールの味するのかな…。製法は同じなのかな…。まだ私は飲めないから分からないけど。でも村でエールを飲んでいる人を私は知らない。料金が高いか…保存方法に問題があるか。エール瓶は全く外でも見なかったから、エール樽に入っているのだろう。つまりエール缶もないわけか…。
「エール1杯はギルドのおごりだ。仕事中に呼んで悪かったな」
「ほんとだ…全く。俺は大工専門じゃねえんだよ。昔の馴染みだから手伝ってやってるが、お前じゃなければ蹴り飛ばしてる」
「ははは…」
「だがまぁ、エールは普通に美味いな」
ドワーフさんは一気に木製ジョッキを空にしてカウンターに置くとその場を立ち去って行った。
「あのドワーフさんとはよく会うんですか?」
「ああ、よく会うな。俺がすぐ手をあげちまうせいで、ギルド内外を何度壊したか分からねえ。その度にあの髭ずらドワーフに頼んでるのさ。何だかんだ言いながらいつも来てくれるいい奴だ。って…やばいやばい、それじゃあトラ店じまいはよろしく頼んだぞ」
「はいにゃ~、行ってらっしゃ~い」
シグマさんはギルドをものすごい勢いで走り去っていった。
「でも…お昼時なのに。こんなに人がいないなんて…大丈夫なんですか?」
「昼はいつもこんなもんなのにゃ~、忙しいのは夜にゃ~、とんでもないくらい冒険者が帰ってくるからいつも天手古舞なのにゃ。でも今日はシグマさんがいにゃいからお休みなのにゃ」
「そうなんですか…。トラスさんはどうしてここで働いてるんですか?」
「話すと長いんだけどにゃ、色々あってここにお世話になってるのにゃ」
――どうやらトラスさんにも色々あるらしい…。可愛らしい顔から壮絶な過去を思い出している雰囲気が溢れ出ている。
「えっと、それじゃあ…私も行こうと思います。バートンを待たせていますから」
「分かったにゃ、ばいにゃ~」
私はギルドから出て…いったい何の時間だったのかと思い返す。
「まぁ、胡椒がこの世界にもあることが分かったから良いか…」
私はレクーのいる厩舎へ戻り、今の時間を時計台で確認する。
「まだ、午後2時くらいか…これからどうしよかな。胡椒に似た調味料のミグルムでも調べに行こうか。『それほど高くない』と言ってたし」
「私の出番ですね!」
ベスパがいきなり話しかけてきた。
「え…よく分かったね」
「もう既に、ミグルムの売っている位置は把握積みです。すぐに案内できますよ」
ベスパは私がお願いするよりも早く行動を起こし、胡椒を見つけていたらしい。こういうところに頭を使ってくれるとありがたい。
「それじゃあ、お願い」
「了解しました」
私は手袋をはめてレクーと荷台を縄で繋ぐ。
その後、手綱を握って荷台に飛び乗り前座席に座る。
ベスパはレクーを先導し、私をミグルムの売っているお店に案内した。
「えっと…このお店にミグルムは売ってるの…?」
「はい、既に確認済みです」
私の目の前には、光沢のある木壁。何度も漆を塗ったように綺麗な扉。
私なんかが入るのは、烏滸がましいというか…何と言うか雰囲気が怖い…。
「私こんなダサい格好で入ってもいいお店なの…」
その時に私が来ていた服は誰が見ても田舎匂ただよう服装だった。
それだけで私はお店に入るのを戸惑ってしまう。
「ウトサが売っているお店よりは入りやすそうだけど…でも気が引けるな…」
私はとりあえず服に付いていそうな砂や埃を店の外で一通りはたき落とす。
「なんか言わられたらいやだし、まぁ…悪口言ってきたら二度とこないけど」
私は覚悟を決めて、扉に手を翳す。
木製で綺麗な年輪模様が浮かんでいる。
重そうだと思っていたが、それほどでもなく私でも押し開けれた。
扉を開けた瞬間、外の世界とはまるで違う香りでいっぱいになった。
先ほど嗅いだ胡椒の香り以外にもどこか懐かしい香りがする。
「こ…こんにちは…」
私はお店の中に入ると、それほど人はいなかったがチラホラと人影は見える。
「あの恰好からするに…料理人かな…他には冒険者さんぽい人もいる…」
腰にエプロンのような掛け布をしており、頭には髪を落とさないように布を被せて後頭部で縛っている。
その背中は昔よく見た板前の背中だった。
もう一方は服装と武器を見れば一目瞭然で冒険者さんだろう。若そうな男性が1人と女性が1人。
多分ペアのパーティーなんだろう。
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