懐かしい香り
少し歩いて行くと、大きな掲示板があり、いくつもの紙が貼られている。
「魔物退治に…、土石の除去…、野菜収穫の手伝いに…、商人の護衛…、子守…」
それはもう多種多様な依頼が張り付けられていた。
報酬もバラバラで、とんでもない金額の依頼もあれば安いのもある。
掲示板の一番上に茶黒く古びた紙があった。
他の依頼は全て茶色の新しい紙だった。
どう考えても、茶黒い紙は年季が違う。
書かれていたのは『ドラゴンの駆除、またドラゴンの卵の駆除』と薄れた字で記載されている。
報酬は虹硬貨1枚…。
ーー何ですか虹硬貨って、私全く知らないんですけど。お金って金貨が1番高い金額じゃないの…。ていうかこの世界にドラゴン何ているの…。ベスパじゃ一瞬で負けそう。
いつの依頼なのか目を凝らしてよく見ると…100年前…。
「100年前の依頼がどうしてここに…」
「そりゃあ、俺の曽爺がこのギルドを作ったからな…」
「どわ! シグマさん…いつの間に」
私の隣にシグマさんは、いきなり現れた。
「呼んでも来ないから、こっちまで来ただけだが…」
「す…すみません…。それに曽爺が作ったって…」
「ああ、ちょうど100年くらい前だ。あの紙は100年間ずっとあそこに張り付けられているんだよ。ここの壁だけは昔のままだ、他は全部ボロくなっちまって改装したんだ」
「あの依頼はまだ受け付けているんですか?」
「なんだ、嬢ちゃん。あの依頼を受けたいのか?」
「いえいえ、そうじゃなくって、100年も前だったら、もう依頼が無効になっちゃうんじゃないかと思って…」
「いや…まだ受け付けている…。あの依頼は王国が発行したものだからな」
「王国…。王国ってルクス王国ですか?」
「それ以外にどこがあるんだよ。100年ほど前に王国を襲ったドラゴンを討伐しろというのがあの依頼の概要だ」
「でも…100年も生きるんですか、ドラゴンって」
「ああ、あいつらはスゲー長生きだ。エルフよりも長生きなんじゃねえか。って…そんな話はまた今度だ、ほらさっさと食わねえと料理が冷めちまうだろ」
「は、はい、すみません!」
私はカウンター席まで走りる。
カウンター席には魚の素揚げに、黒パン、野菜サラダ、きのこスープといった具合の料理が並んでいた。
どこか懐かしい香りを感じる。
私はすぐさま出されている魚の素上げに齧り付く。
「ん!…胡椒…だ、胡椒の味がする!」
私の感じた香りは胡椒だったのだ。
「胡椒? ピリッとする味はミグルムという香辛料だ、この味の良さが分かるなんて子供なのに珍しいな」
――ヤバ…。つい感動して…。
「あ、初めて食べたんですけど…味があって美味しく感じます…。あの…ミグルムって高くないんですか?」
私はすぐさまシグマさんに話を振り、発言を誤魔化す。
「そうだな、ミグルムは街の近くでも手に入りやすいから価格は低いんだ。ソルトとウトサに比べたらだけどな。だから料理に使えるんだ」
「そうなんですね…、あの~シグマさん。ちょっと聞きたい話があってギルドにきたんですけど、聞いてもらってもいいですか?」
私は牛乳の価格についてと従業員の確認をしたかったのだ。
「あ~すまん。今から女房達と食事に行かなきゃらなんのでな…あの扉が治ったらもうギルドを出るんだ。明日ならいいんだが…」
「あ…そうですか。分かりました、えっと…明日じゃなくてまた7日後に来ますね…」
「7日後なら大丈夫なはずだ。すまんな、最近家に全く帰ってなくて女房が悪魔の形相で怒りだすんだ…」
「はは…」
――この人よりも怖い顏の人いるのかな…。
「おい、シグマ…終わったぞ」
シグマさんに話しかけてきたのはドワーフのお爺さん? …お爺さんなのか、おじさんなのか分からない。ただ、髭が凄く長い。
身長も私と同じ140センチくらいだ。人の男性にしては低い。ドワーフと言われていたから標準サイズなんだろうけど…、私はまだこのおじさんドワーフしか見てないから分からない。
「ああ、毎回すまないな。いつも通り仕事が速くて助かる。そうだ、なんか飲んでくか? トラはギルドに残って素材の勘定をしてくれるから、居残って飲んでってもいいぜ。あんたは酒癖もいいしな」
「じゃあ…エールを一杯、それと今回の仕事料2か所で金貨4枚だ」
「ああ、すぐ用意する」
私は後ろを振り向くと…既に仕事が終わっており、初めて見たときよりも格段に綺麗になっていた。
外の木壁も綺麗に直しているのだろうと容易に想像できる。
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