イケメンを自称する男
扉を突き破った人はギルド前の木壁にめり込んでいた。
木壁はガラスに石を投げつけてできた蜘蛛の巣状のように割れ…、顔面から突っ込み腰の部分で止まっていた。
その人の体制は下半身をだらしなく地面に伸ばしている。
私の身長より高い位置に突き刺さっている。
腰は多分…3メートル付近に突き刺さっており、足先は2メートルあたりだ。
「あの…生きてますか~」
話しかけても反応は無い。
そりゃあ壁がバキバキになるくらい頭を強く打ち付けたら大怪我だよね…。
私はその人の足を持ち、引っ張るがビクともしない。
「フぬぬぬ…うわ!」
右足の靴が脱げ、私は後ろへ転がる。
「痛たた…ん? お金…」
靴の中に金貨が数枚入っていた。
「お嬢ちゃん、そいつから離れな。そいつは報酬をパクったクソ野郎だ…」
吹っ飛んだ扉の方から、話しかけられ私は振り返る。
――目の前にはそりゃ~もう『どこの殺し屋だ!』と思うほどの強面がこちらに鬼の形相で…。いや鬼というのも甘ったるい…私に鬼以上の言葉が出てこないが、確かに鬼以上に恐ろしい顏…。そうだ、お母さんがぶちぎれた時と同じ感覚! そのレベルの形相が今私に話しかけてきているのだ。
「あ…あの、私…」
恐怖で声が震える。
「あ? どうした嬢ちゃん。俺の顔に何かついてるのかい?」
「いえ…別に何も…」
「ならいいんだ…これから家内と娘が待ってる店に行かなきゃなんねえってのに…。このくそったれと来たら…。ふ!」
強面のおじさんは木壁から出ている足を力強く握ると一気に引っ張り出した。
強面のおじさんは男の胸ぐらを掴み、睨みつける。
「おい…お前、なに伸びたふりしてんだごら…。ちゃっちゃと報酬の10%を払え」
「ははは…バレてたっすか…。いや~そんな無理難題を俺に言われても、お金なんて持ってないっすよ…ん? あれ…」
強面のおじさんは私が引っ張った時に脱げてしまった靴を手に取り男の目の前へぶら下げる。
――片手で男の人を持ち上げられるって…どれだけ力持ちなの…。
「おい…この靴はなんだ? 上手~く金を隠せるように加工されてるみてぇだが…」
「え~どうしてだろ~、俺~この靴さっき買ったばかりなんで分からないですよ~」
――凄いなこの人…どこまでも自分のやった罪を認めようとしない…。顔がちょっとイケメンでさらにウザイ…。
「はぁ…お前はいつもそうだな、優秀なくせに手癖が悪い! 女にはすぐ引っかかる! もっと冒険者らしくできねえのか、あぁ!」
「そんな小言、聞かされても~俺イケメンで優秀なんですよ!」
――うわ~。自分をイケメンって言う奴…どうなのよ。強面さん呆れて声を出せてませんよ。
「お前…信用無くすぞ」
「俺がいないと色々まずいですよね? いいんですか、俺がギルドをやめちゃっても。俺はやめてもいいんっすよ。だって王都に行けばもっといい報酬で働かせてもらえるんですから。俺がこの街にいるのはリーズさんっていう恩師がいるからですよ」
「なら、そのリーズの顔に泥を塗っているって気づかねえのか?」
「何言ってるんですか? リーズさんの顔に泥何て塗る訳ないでしょ。頭すら上がらないんですから!」
――この人ってバカなのかな…。こんな人が優秀なの…。フロックさんの方がよっぽど優秀だよ…。
「はぁ…リーズはこいつに世間体という知識を教えなかったのかね…」
「とりあえず放してもらえませんか、この手」
「分かった…ほらよ!」
強面のおじさんは思いっきり投げ飛ばした。
男は空中を舞いまたどこかの木壁にぶち当たるのではないかとひやひやしたが…、今回は上手く体勢を立て直し地面へ音もなく着地した。
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