1年間で分かった情報
私は部屋に戻り、ろうそくを手に取るといつもの場所よりも少し遠い場所に置いた。
今までは、ろうそくに手が届くか届かないかというほど近い位置で練習していたのだ。
その為、二○センチメートルほど離れた場所から魔法を練習する。
「今日からは少しずつ距離を放していこう。敵が目の前に来た時、魔法を放っても手遅れだもんね」
はじめは、火を全く灯せなかった。
ただ、日が経つにつれ成功していく回数はしだいに増えていく。
私はそれがうれしかった。
『日々成長している』そんな感覚が心地よかったのだ。
☆☆☆☆
五歳のころから魔法の練習を始めてから約一年……。
「『ファイア!』」
私が叫ぶと、ろうそくに火が付く。
「やった! ついに部屋の端から、部屋の端に置いてあるろうそくに火が付けれた。これで、この距離までなら自分をビーから守れる!」
私は未だに、蜂が嫌いで嫌いで仕方ない。まぁ、この世界ではビーと呼ぶのだけど。
一年間この村で生活してわかった重大なこと……。そう『ビーはいつも飛んでいる』と言うことだ。
日本ならば、冬など寒い時期に蜂が飛んでいるのを見る日はほとんどないが、この世界のビーはどうやら違う。
私が一年かけて調べた結果、村の天気は晴や雨、雪、雷、曇り、雪など。
地球とほとんど変わらなかった。
季節は春夏秋冬の四季はあるようだけど、月のどこで句切られているかはわからなかった。
一年は三六五日、だと神父に教えてもらった。
ビーが死ぬほど大っ嫌いな私は、なぜか一年間毎日ビーに出会った。
そう……、毎日出会ったのだ。私の方から外に出なくても、ビー自ら私の方へとやってくる。
恐ろしくて気が気ではない。何度発狂して失神したか……。
毎日毎日、私の部屋に一匹から二匹のビーが必ず迷い込んでくる。
私の嫌な気持ちを表すのならば、黒くつるっとした表面が特徴のゴキブリが部屋に毎日必ず現れるような感情だ。
いや、それでも生温いか……。
『殺人犯がいつも部屋に迷い込んでくる』といった方がいいかもしれない。
日本だったらそんな家、悪態付けてさっさと出て行った方がいい。なんなら、賠償金くらい容易く貰えるだろう。
私も何度か寝る場所を変えた。だが、効果はなかった。実家、助けてくれたお爺ちゃんの家、教会を転々としたがビーは必ず現れた。
ここまで来たらもう、ビーの呪いかと思った。
仕方ないので毎回追い払わなければならない。
ただ、私は動いている物体に魔法を上手く当てられない。
何度『ファイア』で焼き払おうとして、家を燃やしそうになったか。
そのため、毎回お母さんにビーを倒してもらっている。
お母さんはこの状況が別に普通のように振舞っている。
この間なんて……。
「キララ! いつまでビーに怖がっているの。子供のうちはまだいいけど、大人になったら自分でやるしかないのよ!」
なんて言うんだから。
じゃあ、お母さんは『自分を殺した生き物と出会った時、冷静でいられますか!』って言う話ですよ。
私は冷静でいられない。
だってビーにそっくりな、あのオオスズメバチに刺されて私は死んだのだから。
もう、ビーが怖すぎて神父様に対処法を聞いてみた。
「ビーですか? あの、火でよく燃える虫ですよね。いや~懐かしいですね。子供のころ、たいまつの火で燃やして遊びましたよ。ビーの巣を燃やした時の燃え上がりようは今でも思い出します。ほんと楽しかったですね~」
「ビーが怖くないんですか?」
「え、ビーが怖いか……? ですか。いえ、全く怖くありませんよ。火や魔法で簡単に倒せますし、動きもそこまで早くないです。何なら手でペチャンコにできますからね」
どうやら、この世界の人はビーを全く怖がっていないらしい。
何なら、ビーの針で刺されてもちょっと赤くはれて、痒くなるくらいで気にもしないらしい。『今年も夏が来たな…』って思う人もいるみたい。
『いや……、ビーは地球で言う蚊と同じ存在感って認識ですか!』
この世界の人はオオスズメバチを蚊と同等の虫だと思っていた。
地球でそんな人いる?
言うなれば……。
『あ! オオスズメバチがいた~、パンッ! いや~今年も夏が来たね~』と同じだ。
はは……、狂ってるよね。
――蜂に刺されたら痛いよ! 赤くはれる程度じゃないよ! 数回刺されたら死んじゃうんだよ! いやどうなんだろう……。私、この世界に来てからまだ一回も刺された覚えないから、痛いかどうかわからないけど……。いや、さすがに痛いよな。
ビーを見ると、どうしてもオオスズメバチが脳裏に思い出されてしまう。
私の死因……、仕事中に目の前に現れ、一度目の人生で最後に見た虫。
私をめった刺しにして殺した虫。
いつか克服できるかな。
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