感覚の共有
「えっと…、あの…お名前…」
「ああ! 俺の名前まだ言ってなかったな。俺の名前は『ドルト・パイソン』ってんだ。どうだ、強そうな名前だろ~」
ドルトさんは自慢げに腕の筋肉を見せびらかす。
「は…はい、そうですね…」
私は笑って誤魔化す。
――アイドル時代に一番使った技術。相手の発言、態度などに対してまともに反応をせず、受け流す。私はこの技術を使って荒波を乗り越えてきたと言っても過言じゃない。どうやらこの技術はこっちの世界でも通用するみたいだ。
「俺は、Bランク冒険者チーム、『バッファー団』って言う冒険者を纏めるリーダーをやってる。ここに居るむさ苦しい奴らは俺の団に所属しているんだ。ほら、お前ら! 嬢ちゃんに挨拶しろよー!」
「こんちゃーす!!」×バッファー団員
「こ…こんちゃーす…。えっと、私の名前はキララ・マンダリニアです…よろしくお願いします」
――す…凄い勢いであいさつされた…。どこかの強豪野球チームみたい。
「俺たちは今から依頼に向うところだったんだ。キララ嬢もギルドに何か用があって来たのかい?」
「はい、ちょっと相談したい話がありまして…」
「そうかい。ここのギルドマスターは強面だが妻子持ちの娘にデレデレ親ばか野郎だから怖がる必要はねえぜ。気さくに話しかけな。それじゃ~な、キララ嬢。困った時は、また俺達を頼りな。細かい仕事は苦手だが、魔物退治なら得意だ。力になるぜ! 」
「は…はい、ありがとうございます」
ドルトさんはバートンの背中に乗り、そのまま周りにいた冒険者さん達と一緒にどこかへ行ってしまった。
「レクー。なんかすごい人たちだったね…」
「はい…手足が僕の足と同じくらいの太さでしたね…」
「いや…そこまでじゃないと思うけど…」
ギルド前に大勢いたバッファー団と名乗る冒険者さん達はいなくなり、辺り一帯は一気に静まり返った。
「それじゃあ、レクーはここで待っててね」
「はい、分かりました」
レクーはギルドに備え付けられている厩舎で待っていてもらう。
「それじゃあ…ギルドの中に行きますか」
ギルドの外観は結構大きい。地球のコンビニよりは確実にデカい。
市役所よりちょっと小さいくらいの2階建てになっている建築物だ。
派手過ぎず質素すぎなくていい感じの外装。
ただの建物とは違う。
言うなれば高級な喫茶店の外装だ…。
デカデカと建物の一番よく見える看板に『バルディアギルド』と斜体に似たカッコいい字体で書かれている。
「あれだけ印象の強い人と初めに喋ったんだ、きっと中に入ったら普通の人ばかりで緊張しなくなるよ」
私の手は少し震えている。どうやら緊張しているらしい。
「キララ様でも緊張されるのですね」
「そりゃあ…するよ。だってギルドに初めて入るんだから。ベスパは緊張と無縁でいいね」
「そうですね…私は緊張という状態がよく分かりませんから。キララ様の体を観察しますと、心拍数の上昇によって血圧が上がり、全身の筋肉が引き締まる状態を緊張と言うのでしょうか?」
「ベスパ…そんなところまで私の状態が分かるの…ちょっと怖い…」
「仕方ないじゃないですか、私はキララ様のスキルであり魔力でもあるんですから。私とキララ様は一心同体の関係にあるんですよ」
「でも私はベスパの体調とか分からないよ?」
「それは私が感覚を切断しているからです。『聴覚共有』のように特定のスキル名を指示いただければ接続可能ですが、私の全感覚をキララ様と共有する利点がありませんので『聴覚』以外はほぼ切断しています」
「えっと…最悪な状況の例を説明してくれる」
「そうですね…、キララ様が私に『ファイア』を放ち、当たったとします。その場合何も感覚を共有していなければ私の体は燃え魔力がキララ様の体内に戻るだけですが…」
「が…」
「私の痛覚まで共有してしまうと、キララ様まで丸焦げになってしまうのです」
「え…こわ…そんな怖い事実なんでもっと早く言ってくれなかったの…。私…ベスパに何発『ファイア』撃ちこんでると思ってるの…。あの数だけ私が死んでたかもしれないなんて…」
「申し上げたように、利点は無いです。ですから私の感覚は常時キララ様と切断しているのですよ」
「絶対にべスパから私へ感覚を共有したらダメだからね!」
「勿論です。キララ様の身が危険にさらされてしまいますからね。十分心得ていますよ」
ベスパと話をしていたら、私の目の前に扉があった。
「は~…」
私は深呼吸を行い、扉に取り付けられている取っ手に手を掛ける。
押し扉になっており、子供の私でも滑らかに動くいい扉だ。
私はゆっくりと扉を押した。
少し開けて中を見た…。
そして…すぐさま扉を閉めた。
「どうなさったのですか? 早く入りましょう」
「いや…ちょっとなんかさ…。いやな予感がしたんだよね…」
私は扉の前から一歩隣へ移動した。
『ドガッシャン!!』
すると、ギルドの中から扉をぶち破って人が飛び出てきたではありませんか。
「な!…キララ様、どうなっているのですか!」
「さ…さぁ、私にも分からないよ…」
私がのぞいたとき、ギルドの中で何かが暴れていたのだ。
「とりあえず…、吹っ飛んでった人の無事を確認しにいこう…」
私は足早に扉をぶち壊して飛んできた人へ近づいていく。
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