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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~

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限界の限界の限界

 私は八から一〇キログラムほどの重りが入ったリュックを背負わされた。

 私だけではなく、男たちはざっと二〇キログラムの重りが入ったリュックを背負わされている。

 ミーナとメロアは男勝りな力持ちなので二〇キログラムの重りのリュック。サキア嬢は私と同じ。

 レオン王子だからといって優遇はなく、完全に騎士たちと同じ訓練に参加する。


「我々の鍛錬を体験してもらいます。騎士たちがどれほど厳しい鍛錬をこなしているのか身をもって知ってもらえば、より安心感が増すと思います」

「む、無理だった時はどうすれば……」

「フェニル様より、限界は超えさせろとの命令ですので無理な時こそ、本気になってもらいます」


 ニーバさんはどうやら、鬼教官からしい。鬼騎士団長。

 私は泣きだしたい気持ちになりながら、周りを見る。面倒くさそうなライアンとやる気満々なパーズ、気を引き締めているレオン王子、私と同じように泣きそうなスージア。

 ミーナは軽々脚を動かし、メロアもリュックを背負い直して笑っている。サキア嬢はすでに泣いている様子。


「では、騎士たちが走っている通路の上を走ってください。今回は限界を超えるまで走ってもらいます」


 ――さ、さっきも走ったのにぃいいっ!


 私は泣きごとを言いたかったが、やらなければ単位がもらえそうにない。フェニル先生も鬼すぎる。

 だが、走らなければならないと思うと、イライラがやる気に代わっている気がする。どうせやらないといけないんでしょ! やるよ、ああ、やってやるよ! みたいな感覚。

 でも、そんなの最初だけ。人一倍体力がない私はヘロヘロになりながら走った。

 大量の汗を掻き、地面に汗がぽたぽたと落ちる。時折、ベスパが飛んできて水とウトサ、ソウル、レモネの入った特製スポーツドリンクをスポーツ選手が使う特殊な構造の容器スクイズボトルごと持ってきた。

 私はスクイズボトルを握り、口の中に水分を噴射。脱水症状と熱中症にならないよう限界を超える。


「き、きついよぉ……」

「キララ様の汗が大地に吸収され、気化した魔力が闇属性の魔力を浄化しています。一周回ればフレイズ家の中の闇属性の魔力は完全に浄化されるでしょう。頑張ってください」


 ベスパは私の前を飛び、手足を振って応援してくる。ものすごくうざい動きだが、誰にも応援されないより、多少ましだった。

 汗で闇属性の魔力を浄化できるのならば、走ってやろうじゃないか。いきなり浄化したら、敵も気づくだろうが汗で浄化されるなど思ってもいないだろう。


 一周回ってくる前に膝が笑いだし、地面に倒れ込んだ。背中のリュックが汗を吸って重くなっている。ほんの数グラムだろうが、重さが天と地ほど差がある気がした。巨大な岩に押しつぶされているようで、立ち上がるのも難しい。

 確実に限界点だ。でも、ここで限界を超えないと、単位が取れない。

 単位のため、単位のため……。もう大学生のような性格になっていた私は笑う膝を無理やり立ち上がらせ、そのまま叫びだす。

 うおらあーとか、おんどらああっーとか、声を出すと疲れるが、一瞬だけでも力が出れば走れる。

 一周走り切って訓練場の中にいた生徒はサキア嬢とスージアだけだった。他の者はまだ、走っているらしい。


「し、死ぬ……、しぬぅ……」


 私はアンデッドのように地面に倒れ込み、体を引きずるようにして二人のもとに向かった。

 ベスパがコップに入ったスポーツドリンクを持ってくる。ストローが付いており倒れた状態でも飲めた。

 体温くらいのぬるさ。体に良いがキンキンに冷えていたほうが美味しいので、冷やした品をサキア嬢とスージアに差し出す。


「サキアさん、スージア、この飲み物を飲んでください。体に水と動くために必要な成分が入った飲み物です」

「ありがとう、キララさん。だ、大丈夫? 限界を超えすぎですよ」


 サキア嬢は私を心配してくれている様子。正座している状態から私が差し出したコップを受け取った。


「問題ありません。限界を超えないと、単位がもらえないので頑張っただけですから」

「キララは限界を超えた限界を超えているよ。努力が大好きなバカなんじゃないの?」


 スージアは私が限界を超えすぎていると言ってきた。よくよく考えてみたら限界ってもう走りたくないと思った時とか、何度も立ち止まったときくらいだっけ?

 ぶっ倒れて、気絶しそうになりながら、立ち上がり鬼気迫る声を出しながら走るのは限界を優に超えている者がすること?

 ちょっと、自分でも限界がよくわからない。毎回限界を超えさせられると、どこが限界なのかわからなくなってきた。


「まあ、私が限界だと思ったところで終わっているから、気にしないで」


 スージアにもスポーツドリンクを渡そうと思ったが、彼の額に汗を一つも掻いていないということに気付いた。

 彼の限界の低さにため息をつきながら、まあ、一応差し出す。


「いただきます」


 サキア嬢とスージアはスポーツドリンクをグイっと飲み込んだ。


「んんんんっ! な、なにこれ、水じゃない。さっぱりした飲み物だ……」

「透明だからただの水かと思ってたのに、さわやかな風味と飲みやすい味が付いている。こんな飲み物知らないんだけど」


 サキア嬢とスージアはどちらも、飲み物に感銘を受けている様子。

 まあ、飲み物と言っても現実世界のスポーツドリンクと味はほぼ一緒だ。なので、美味しいと感じるのは当たり前だろう。スポーツ飲料を作るのは素材さえあれば案外簡単だ。

 極端に言ってしまえば、水の中に塩と砂糖を入れて混ぜるだけ。でも、それだけだと飲みにくいので、レモン汁などでさわやかさを足している。

 貴重なソウルとウトサを使っている分、自分だけで飲みたいところだが、倒れられても困るのでコップ一杯分くらいは分け与えてもいいだろう。


 私たちがスポーツドリンクを飲みながら、残りの人たちを待っているとミーナとレオン王子が気絶しそうな形相でよぼよぼと歩いてくる。そのまま、地面に倒れ込んだ。


「ちょ、ちょ、二人とも」


 ある程度回復していた私はミーナとレオン王子のもとに寄る。両者ともに脱水症状を起こしている様子で、顔色が悪い。

 吸い飲みと言う先が長い器具を使い、ミーナとレオン王子にスポーツドリンクを飲ませた。

 すると、飛びかけていた意識がすーっと戻ってきて、過呼吸気味だったのが大事に至らない程度に回復した。


「は、走っていたら、途中から視界が真っ暗になって……、ああ、もう走っちゃだめだって思って、戻ってきた……」


 ミーナは、ハハッ、ハハッ、と笑いながら、疲れた表情を見せてくる。

 レオン王子は疲れすぎたのか、意識を取り戻した後すぐに眠りについた。

 サキア嬢とスージアが言っていたのはこういうことか。戻ってきた人がぶっ倒れていたら心配してしまう。こうなったら限界の限界を超えていることになるのか。

 私はビーにお願いしてミーナとレオン王子を木陰に移動させる。そのほうが熱中症にならない。今日の気温はそこまで高くないので、木陰に入れば涼しいのだ。

 少しすると、メロアとライアンが戻ってくる。大量の汗を掻き、地面に膝をついて四つん這いになった。


「はぁ、はぁ、はぁ……。うぅ……」


 両者は走りすぎたのか、普通に昼食を嘔吐していた。ディアがすぐに食べたので汚れていないが、両者も全力を出しすぎている。

 だが、いつまでたってもパーズが戻ってこない。

「あいつは常軌を逸している。誰かやめさせないと、寝ながら走るぞ……」

「ね、寝ながら走る?」

「あいつ、片目をつぶって半分寝られるらしい」

「はぁ?」


 そんな、イルカとかマグロみたいなことができるの?

 普通の人間はどう考えても無理でしょ。まあ、眠ることに関してはパーズに出来ないことはないのかもしれない。

 もし、本当に頭を片方ずつ眠らせられるのなら、体力と魔力が回復する『完全睡眠』によって延々と走り続けていられる。まあ、走るといった単純作業だけとかならいいんだけど。


 パーズはフレイズ家の騎士たちに混ざって鍛錬していても、疲れ知らずで最後までやり通していた。もう、鍛錬バカの称号を与えたい。

 私たちは走っただけでヘロヘロなのに、パーズはその後の重りを使った筋肉強化の鍛錬や剣を振る鍛錬もこなし、ほかの騎士たちですらヘロヘロの中、一人だけ楽しそうに鍛錬していた。さすがに、その姿を見た多くの者が、パーズを引いていた。


「あんな奴に勝てるのかな……」

「同情してあげる……」


 私はパーズの姿を見ているライアンの声に返事した。もう限界の限界の限界を超えている。はてさて、パーズはいったい何回の限界を超えているのだろうか。


「皆、よく頑張った。今日の鍛錬はここまで。明日もフレイズ領を守るため、己を鍛えていく。解散」


 ニーバさんの声を聴いた騎士たちはぞろぞろと蜘蛛の子を散らしたように広がった。


「パーズ、君は素晴らしい騎士になれるだろう。そのまま、精進するといい」

「はい、ありがとうございます!」


 パーズはニーバさんに褒められたのが相当嬉しかったのか、疲れているはずなのに笑顔を絶やさない。どれだけ、鍛錬バカなのだろうか。


「お前には限界ってのがないのか?」


 ライアンはパーズに向かって嫌味たらしくつぶやいた。


「限界はあるけど、超えたら超えた分だけ、楽しいじゃん。どこまで超えられるのか、自分でも知りたいし」


 パーズは悪魔かと思うほどの不気味な笑みを浮かべ、振っていた剣を鞘に納める。

 限界を超えられる快感を知ってしまった彼は、いくらでも努力できるスキルのおかげで、どんどん不気味になっていく。私とは違った意味で、人間離れしているようだ。

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