冒険者ギルドまで
「失礼いたしました…。ちょっとしたコミュニケーションのつもりだったのですが、面白くなってしまいまして」
「ベスパのコミュニケーション…基準どうなってるの…」
私達は会話をしながら、お目当てのパン屋さんに到着した。
しかし、毎度おなじみ大行列…。
今回は前来た時よりも行列が長い。
行列へ並んでいたら店内に入るだけで、時間がどれだけ掛かるのか分からない。
私達は…仕方なくその場を後にする。
「そうだ…ギルドに行って、仕事探している人がいないか聞いてこよっと」
休みができたからといって、仕事量が減るわけではない…。
牧場の発展を考えるならば、もっと人手が必要だった。
「キララ様、人を雇うのですか? ある程度なら私と私のお友達で何とかなりますよ。配達とか、牛乳をパックに入れる工程とか…掃除もできますし…、キララ様の魔力消費は激しくなりますけど…」
「確かにそうなんだけど…私のスキルに頼りすぎてもいけないと思うんだ。もし…私が牧場からいなくなった時、何もできなくなっちゃうでしょ」
「確かにそうですね、仕事を私達が全てやってしまうと、キララ様の役割が大きくなってしまいます。キララ様が旅に出ようと思っても気軽に行けなくなってしまいますね」
「そうでしょ…。だからさ、もう少し人を増やして役割を分担させたいんだよね。人を雇ったらその分多くのお金を払わなきゃいけないんだけど…、元々牛乳の原価はゼロみたいなものだし。雇う人にはお金を使っても良いかなって…」
「私が作る牛乳瓶も牛乳パックもほとんど山の素材から作成しておりますし、材料は主に草木ですので量さえ間違えなければ、無限に作成できますからね…。唯一お金のかかりそうな餌ですら、お爺さんの財布から出てますから…。そう考えると今お金を使っているのはキララ様のご家族に払っている給料のみ…。ご家族ですから儲けはほぼキララ様のもの…、ちゃっかり一番儲かってるのはキララ様なのでは…」
「違う違う、ちゃんと一人一人分けてるから。私が全部ふんだくってるみたいに言わないでよ」
「ちょっとからかってみただけですよ。どうですか? 面白かったですか?」
ベスパは私の頭の上をブンブン飛び回る…。
「あんまりお金のことでからかわない方が良いよ…嫌われるから」
「もしかして…私、キララ様に嫌われてしまいましたか?」
「大丈夫、元から嫌ってる」
「キララ様、酷いです~」
ベスパは私の前に飛び出して円を描くようにクルクル飛び回る。
「それで、ベスパ、ギルドはどこにあるの? 私、ギルドに初めて行くんだけど…」
飛び回っていたベスパはピタリと止まり、話始める。
「ギルドでしたら、すぐご案内できますよ」
「僕も知ってます、ギルドには一度行きましたから。何となくですけど…近くまで行けば分かると思います」
「そうなの? それじゃあ、レクーにお願いしようかな」
「はい、分かりました」
「ちょっと! キララ様~。私唯一の役割を奪わないでくださいよ~」
ベスパの顔は慌てふためき、短い手足を振り回す。
「はぁ…それじゃあベスパは上空からレクーがギルドまでの道を間違えないようにサポートしてあげて…」
「なるほど! 空を飛べるのは私しかいませんからね。お任せください、しっかりとレクーさんをサポートしてみせますよ!」
ベスパは浮上し私たちを見下ろす。にまーッとする顔は少しうざいが…まぁ仕方ない。
「それじゃあ、レクー。ギルドに向ってくれる」
「了解しました」
レクーは調子よく進み、一度も道を間違えずギルドの建物が見える所まで移動した。
ベスパはつまらなそうな顔をしている。それにしても、やはりレクーは優秀だ。一度行っただけで道が分かるなんて…。
「キララさん、ギルドはあそこだと思います」
「ほんとだ、ギルドって書いてある…。ありがとうレクー助かったよ」
私は荷台から一度降りてレクーの頭をなでる。
なぜ降りるかというと、周りの人たちもみんなバートンから降りていたからだ。
――凄い…この人たちみんな冒険者さんってやつかな…。ごっつい人が多い…。ボディービル大会じゃないよね…。
「お! 嬢ちゃんじゃねえか!」
「え… な…何でしょう、どこかでお会いしましたっけ…?」
つるつる頭のむさ苦しいマッチョなオジサンに話しかけられ、私は動揺してしまう。
服装は周りの冒険者さんらしき人達と同じく皮のグローブと鉄製の鎧を付け、楔帷子のようなインナーを着ている。背中には大きな斧を担ぎ、左腰には一本の剣が掛けられていた。
身長は多分180㎝くらい肩幅がデカいせいかもっと大きく見える。
丸太のように大きな腕と足、大木のような体…もう歴戦の猛者と言ってもいいんじゃないだろうか。
こんなごつい体をしているのに、顔はよく見るアメリカンなオジサン顔。何となくバイオハザードに出てきそうだ…。
「あ~覚えてないか。俺はこの前ネ―ド村で起こった瘴気の進行を食い止めるための援軍に参加した冒険者の1人なんだが…」
「あ! そうだったんですか。あの時に助けに来てくれた冒険者さんだったんですね、あの時は本当にありがとうございました。お礼も言えず申し訳ありません」
私は窮地を救ってくれたであろう冒険者さんに深々とお礼をする。
――全く覚えていない…どうしよう、こんなにインパクトある人なのに…。いや仕方ないか。だって…あの時の私、相当疲れてたから目の前しか見えなかったんだよね…。ちゃんと覚えてるの…ライトの魔法とちょっとカッコよかったフロックさんくらい…。
「いやいや、俺は何もしてねえよ。ちょっと瘴気に汚染されちまった動物を懲らしめてただけだ。ここにいる奴らも大体は援軍に参加したんだぜ」
オジサンは周りに目を向けたので、私も周りを見回す。
こちらの方に笑顔で手を振るゴリマッチョな冒険者さんたち。正直に言ってめっちゃ怖い…。
恐怖を押し殺し、私はとりあえず全方向に頭を下げた。
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