食材を取り寄せる
「えっと皆さん、落ちついてください。このことは出来るだけ伏せておいてください。今、フレイズ領は何かしらの攻撃を受けている可能性があります。その可能性が払しょくされるまで、皆さんはただただ普通の料理を作り続けてください」
私は料理人の皆さんに声をかけ、腐った食材を全てブラットディアの餌にした。ただ、真面な食材はほんの少しで、三人分を作るのでやっとだった。
食材を調達するのも難しそう。こりゃ、お腹がグーグーの状態で園外授業を受ける必要がありそうだ。
私は特に問題ないが、ミーナが一番大変だろう。
人の八倍の空腹を受けているわけだから、飢餓状態で死んでしまうのでは。
まあ、そうなる前に魔力を飲ませて苦しさを緩和させるけれど……。
私とミーナ、サキア嬢は真面な料理にありつけ、やっと夕食をいただく。
「まさか、フレイズ家がこんな危機的状況になっているなんて、思いもしなかったです」
サキア嬢は料理を優雅に食し、すぐに食べ終えた。
まあ、一人分の料理なので三〇分も掛からない。肉やスープ、パンと言ういつもの料理内容だが、料理人が一流だからか、あまり物のような食材でも普通に美味しかった。
「あぁ、もっと一杯食べたかった……」
ミーナは五分と掛からず、料理を食べきり、お腹を摩る。私の魔力をふんだんに混ぜ込んだので、空腹感は幾分かマシなはずだ。
「明日から八日間、食材の調達から色々大変。皆さん、食材を買う時は見た目と味、におい、触感、などさまざまな感覚から選ぶと思いますけど、全て私が選び、買ってきます。四の五の言わないでくださいね。不味い料理を出したら首になっちゃいますよ」
私の脅迫じみた発言に料理人たちは頷き、自分達の失態を隠すため私に協力してくれた。
質の良い料理のために、質の良い食材は不可欠。その料理を売る側も大変。
――ベスパ、フレイズ領内にある食材で真面な品を調べておいて。なければ、王都からマドロフ商会経由で、食料を調達。
「了解しました」
ベスパは闇のフレイズ領内に飛んで行った。質の良い生活のために質の良い料理を食べる。
それは必要不可欠なことだ。腐った料理なんて食べていたら、生活も腐っていく。
私は魔力が込めた水を花瓶に入れる。
その中に、吸水性のあるネアちゃんの糸を棒状にとどめたスティックを三本ほど入れ、匂い取りのような品を即席で作った。
その効果は絶大で料理場の闇の魔力を、吸収した。一日は持つだろう。
食事を終えた私達は部屋に戻る。各自の部屋に料理場に置いた品を置く。寝ている間に体が闇属性の魔力に侵食されるのを防ぐ。
一人一人で寝ると思っていたので、四つの部屋に置いたのだが、ミーナとサキア嬢は自分の寝室ではなく、私の寝室にやって来た。
なんなら、部屋の一人用のお風呂にも入ってくる始末……。
「もう、ぎゅうぎゅうすぎるでしょ……」
「えぇ~、良いじゃないですか。私達、女の子同士ですし~」
「ひ、一人でいると、なんか寂しいんだもん……」
一人用のお風呂といっても、大人が足を延ばせるくらい広い風呂桶なので、子供三人くらいなら入れる。
私の汗からにじみ出た魔力がお湯をキラキラと輝かせた。このお湯を使っても闇属性の魔力を弱められるだろう。
「うわ……、す、すっごい。お肌がつるつるになってる。なにこれなにこれ~」
サキア嬢は卵肌になっている腕を摩りながら笑みを浮かべた。胸にくっ付いている巨大な乳が視界に入って鬱陶しいったらありゃしない。私なんて、私なんて…………。
「キララと一緒に入ると、体がつやつやになるんだよ。もう、寮の皆、キララが入った後じゃないとお風呂に入った気がしないって言うんだけど、キララはもっぱら最後に入るから、皆、もやもやしてるの」
ミーナは自分のつやつやした尻尾を撫でながら微笑んでいた。
そりゃ、私が浸かったお風呂に皆が血眼になって入っていく姿など見たくない。
そもそも、私はミーナやモクルさんと一緒にお風呂に入りたいから最後に入っているだけ。
「あぁ~ん、キララさん、可愛すぎます~。なんで、こんなに可愛いんですか~」
サキア嬢は闇属性の魔力に侵食されていないからか、驚くくらい頬擦りしてくる。
私を猫か犬と間違えているんじゃないか。私が可愛いのは当たり前だ。
巨大な乳が体に押し付けられる不快感といったら、もう油を顔に塗り手繰られているくらい不愉快だ。
巨大な乳を私の前に持ってくるんじゃない。叩き斃したくなる。
私達はお風呂のお湯を使って体を洗い、シャワーで石鹸を流した。というのも、ユニットバスだったのだ。まあ、一部屋にお風呂があるだけありがたい。
ただ、他の人の体を洗っている場面が見えてしまうのが恥ずかしかった。
サキア嬢はわざと色っぽくしているんじゃないかと思う。ミーナは水しぶきが激しすぎて、見ていられなかった。
私のシャワーシーンなど、誰に需要があるかわからないが、髪を洗い終わった後に、近くにいたミーナとサキア嬢を見ると両者共に鼻血を流していた。
「え……、ちょ、大丈夫?」
「いや、ちょっと刺激が強くて……」
「神秘に触れると、火傷しちゃうのかな」
サキア嬢とミーナは鼻血を止めるために、鼻をつまみ、下を向く。女の子同士に何を興奮しているんだ、このおバカたちは……。
体を洗い終えた後、大きな布で体を拭く。備え付けられていた一個金貨八〇枚以上しそうな魔道具を使い、髪を乾かす。しっかりと風圧があり、温かかった。どれだけ、お金持ちなんだろうな。
下着を身に着け、皆で歯を磨く。まあ、私はパンツとキャミソールだけ。ブラジャーなんてつける必要がない。平だからね……。
ミーナはブラジャーを一応付けた方が良いくらい胸のふくらみがある。
サキア嬢は付けなきゃ服にテントが二つ出来てしまうだろう。同じ教室の馴染みで、彼女にあったブラジャーを作ってあげたら、超感謝された。
「うわっ、うわっ~、すっごい、かっる~い」
サキア嬢はブラジャーを付けた状態で、体を上下させ、胸を弾ませた。
そんなことするなよ……。私への当てつけか? と思いながらにらみつける。
女子高の修学旅行と疑わしいくらいラフな状態で、ユニットバスを出た。
「はぁ~、疲れた疲れた~」
「キララ~、ブラッシングして~」
ミーナは私に飛びついてくる。ベッドに押し倒された。
このベットが木製だったら、私は死んでいたかもしれない。
ブラシを手に取り、ミーナの髪の毛をブラッシングしていく。髪が終われば尻尾の毛も。
「んぁっ……、そ、そこ……、気持ちィい~」
ミーナの少々色っぽい声が、部屋に響く。だが、ブラッシングされているだけだ。聞き慣れているので、私は何ともないが、近くにいるサキア嬢はどこか熱っている。
「私も尻尾でぞくぞくしたかったです……」
「何言ってんの……」
「あ、キララ、そ、そこ、イィ~、あぅんぅ~っ」
サキア嬢とミーナは移動で疲れてしまったのか、先にベッドで横になって眠った。
自分の部屋に行けばいいのにと思いながら、まあ、こういうのも悪くないかと受け流す。
私は机の上に勉強道具を置いて、日課をこなす。他の人と差を付けたいとかそう言う考えはなく、やらないと卒業出来ない気がしてやらざるを得ないのだ。
私は天才じゃないのだから、少しでも努力しなければ……。
勉強していると、ベスパが戻って来て丸太の穴に入る。もぞもぞと体を動かして、顔を穴から出した。
「どうも、多くの店で食材の質が落ちているようです。食べる品は外から取り寄せた方が良いでしょう。今から食材を注文しておいた方が得策です」
「なるほど、この時間ならまだ間に合いそうだね」
フレイズ領に真面な食材がないとのことなので、マドロフ商会に食材を用意してもらうことにした。
ビー達に運ばせれば、送料無料。空を飛べば二、三時間で付く距離だし、食材は夜中の間に用意してもらおう。
さっき料理人に頼んで、一日の食材の量を聞いておいた。その量をマドロフ商会に注文しておく。
もちろん、ビーに手紙を持たせ、ルドラさんに送りつけるのだ。まあ、普段はこんな商売していない。だが、融通の利く商会なので問題ないだろう。
「じゃあ、ベスパ。すぐ、とどけてきて」
「了解しました」
手紙を持ったベスパは彗星の如く魔力の尾を引きながら、すっ飛んで行った。
彼が一番早い。スキルを使う機会も夜中にない。今から寝るだけなので問題ない。
ただ、ミーナと一緒に寝るのは少し怖い。なので、彼女の手足は固定させてもらう。
万が一、寝ぼけてスキルを使い、攻撃が体に入ったら死ぬからだ。
ネアちゃんの糸で、ミーナの手足を縛り、攻撃出来ないようにしておく。
キングサイズのベッドなので、三人並んでも悠々と寝られる。広いベッドに一人だと、寂しいが、三人並べば丁度いい具合。狭すぎず、広すぎず、まったり出来る。
「はぁ~、お休み……」
私は後頭部を枕に埋め、眠りについた。ベッドで寝られるだけで、心地がいい。
次の日、早朝に私は目を覚ました。ざっと午前五時。
キャミソールの下に手を突っ込んで、体をボリボリとかき、大きくあくびした後、窓を開ける。
まだ、日が昇っていないので少々暗いが、東側の窓に加え、フレイズ領の街並が一望できる。奥側の部屋の特権かな。ただ、やはり辛気臭い……。
「ふぐぐぐ~、はぁ~。さて、仕事仕事~」
仕事などないが、仕事と言ったほうがやる気が上がる変な体質だ。洗面所で顔を洗い、水差しからコップに水を入れて一気飲み干す。歯を磨き、髪を櫛で梳いて準備完了。




